防衛相 長距離巡航ミサイル導入を発表 「専守防衛に反せず」

防衛相 長距離巡航ミサイル導入を発表 「専守防衛に反せず」
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小野寺防衛大臣は、閣議の後の記者会見で、厳しさを増す安全保障環境に対応する必要があるとして、新たに、戦闘機に搭載する長距離巡航ミサイルを導入することを正式に発表しました。そのうえで小野寺大臣は、「導入は、いわゆる敵基地攻撃を目的としておらず、専守防衛に反するものではない」と述べました。
この中で小野寺防衛大臣は、戦闘機に搭載する長距離巡航ミサイルについて、「いっそう厳しさを増す安全保障環境を踏まえ、自衛隊員の安全を確保しつつ、わが国を有効に防衛するため、相手の脅威圏外から対処できる『スタンドオフミサイル』として導入する」などと述べ、新たに導入することを正式に発表しました。

具体的には、F35Aに搭載する、射程500キロでノルウェー製の「JSM」と、いずれもF15などに搭載する予定の射程900キロでアメリカ製の「LRASM」と「JASSM」で、このうち「JSM」は2021年度中に導入する方針です。

防衛省は8日、来年度予算案に「JSM」の取得費などとして22億円を、「LRASM」と「JASSM」を搭載する戦闘機の改修に向けた調査費として3000万円をそれぞれ追加で盛り込むよう要求しました。

小野寺大臣は、導入の意義について、「わが国に侵攻する敵の水上部隊や上陸部隊に近づくことなく、対処することで、より効果的かつ安全に各種の作戦を行うことが可能となる。北朝鮮の弾道ミサイルからわが国を守るイージス艦を防護する上でも必要不可欠だ」と説明しました。

そのうえで、小野寺大臣は、「長距離巡航ミサイルの導入は敵の基地を攻撃するいわゆる『敵基地攻撃』を目的としておらず、専守防衛に反するものではない」と述べました。

能力上は北朝鮮なども射程内に

防衛省が新たに導入することを発表した長距離巡航ミサイルは、最も射程が長いものでこれまで自衛隊が保有してきた戦闘機のミサイルの5倍以上になり、能力上は北朝鮮なども射程内に入ることになります。

防衛省が新たに導入することを決めたのは3種類のミサイルで、このうちアメリカ製の「JASSM」と「LRASM」という2つのミサイルは射程がおよそ900キロとされています。

また、ノルウェー製の「JSM」というミサイルは射程がおよそ500キロとされています。防衛省は、航空自衛隊のF15戦闘機や次期戦闘機として導入されるF35戦闘機などに搭載し、地上の目標物や洋上の艦艇を対象に使用することを想定しています。

現在、自衛隊が保有している戦闘機のミサイルは、最も長い射程が百数十キロで、新しいミサイルの射程は最も長いタイプで従来の5倍以上に距離が伸びることになります。

射程900キロのミサイルの場合、発射する場所によっては、北朝鮮の大部分のほか、ロシア極東の一部や東シナ海に面する中国の沿岸部が能力上は射程の範囲に入ることになります。

防衛省は新しい長距離巡航ミサイルについて、「あくまで日本を防衛するための装備だ。いわゆる敵基地攻撃を目的としておらず、専守防衛に反するものではない」としています。

敵基地攻撃と専守防衛

新たに導入されることになった長距離巡航ミサイルは、能力上は北朝鮮などが射程の範囲に入り、相手の基地を狙ういわゆる「敵基地攻撃」の武器にもなり得ます。

敵基地の攻撃をめぐっては、先制攻撃などが考えられ、防衛省は、基本的には専守防衛の政策とは合わないとしています。

ただし、昭和31年の鳩山総理大臣の答弁などで、日本が攻撃された場合にその防御としてほかに手段がないときに限り、相手のミサイル基地などを攻撃することは、憲法で認められた自衛の範囲に含まれるとされ、防衛省は憲法で認められる自衛の範囲に限っては専守防衛に矛盾はしないとしています。

長距離巡航ミサイルについて、防衛省は今後、運用のしかたを詳しく検討するとしていますが、憲法に基づいて戦後日本が一貫して保持する専守防衛との整合性がより重要になってきます。

「専守防衛」とは

「専守防衛」は、平和憲法の精神にもとづき、戦後、日本が一貫して保持してきた防衛の基本政策です。

相手から攻撃された時に初めて武力を行使し、武力行使の内容も必要最小限にとどめるとしています。

また、保持する防衛力、つまり自衛隊の装備も自衛のための必要最小限に限るとしていて、他国に脅威を与えるような軍事大国にならないという基本理念などが根底にあります。

航空幕僚長「より長いやりがいい」

防衛省が、戦闘機に搭載する長距離巡航ミサイルを導入すると発表したことについて、航空自衛隊トップの杉山航空幕僚長は8日の記者会見で「できるだけ長いやりというか、離れたところから隊員の安全を確保できるのが好ましい」と述べました。

