リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士・トレーナーによる「最新の研究をトレーニングにつなげるための記録」

筋トレの効果を最大にする「関節を動かす範囲」について知っておこう

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 トレーニングで関節を大きく動かすとキツくて、動かす範囲を少なくするとラクになるのは何故なのでしょうか?

 

 例えばアームカールで、肘をしっかり伸ばしたところから、しっかり曲げるフルレンジのトレーニングよりも、中間の角度で小さく動かすパーシャルレンジのトレーニングのほうがラクに感じることがあると思います。

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 このように感じるのは、筋肉によって関節を動かす力が、筋肉の長さによって影響されるからです。

 

 筋肉には、力を発揮しやすい筋肉の長さがあります。筋肉を顕微鏡でのぞいてみると、アクチンとミオシンといった筋タンパク質があり、これらがもっとも重なりあう筋肉の長さを「生体長」といいます。筋肉がこの生体長にあるとき、もっとも力を発揮できるのです。

 

 そして生体長より長くても、短くても発揮できる力は減少します。この関係は曲線にして見てみるとわかりやすいです。

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図:Neuroscience fandamentals for rehabilitationより筆者作成

 

 アームカールでは主に上腕二頭筋が活動します。上腕二頭筋の長さは肘の角度によって決まります。肘の可動範囲はしっかり伸ばした0度から、しっかり曲げた140度まであり、この中間の角度である70度付近が上腕二頭筋の生体長となり、もっとも力を発揮できる角度なのです。

 

 そのため、アームカールをフルレンジ(0-140度)で行うよりも、パーシャルレンジ(50-100度)で行うほうが上腕二頭筋の力を発揮しやすく「ラク」に感じるのです。

 

 これはアームカールに限らず、スクワットやベンチプレス、懸垂などでも同じです。疲れてくると動かす範囲が少なくなってしまうのは、無意識に力を発揮しやすい生体長で動かそうとするからです。

 

 では、フルレンジやパーシャルレンジといった関節を動かす範囲によって筋トレの効果は異なるのでしょうか?

 

 今回は、関節を動かす範囲による筋トレへの効果と怪我のリスクについて考察していきましょう。

 

Table of contents

 

 

◆ フルレンジは筋肥大の効果を高める

 

 2012年、フィデラル大学のPintoらは、関節を動かす範囲の異なりによるトレーニング効果について報告しています。

 

 40名の被験者を募り、アームカールをフルレンジ(0-130度)で行うグループとパーシャルレンジ(50-100度)で行うグループに分けました。被験者は週2回のトレーニングを10週間継続しました。トレーニングの運動強度は、最初の1-2週は20RMで行い、その後、徐々に減らし、最終の9-10週では8RMで行っています。

 

 10週間のトレーニングを終えた結果、筋肥大の効果に差が認められました。パーシャルレンジよりもフルレンジのグループで明らかな筋肥大の増大が示されました。また、筋肥大の効果を示す効果量は、パーシャルレンジ(0.57)に比べてフルレンジ(1.09)は2倍の値を示していました。

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Fig.1:Pinto RS, 2012より筆者作成

 

 これらの結果から、Pintoらは筋肥大を目的とした場合、フルレンジのトレーニングが有用であると述べています。

 

 同様の結果は、スクワットにおいもて検証されています。

 

 2013年、コペンハーゲン大学のBloomquistらは、スクワットの角度の異なりによるトレーニング効果を検証しました。

 

 被験者を深いスクワット(膝0-130度)のグループと浅いスクワット(膝0-60度)のグループ分け、週3回のトレーニングを12週間継続しました。その結果、浅いスクワットに比べて、深いスクワットのグループの足の筋肉量は有意に増加しました。

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Fig.2:Bloomquist K, 2013より筆者作成

 

 この結果から、Bloomquistらは浅いスクワットに比べて、深いスクワットは筋肥大の効果を高めることを示唆しています。

 

 このようにパーシャルレンジよりもフルレンジにおいて筋肥大の効果の増大が認められており、筋肥大を目的としたトレーニングでは、フルレンジが効果的であるとされているのです。

 

 では、どうしてフルレンジは筋肥大の効果が高いのでしょうか?

