「電車、くるかな?」
突然、きみが言った。
「そりゃあくるよ。まもなく…」
そう言って接近表示を指すと、そこには「つうか」の文字が光っていた。
ごう、と音を立てて、特急の電車が目の前を通り過ぎていく。
きみの髪がなびいた。
「…」
「えっ」
かき消された声の方を見たとき、きみはとても晴れやかな顔をしていた。
「私、少しほっとしているみたい」
遠ざかる電車の音を聞きながら、「そう」としか言えなかった。
「それじゃあ」
「うん」
ようやくきた上りの列車に、わたしは乗る。
何も言えず、わたしときみとを隔てる白線を眺めていた。
「ありがとう」
ドアが締まる直前になんとか絞り出した声が、届いたかは分からない。
楽しかったよ。
きみは発車を待たず、トランクの向きを変えた。
いつものバスに乗って帰るのだろう。きっとすぐにくるよ。
もしあの時、電車がきていたら(しゃがしゃが)
きみは(しゃがしゃが)わたしは(しゃがしゃが)
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