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鬼畜魂(KICHIKU-KON ) 4

鬼畜魂対策浄化本部は、永田町の地下に存在する。薄暗いフロアの中央部には、360度モニター
が宙刷りになっていた。吹き抜けの2階構造で、上の階には複数の小部屋がある。一階には、
主に情報収集のためのチームが24時間体制でアラート通知の監視をしていた。

田所は実働第二部隊に所属し、鬼畜魂が宿った人間の特定および駆逐浄化を主要任務としていた。

政府の系列組織であるものの実際の現場は過酷を極め、鬼畜魂との戦闘で命を落とすものも
数多くあった。そのため、常にあらゆるところでメンバー募集広告を出しているぐらいだ。

活動のメインは日没後であることが多い。いや、日没後でなければ、今度は常軌を逸した紫外線量
に命を奪われかねないからだ。

2050年には回復すると言われていたオゾンホールは、科学者の予想を大きく裏切り、
逆に拡大していった。

その結果、地表における紫外線量が危険数値に近づきつつあった。人々の多くが地下への移住を
求める中、国の主たる機関はいち早く、一等地の地価を買占め、民間の地価専門不動産業者が
左団扇で乱売している最中にあった。

貧富の差が大きく影響し、大多数の一般人は、まだまだ地表での生活を余儀なくされていた。

対策浄化本部の支部は、全国に広がるが、ここ永田町は政治の中心でもあり、新しい情報が
もっとも集まる言わば情報集約地であった。

先ほどの曙町からの不気味な通信は、対策浄化本部ですぐさま声紋解読がなされ、
改定が繰り返されたマイナンバー制度の声紋登録データベースから、

広田紗江子のものであることが確認された。

田所はすぐさま部下の吉井を引き連れて、現場に急行することとなった。

田所は、黒縁の少しレトロなメガネをかける長身26歳。吉井は、それより少し背が低く、中肉でがっちり
したからだつきのガテン系の23歳。

しかしこのコンビは、見た目とはまったく異なる役割を果たす。田所は、パワータイプ。吉井は頭脳で
勝負するタイプである。

現場に到着した二人は、部屋から漂うむせ返るぐらいの血の匂いに顔をしかめ、ハンカチを口に当て
ながらくぐもった声で会話した。

「どうだ・・・助かりそうか?」

「主任。この状態では、もう死んでます。この血の池地獄みたいな部屋の様相からして、鬼畜魂
でしょうね」

「ああ、今月に入って、やたらと多くなったな」

5月の連休が明け、仕事に戻る人たちが増えてきたこの時期、確かになぜか鬼畜魂による被害が
拡大しているようだ。

「主任。ここにある肉のかたまり・・・なんだかわかりますか」

「ん?」

田所は、メガネの淵に手をかけ、かたまりを凝視した。

「これは」

「ええ、そうです、彼の心臓ですよ。胸のぽっかり開いた穴から零れ落ちたんじゃないです。
これは、鬼畜魂が意図して心臓を抜き出したかのようです」

死体検閲のプロでもある吉井が言うのだから、そうなのだろう。しかし、いつでもこうやって
クールに死体の分析をしている吉井には、いつでも違和感を感じる。 田所は、眉を寄せて
吉井の分析を聞き流そうとした。

部屋中に飛び散っている血しぶきや手に握られた金属バットの様子を見れば、壮絶な戦い
がなされたことが容易に想像がつく。

ふと、、、田所は、部屋のドアが蹴り破られていることに気づいた。廊下にも続いている血痕を
追っていく。

「主任、どうしたんすか?」

「吉井、お前も来い」

田所は、台所のゴミ箱のあたりが散乱している様子やさらに続く血痕が、

(ここを探せ)

と導いてくれているように感じた。

台所を右手に折れた奥の部屋の前に来たとき、田所は何かが蠢いているような変な感覚に
襲われた。眩暈によって、今にも吐きたくなるような気分だ。

「吉井、プラズマを用意しておけ」

プラズマとは、電離気体を応用した銃の名前だ。鬼畜魂の浄化メンバーだけが所有を認められている
特別な銃である。

「どうせ、このドアも壊れている」

一言小声で言ってから、田所は力任せにドアをぶち抜いた。すぐさまプラズマを構え、中の様子に
神経を集中させた。田所のプラズマは、吉井のそれとは違って、少し銃身が短い。そのかわり
彼は2丁使いであるがために、両手を左右に広げて、右側と左側のそれぞれにプラズマを構えた。
そして正面。


(チリンチリンチリン・・・)

開け放った窓に まさについっさっき「犯人」がくくりつけたと思われる南部鉄器の風鈴が
鳴り響いた。

短冊に残る血のあと。ついさっきまで「犯人・・・・。」

「いや、恐らく犯人は、電話をかけてきた主である広田紗江子だ。そして彼女が鬼畜魂そのもの。

さらには、あの仏さんは、広田紗江子の兄、広田克人ではないか・・・」

田所は、独り言のようにつぶやいた。


「主任、これをみてください」

吉井が手にしているのは、ブラッドPCと呼ばれる”血液機動パソコン”である。

ロシアの最先端テクノロジーチームが開発したとされ、極秘扱いになっている特殊なパソコンだ。
クローン人間研究の亜種とされてきた人間の血で機動するパソコン。それがブラッドPCである。

起動ではない、、、、”機動”

「ブラッドPCがなぜこんなところに?」

まさにこれは、紗江子が兄 克彦の血を注いだパソコンである。
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