 

 トレーニングによる筋肥大は、総負荷量によって決まります。総負荷量は運動負荷と運動回数をかけ合わせたものですが、近年、これに関節の動きの範囲も影響することがわかってきました。

筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

 

 フルレンジとパーシャルレンジでは、筋肉によって発揮される力が異なります。パーシャルレンジは筋肉の生体長に近い運動範囲のため、フルレンジよりも高負荷でトレーニングを行うことができます。パーシャルレンジで高負荷を得意げに挙げている人を見かけるのはこのためです。

 

 しかし、これを総負荷量でみると話は逆転します。

 

 運動負荷はパーシャルレンジが高くても、関節を動かす範囲の全体の負荷量ではフルレンジが大きくなります。結果として、フルレンジはパーシャルレンジよりも総負荷量が高くなり、筋肥大の効果が高まるのです。

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Fig.3:Baroni BM, 2017より筆者作成

 

 これがフルレンジで筋肥大の効果を得やすい理由であり、筋肥大を目的にした場合にフルレンジのトレーニングが推奨される理由なのです。

 

 では、パーシャルレンジとフルレンジでは、トレーニングによる怪我のリスクは異なるのでしょうか?



◆ フルレンジは筋肉へのダメージを高めやすい

 

 一般的に怪我のリスクはパーシャルレンジでのトレーニングが高いとされています。パーシャルレンジでは筋肉の長さが力を発揮しやすい生体長の範囲に近づくため、高負荷でのトレーニングが可能になります。しかし、高負荷でのトレーニングは関節への圧縮応力を高めます。そのため、パーシャルレンジでは怪我をしやすいとされているのです(Pinto RS, 2012)。

 

 ところが、フルレンジが安全かというと、そうではありません。

 

 2017年8月、フィデラル大学のBaroniらは、フルレンジとパーシャルレンジによる筋肉へのダメージについて検証しました。

 

 被験者をフルレンジ(0-130度)でアームカールを行うグループとパーシャルレンジ(50−100度)で行うグループに分け、最大筋力(1RM)の80%で10回4セットを行わせました。筋肉へのダメージは、最大筋力(ピークトルク)、肘を伸ばしたときの筋肉痛、触診による筋肉痛、肘の動きをアウトカムとし、トレーニング直後、24時間後、48時間後、72時間後に計測しました。

 

 その結果、フルレンジはパーシャルレンジに比べて、筋肉へのダメージが大きいことがわかったのです。

 

 トレーニング直後より、フルレンジでは、最大筋力が低下し、肘を伸ばしたときの筋肉痛や触診による筋肉痛が生じ、これが72時間後まで継続することが示されました。これに対して、パーシャルレンジは筋肉のダメージがあるものの、72時間後にはもとのベースラインに戻ることが示されました。

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Fig. 4:Baroni BM, 2017より筆者作成

 

 なぜ、フルレンジでは筋肉がダメージを受けやすいのでしょか?

 

 筋肉は筋肉の長さが生体長から短かったり、長かったりするときに負荷によるダメージが大きくなるとされています(Morgan DL, 1990)。Baroniらは、フルレンジはパーシャルレンジよりも筋肉を大きく伸ばしたり、縮めたりするため、筋肉へのダメージが大きく、回復が遅延したと推察してます。 

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 筋肉が発揮する力は筋肉の長さに依存しますが、筋肉のダメージも筋肉の長さによって影響をうけることが示唆されているのです。

 

 これらの結果からBaroniらは、フルレンジでトレーニングを行う場合は、筋損傷の回復時間がパーシャルレンジよりも延長することを考慮して、トレーニングプランを考えるべきであると述べています(Baroni BM, 2017)。

 

 

 筋肥大を目的としたトレーニングでは、やはりフルレンジが推奨されます。しかし、フルレンジによる過度な高負荷でのトレーニングは筋損傷を誘発し、回復を遅らせる可能性があります。適度な負荷でフルレンジのトレーニングを行うことによって総負荷量を高めることが筋肥大の効果を効率的に高めるのです。

 

 

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References

Pinto RS, et al. Effect of range of motion on muscle strength and thickness. J Strength Cond Res. 2012 Aug;26(8):2140-5.

Bloomquist K, et al. Effect of range of motion in heavy load squatting on muscle and tendon adaptations. Eur J Appl Physiol. 2013 Aug;113(8):2133-42.

Baroni BM, et al. Full Range of Motion Induces Greater Muscle Damage Than Partial Range of Motion in Elbow Flexion Exercise With Free Weights. J Strength Cond Res. 2017 Aug;31(8):2223-2230.

Morgan DL. New insights into the behavior of muscle during active lengthening. Biophys J. 1990 Feb;57(2):209-21.

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