子宮頸がん対策のHPVワクチンの安全性とその効果を科学的根拠に基づいて訴えてきた医師でジャーナリストの村中璃子氏がジョン・マドックス賞を受賞した。ネット界隈では、HPVワクチン懐疑論者とHPVワクチン接種を促さないメディアへの非難が改めて強まっている。副作用を訴える声が大きく報道されたあと、厚生労働省の積極的な推奨が2013年6月に一時中止され、地方自治体の公的補助が継続されているのにも関わらず、接種率が大きく下がったためだ。しかし、決定権があるのは政府や厚生労働省なので、副作用を訴える人やそれを報じるメディアを責めていてもはじまらない。むしろ、厚生労働省の消極的姿勢を責めるべきであろう。
副作用を考慮した上でもHPVワクチンの効果は認められている*1。しかし、子宮頸がんの目に見えるリスクは圧倒的に高いわけではない*2ので、ワクチン懐疑論とそれを報じるメディアは止められない。厚生労働省が積極的に推奨しないと接種率は上がらないのは、2010年から2016年の間に実証された*3。状況を決定する厚生労働省は「国民に適切な情報提供ができるまでの間、定期接種を積極的に勧奨すべきではない」と言う理由で、積極的な推奨を中止している。それから4年以上経ったのだが、「適切な情報提供」はいつになったらできるのであろうか。厚生科学審議会 (予防接種・ワクチン分科会 副反応検討部会)では、4年以上経った2017年後半になっても診療医を呼んでワクチン接種に関係なく見られる云々の話を聞いている。副作用として申告される症状を、ワクチン接種した集団と、していない集団で統計的に比較し過剰リスクを計算すれば済む話なのだが、決着をつけるための調査を行なわず、だらだらと引き延ばしている。
厚生労働省が及び腰なのが、反ワクチン運動家の声が大きいためか、それとも民主党時代の政策を否定して「日本を、取り戻す。」と言っていた安倍総理の意向なのかは分からないが、まったりし過ぎであろう。真面目にやっているが「適切な情報提供」ができないと言うことであれば、「適切な情報提供」自体を諦めてワクチン接種を推進するようにする必要があるであろう。もちろん、HPVワクチン程度の効果であればワクチン接種は推奨しないと言う方向に、公衆衛生政策自体を切り替える選択肢もあるが。
*1関連記事:子宮頚がんワクチンについて知っておくべき10のこと
*1ワクチン接種の子宮頸がん抑制効果を疫学的に評価するには何十年と言う時間が要るので、まだ子宮頸がん自体の抑制効果の疫学知見はないが、子宮頸がんの50%~70%の原因とされるHPVウイルスの特定株の感染を予防し、前がん病変の異形成を抑制することは各種研究で報告されている(子宮頸がん予防ワクチンQ&A,鈴木(2017)「HPVワクチンに関する最近の動向」平成29年2月日本産婦人科医会記者懇談会)。ワクチンの副作用についての調査結果は強い危険性を示唆するものはない。統計分析をしても重篤なものには有意性はほぼ無く、ある場合でも発生頻度を引き上げる程度は小さいとされる。毎年3,000人程度、子宮頸がんで死亡する女性が要るそうなので、体質的にワクチン接種が無理な人もいるので集団免疫の効果も込みになるが、毎年1,500人から2,100人ぐらいの命を助けるようだ。効能や副作用の評価が固まっている。
*2子宮頸がんはもともと人々が罹患するリスクを大して意識していないものなので、主観的な有り難味は薄い。風疹、麻疹、水疱瘡、おたふく風邪、水疱瘡あたりは、ワクチン接種をしておかなければ生涯のうち必ずかかると言ってよいぐらいの感染率・発症率があるので目につくが、HPVは性的接触を通じた感染症なので感染リスクは低い人は低く、またHPVに感染しても9割の人は自然に駆除してしまい、子宮頸がんには至らない。生涯罹患リスクは1%、累積死亡リスクは0.3%となっており(最新がん統計:[国立がん研究センター がん登録・統計])、消化器系や肺がんの方が大きいリスクだ。0.3%の累積死亡リスクを0.1%にしてくれると言われると、ワクチン接種意欲が減るかも知れない。子宮頸がんによる死亡率は上昇中だが、数字が何割になったりはしないであろう。
*313~16歳の女子の子宮頸がんリスクが上昇 ワクチン勧奨の中止が影響 | 最近の関連情報・ニュース | 一般社団法人 日本生活習慣病予防協会
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