ワールドマーケティングサミット2つ目の講演は富士フイルムの古森会長による危機に対応するためのイノベーションの実話。
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2年前のワールドマーケティングサミットでも、日本企業がなぜイノベーションができないのかという議論で、ウォルコット氏が、何言ってるんだ日本には同じ業態のコダックが破綻した一方で、イノベーションに成功した富士フイルムのような成功事例があるじゃないか、と話題に出ていたのをよく覚えていますが。
今回はその当事者であった古森さんが生々しく裏話を語っていただき大変刺激になりました。

最近は残念な日本の大企業の不祥事が話題になることが多いですが、昭和の高度経済成長期の成功体験を背景にした大企業病と、本当の意味での日本企業の強みとか日本企業らしさというのは、ちゃんと分けて議論しないとダメだなと改めて感じさせられる逸話です。

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■Innovation Out of Crisis
 富士フイルムの経営改革

 富士フイルムホールディングス 代表取締役会長CEO 古森 重隆氏
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■富士フイルムは、2000年当時、売上の6割、利益の7割を締めていた写真フィルムのビジネスを、4~5年であっという間に失ってしまった。
 その時の経験を元に企業経営についてお話ししたい。

■企業経営とは
 コトラー教授がお話しされていたこととまさに同じ
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・価値のある商品やサービスを社会に提供する
 ↓
・売上と収益を獲得
 ↓
・収益を未来に向けて投資することで、次の価値を創り出し、組織を存続していく

 企業の存立の目的は、世の中に価値を提供するということ。
 もう一つ重要なのは、企業というのは合理的、生産的な組織であるからこそ、その価値を失わないために継続することが大事。今だけ良ければ良いというのはダメ。
 短期の利益だけを重視した経営ではダメで、長期を見た投資をしなければならない。

■富士フイルムHDについて
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・従業員が8万人、子会社が277社
・売上高2兆3222億円 

■カラーフィルムの世界総需要
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・2000年に向けて成長し続けピークをうったのち、2002年から急減。10年しないうちに20分の1ぐらいになってしまった。
・フィルムの技術は180年かけて進化してきた素晴らしい技術だったが、あっという間にデジタル技術に置き換えられてしまった。
・フィルムがデジタルに置き換えられるのは、80年代の頃から予見はできていた。
・そこで危機意識を持って薬やインクジェットなど新しい事業に次々に取り組んだが、写るんですの大成功などもあり写真のフィルム事業が伸び続けていたので、全てやめてしまった歴史がある。
・その後、最初にフルデジタルのカメラを開発したのは富士フイルムだった。
・Finepix7というコンシューマー向けのデジカメを発売したのも富士フイルム。
・それにより複数のメーカーがデジタルカメラに参入し、コア事業であるフィルムが急減することが2002年頃には予見できた。
・その時に社長として考えたのが3つ
 ・フィルムに代わる新しい成長戦略を描けるのか
 ・世界中にある工場や研究所のリストラと構造改革
 ・富士ゼロックスとの連結経営の強化

■技術の棚卸し
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・アンゾフのマトリクスで、既存の市場と新規の市場、既存の技術と新規の技術の組み合わせで各事業を検討
・重点事業分野策定の3つのポイント
 ・成長市場か
 ・技術はあるか(社員に市場への知識があるか)
 ・継続的に競争力を持ち続けることができるか
・これによりヘルスケアやデジタルイメージングなどを注力事業に絞り、既存事業のリストラを実施して、注力事業に多額の投資を実施した。
・リストラは、55歳の人に割り増しの退職金を出すなどの対応をし、特約店は買い上げるなどの対応をした。
・これらの努力によって、最大の危機は乗り越えることができた。
 この変化ができたのは社員のお陰。

■新たな成長へ
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 現在は各事業を3つのフェーズに分類
・未来を創る投資
・成長を加速
・収益力の向上

■発展し続ける企業とは
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・環境の変化に応じ、変化し続け、成長し続ける企業
 =絶えず新しい製品や価値を生み出し続ける開発力と企業文化を持った企業

・自ら変化を作り出す企業ではないか。


・コダックは、富士フイルムと同じくフィルム事業をしていて当時売上は20倍以上だった。
 その後コダックに追い着け追い越せで努力をし、1977年に高感度のカラーフィルムを作ることができ、コダックに技術で追い着き、1990年は世界各地でコダックと互角の競争をすることができた。
 
・その後デジタル化の変化にコダックは対応できず、破産することになった。
 富士フイルムは変化に対応して生き残ることができた。

・この違いは何だったのか?
 ・1980年には、コダックも富士フイルムも同じようにデジタルのメーカーになろうと対応した。
 ・両者共に自社のカニバリが問題になり、フィルムが伸びていたこともあり、コダックはモラトリアムに陥って変化の手を休めてしまった。
  その過程でも富士フイルムは、デジタルカメラへの挑戦を先頭を切って取り組んでいた。この違いは大きかった
 ・また、コダックは当初中国ではアナログの既存事業が延命できると判断するなど戦略が迷走した。富士フイルムはデジタルへの変化は中国も含めて不可避と判断していた。
 ・また当時スーパー301条など、コダックは富士フイルムとの競争に注力しすぎていた。コダックが戦うべきは富士フイルムではなくデジタルだったはず。
 ・またコダックは投資を小出しにしていたが、富士フイルムは思い切った投資を実施することができた。特に大きいのは、現在の株主にいい顔をするため、直近の利益を重視して投資を渋っていたように感じている。

■有事のリーダーに必要な考え方・やるべきこと
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 平時のリーダーに必要なことはウォッチャーであること
 有事のリーダーに必要なことは
・経営者の強い意志
・スピード
・ダイナミズム
・プライオリティ

・有事のリーダーの7P
 ・Photo    現状を把握する
 ・Predict   将来を予測する
 ・Plan     数字をシミュレーションし、プライオリティを決める
 ・People    社員一人一人に明確なメッセージを発信する
 ・Perform   実行する
 ・Passion   情熱、率先垂範、断固としてやり抜く
 ・Philosophy  リーダーとしての哲学、大局観