この中で、杉山良行航空幕僚長は、長距離巡航ミサイルの必要性について、相手が離島に上陸した場合や弾道ミサイルへの警戒にあたるイージス艦が相手の艦船に狙われた場合に遠く離れた場所から使用する状況を想定していると説明しました。

そして、「この夏以降、イージス艦の防御という点で深刻度が増していることが1番大きく、できるだけ長いやりというか、離れたところから隊員の安全を確保できるのが好ましい」と述べ、今後、運用のしかたについて、さらに検討していく考えを示しました。

各国への影響については、「相手がどう思うかなので、私が予断をもって申し上げることではない」と述べるにとどまりました。

道下教授「抑止力高まる」

防衛省が長距離巡航ミサイルの導入を発表したことについて、安全保障政策に詳しい政策研究大学院大学の道下徳成教授は、「重要な転換点だと思うが、北朝鮮や中国、韓国といった国々も巡航ミサイルや弾道ミサイルなど、相当射程の長いミサイルを持っているので、そういう状況を考えれば、自然なことだ。例えば尖閣諸島を相手が武力で占領しようとした場合、日本が攻撃能力を持っていたら難しくなるので抑止力は高まると思う」と話しています。

また、防衛省が巡航ミサイルの導入はいわゆる敵基地攻撃を目的としていないと説明していることについては、「日本が敵基地攻撃に使わないという政策をとっていても、例えば北朝鮮は当然その能力を判断する。日本の意図とは違うかもしれないが、北朝鮮が巡航ミサイルで攻撃される可能性があると思えばより慎重にならざるをえないということで、抑止力として機能すると思う」と述べました。

植村教授「十分な議論なく非常に問題」

防衛省が長距離巡航ミサイルの導入を発表したことについて、安全保障が専門の流通経済大学の植村秀樹教授は、「今まで日本は敵の基地を攻撃するようなことはしない、そういう能力も持たないとしてきたが、その方針の転換につながる可能性がある。そうした重要な政策が非常に唐突に出てきたので、国民にとっては一体何が起ころうとしているのか、心配しなくてもいいのかどうかが分からない。国会の中で十分な議論が積み上げられない中で予算化が進むことは非常に問題だと思う」と指摘しています。

また、今回の導入が周辺国に与える影響については、「政府がいくら専守防衛の方針は変えないと言っても、相手にとっては攻撃的な防衛政策に転換するのではないかというおそれを抱かせる心配がある。相手に誤ったメッセージを与えずに日本の防衛を強化することが重要で、敵基地攻撃能力につながることはないのかきちんと議論すべきだ」と話しています。

防衛相 長距離巡航ミサイル導入を発表 「専守防衛に反せず」

小野寺防衛大臣は、閣議の後の記者会見で、厳しさを増す安全保障環境に対応する必要があるとして、新たに、戦闘機に搭載する長距離巡航ミサイルを導入することを正式に発表しました。そのうえで小野寺大臣は、「導入は、いわゆる敵基地攻撃を目的としておらず、専守防衛に反するものではない」と述べました。

この中で小野寺防衛大臣は、戦闘機に搭載する長距離巡航ミサイルについて、「いっそう厳しさを増す安全保障環境を踏まえ、自衛隊員の安全を確保しつつ、わが国を有効に防衛するため、相手の脅威圏外から対処できる『スタンドオフミサイル』として導入する」などと述べ、新たに導入することを正式に発表しました。

具体的には、F35Aに搭載する、射程500キロでノルウェー製の「JSM」と、いずれもF15などに搭載する予定の射程900キロでアメリカ製の「LRASM」と「JASSM」で、このうち「JSM」は2021年度中に導入する方針です。

防衛省は8日、来年度予算案に「JSM」の取得費などとして22億円を、「LRASM」と「JASSM」を搭載する戦闘機の改修に向けた調査費として3000万円をそれぞれ追加で盛り込むよう要求しました。

小野寺大臣は、導入の意義について、「わが国に侵攻する敵の水上部隊や上陸部隊に近づくことなく、対処することで、より効果的かつ安全に各種の作戦を行うことが可能となる。北朝鮮の弾道ミサイルからわが国を守るイージス艦を防護する上でも必要不可欠だ」と説明しました。

そのうえで、小野寺大臣は、「長距離巡航ミサイルの導入は敵の基地を攻撃するいわゆる『敵基地攻撃』を目的としておらず、専守防衛に反するものではない」と述べました。

能力上は北朝鮮なども射程内に

防衛省が新たに導入することを発表した長距離巡航ミサイルは、最も射程が長いものでこれまで自衛隊が保有してきた戦闘機のミサイルの5倍以上になり、能力上は北朝鮮なども射程内に入ることになります。

防衛省が新たに導入することを決めたのは3種類のミサイルで、このうちアメリカ製の「JASSM」と「LRASM」という2つのミサイルは射程がおよそ900キロとされています。

また、ノルウェー製の「JSM」というミサイルは射程がおよそ500キロとされています。防衛省は、航空自衛隊のF15戦闘機や次期戦闘機として導入されるF35戦闘機などに搭載し、地上の目標物や洋上の艦艇を対象に使用することを想定しています。

