2017年12月7日 06:00
株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)が5日、IoT事業に関する記者説明会を開催。IIJのIoT事業では、IoTの多岐にわたる技術要素のうち、ネットワークから始まり、デバイスゲートウェイ機器や、デバイス管理/データ収集蓄積までカバーしていることを示した。
IIJのIoT案件について「昨年度と比較すると倍増の傾向にあり、数としては数百ある」と岡田晋介氏(クラウド本部クラウドサービス2部ビッグデータ技術課長)は報告。「ただし、本格展開しているものはそのうち数割で、PoC(実証検証)案件が多い」として、「技術的課題はクリアになってきたが、具体的な利活用シーンはこれというものが出ていない」ことが課題だと語った。
「では、自分たちでもやってみよう」(岡田氏)という例として、農業IoTへの取り組みを齋藤透氏(ネットワーク本部IoT基盤開発部長)が紹介した。
開発する技術は、水田センサーと自動給水弁を開発し、LoRaWANで接続した無線基地局からLTEでクラウドに接続するものだ。農水省の「平成28年度補正予算 革新的技術 開発・緊急展開事業」に応募した。
このプロジェクトではコンソーシアムを組み、IIJのほか、農業ベンチャーの笑農和(えのわ)が自動給水弁を開発、農研機構がセンサーの最適配置や水管理コストの測定等を担当する。さらに、大規模農家もプロジェクトに参加する。
農業のIT化を阻む課題として、まず「もうからない」ことを齋藤氏は挙げた。「水田1枚で収入はよくて10万円ぐらい。そこに10万円のセンサーを入れるのでは割に合わない」と、コスト削減の重要性を氏は説明した。
そのほか、1年サイクルなので試行錯誤が難しいことや、農業とITの両方の知識を兼ね備えた人材が不足していること、オープン化がまだまだ進んでいないことが課題として語られた。
その上で、稲作のさまざまな作業の中でも、自動化しやすい水管理にフォーカスしたと、齋藤氏は狙いを語った。
システムとしては、水位・水温センサーを300個、給水弁を100個開発し、LoRaWAN基地局を通じてIIJのIoTサービスに接続する。「この規模までやっているところは少ないのではないか」と齋藤氏。今年度中に300個のセンサーと100個の給水弁を開発し、2018年度に試作機を設置して実証動作試験、2019年度に量産化に向けた効果検証や改良などを行う。
「やってみると机上で考えた設計はうまくいかず、泥や虫が詰まったりするのに対策しなくてはならない。バルブも、現地に行ってみるとそれぞれ物が違って同じものがないし、メーカーのウェブサイトもなくて電話帳で調べて連絡する必要があった」と齋藤氏は苦労を語った。
開発したあとは、技術をオープン化していくという。「IIJ1社ではできないので、むしろ全国に散らばるいろいろなメーカーと連携してエコシステムを作りたい」と齋藤氏。そのために日本農業情報システム協会(JAISA)とも協力しているという。
そのほか、IIJのIoTに関する実験や取り組みも展示された。例えば、オフィスの片隅に温度・湿度センサーを置いて、Raspberry Pi上のデータ収集基盤Fluentdを遠してIIJ IoTサービスで集計しているという。センサーからは温度と相対湿度が得られるので、そこから絶対湿度と不快指数を求めて一緒にグラフで表示していた。「安価なセンサーなので、人が触ったり息を吹き掛けただけでもデータがおかしくなるところも実験している」との話だった。
また、植物の栽培セット「ペロポン」に小型センサーを設置し、BLE・LoRaWAN・Sigfoxで接続してIIJ IoTサービスにデータを蓄積する装置も展示。さらに、NextDrive株式会社のIoTゲートウェイによるスマートハウスソリューションも紹介された。