2017年のJ1リーグは、2日に幕を閉じました。今季、担当した清水エスパルスは最終節でヴィッセル神戸に3-1で逆転勝利し、J1残留が決定しました。すでに全体練習は終了。1年間、いろいろなことがありました。そこで「取材ノートから」の清水編をお届けします。

 今季が始まって4試合が過ぎた3月29日、ブラジル人助っ人FWチアゴ・アウベス(24)の期限付き移籍での加入が発表されました。大宮アルディージャに移籍したFW大前元紀(27)に代わる前線の柱として、大きな期待が寄せられました。

 出場2試合目の4月21日アウェー川崎フロンターレ戦。後半34分から途中出場し、1点を追う後半ロスタイム5分でした。ドリブルでペナルティーエリア内に侵入し、そのまま左足で放ったグラウンダーのシュートがゴール右隅に決まり、土壇場で同点に追いつきました。実はこの試合、前半14分にFW金子翔太(22)が決めた先制点がJ1通算2万ゴールの節目弾でした。しかし、その後は2失点。2万ゴールを決めたのに負けるのか…と漂っていた嫌な雰囲気を初ゴールで一蹴し、パワーを見せつけました。

 チアゴは、アマゾン川に近いパラー州の出身です。1歳半の時に父を亡くしており、「お母さん1人で、ぜいたくはできなかった」。12人兄弟でしたがすでに4人が亡くなり、8人兄弟の7番目だそうです。小さい頃からサッカーが得意でしたが、母子家庭でお金がなくスパイクを買うよりも、食料を買うことが優先。ハングリー精神と書くと簡単ですが、本人の努力で名門サントスFCの下部組織に入り、ブラジル代表FWネイマールとポジション争いをしていたそうです。

 Kリーグでは得点王争いも経験し、アル・ヒラル(サウジアラビア)を経て清水へ。今季は4得点にとどまりましたが、どれも印象に残るスーパーゴールでした。

 今季の目標は9位以内でしたが、遠く及ばない14位でシーズン終了。クラブは小林伸二監督(57)との契約解除を5日に発表しました。16年にJ2に降格した清水の監督に就任し、1年でJ1復帰に導いた「昇格請負人」。今季のエピソードを少しだけ、ご紹介します。

 昨季と同じく、やはり「名前間違え」は起こりました。FW北川航也(21)、DF松原后(21)、MF杉山浩太(32)に加え、途中からMF清水航平(29)が加入したことで「コウ」の付く選手が4人も。囲み取材で話しているときに「コウヤ、コウ…いや、コウヘイ」と混乱する場面がありました。

 普段は明るく、笑顔がすてきな小林監督でしたが、シーズン終盤、厳しい残留争いに巻き込まれると険しい表情が増えました。夜は寝付けず、深夜に目覚めてしまうこともあったそうです。

 変わらなかったのは、サポーターへの思いです。いつも、スタジアムのゴール裏には「小林 清水」の横断幕が掲げられていました。キャンプ地にも、練習場にも、ありました。最終節のアウェー神戸戦では、何千人ものサポーター、市民が寄せ書きをしたオレンジの横断幕の真ん中に、掲げられていました。「あの横断幕を見ると、涙が出るほどうれしい。ありがたいと思う」と話していた表情は、とてもいい笑顔でした。

 J1復帰初年度、清水は残留をつかみとりました。今年の悔しさが、来季の糧になると思っています。

 ◆保坂恭子(ほさか・のりこ)1987年(昭62)6月23日、山梨県生まれ。埼玉県育ち。10年入社。サッカーや五輪スポーツ取材を経て、15年5月から静岡支局に異動。今年はJ1清水とJ3藤枝の担当。チアゴは、イタズラが大好き。記者が駐車場にいるとき、わざわざ横に止まって車のクラクションを鳴らしたり、チームメートの練習着に自分のサインを書いたり。おちゃめな性格です。