現在、自衛隊が保有している戦闘機のミサイルは、最も長い射程が百数十キロで、新しいミサイルの射程は最も長いタイプで従来の5倍以上に距離が伸びることになります。

射程900キロのミサイルの場合、発射する場所によっては、北朝鮮の大部分のほか、ロシア極東の一部や東シナ海に面する中国の沿岸部が能力上は射程の範囲に入ることになります。

防衛省は新しい長距離巡航ミサイルについて、「あくまで日本を防衛するための装備だ。いわゆる敵基地攻撃を目的としておらず、専守防衛に反するものではない」としています。

敵基地攻撃と専守防衛

新たに導入されることになった長距離巡航ミサイルは、能力上は北朝鮮などが射程の範囲に入り、相手の基地を狙ういわゆる「敵基地攻撃」の武器にもなり得ます。

敵基地の攻撃をめぐっては、先制攻撃などが考えられ、防衛省は、基本的には専守防衛の政策とは合わないとしています。

ただし、昭和31年の鳩山総理大臣の答弁などで、日本が攻撃された場合にその防御としてほかに手段がないときに限り、相手のミサイル基地などを攻撃することは、憲法で認められた自衛の範囲に含まれるとされ、防衛省は憲法で認められる自衛の範囲に限っては専守防衛に矛盾はしないとしています。

長距離巡航ミサイルについて、防衛省は今後、運用のしかたを詳しく検討するとしていますが、憲法に基づいて戦後日本が一貫して保持する専守防衛との整合性がより重要になってきます。

「専守防衛」とは

「専守防衛」は、平和憲法の精神にもとづき、戦後、日本が一貫して保持してきた防衛の基本政策です。

相手から攻撃された時に初めて武力を行使し、武力行使の内容も必要最小限にとどめるとしています。

また、保持する防衛力、つまり自衛隊の装備も自衛のための必要最小限に限るとしていて、他国に脅威を与えるような軍事大国にならないという基本理念などが根底にあります。

航空幕僚長「より長いやりがいい」

防衛省が、戦闘機に搭載する長距離巡航ミサイルを導入すると発表したことについて、航空自衛隊トップの杉山航空幕僚長は8日の記者会見で「できるだけ長いやりというか、離れたところから隊員の安全を確保できるのが好ましい」と述べました。

この中で、杉山良行航空幕僚長は、長距離巡航ミサイルの必要性について、相手が離島に上陸した場合や弾道ミサイルへの警戒にあたるイージス艦が相手の艦船に狙われた場合に遠く離れた場所から使用する状況を想定していると説明しました。

そして、「この夏以降、イージス艦の防御という点で深刻度が増していることが1番大きく、できるだけ長いやりというか、離れたところから隊員の安全を確保できるのが好ましい」と述べ、今後、運用のしかたについて、さらに検討していく考えを示しました。

各国への影響については、「相手がどう思うかなので、私が予断をもって申し上げることではない」と述べるにとどまりました。

道下教授「抑止力高まる」

防衛省が長距離巡航ミサイルの導入を発表したことについて、安全保障政策に詳しい政策研究大学院大学の道下徳成教授は、「重要な転換点だと思うが、北朝鮮や中国、韓国といった国々も巡航ミサイルや弾道ミサイルなど、相当射程の長いミサイルを持っているので、そういう状況を考えれば、自然なことだ。例えば尖閣諸島を相手が武力で占領しようとした場合、日本が攻撃能力を持っていたら難しくなるので抑止力は高まると思う」と話しています。

また、防衛省が巡航ミサイルの導入はいわゆる敵基地攻撃を目的としていないと説明していることについては、「日本が敵基地攻撃に使わないという政策をとっていても、例えば北朝鮮は当然その能力を判断する。日本の意図とは違うかもしれないが、北朝鮮が巡航ミサイルで攻撃される可能性があると思えばより慎重にならざるをえないということで、抑止力として機能すると思う」と述べました。

植村教授「十分な議論なく非常に問題」

防衛省が長距離巡航ミサイルの導入を発表したことについて、安全保障が専門の流通経済大学の植村秀樹教授は、「今まで日本は敵の基地を攻撃するようなことはしない、そういう能力も持たないとしてきたが、その方針の転換につながる可能性がある。そうした重要な政策が非常に唐突に出てきたので、国民にとっては一体何が起ころうとしているのか、心配しなくてもいいのかどうかが分からない。国会の中で十分な議論が積み上げられない中で予算化が進むことは非常に問題だと思う」と指摘しています。

また、今回の導入が周辺国に与える影響については、「政府がいくら専守防衛の方針は変えないと言っても、相手にとっては攻撃的な防衛政策に転換するのではないかというおそれを抱かせる心配がある。相手に誤ったメッセージを与えずに日本の防衛を強化することが重要で、敵基地攻撃能力につながることはないのかきちんと議論すべきだ」と話しています。