(1)ア 放送は、憲法21条が規定する表現の自由の保障の下で、国民の知る権利を実質的に充足し、健全な民主主義の発達に寄与するものとして、国民に広く普及されるべきものである。放送法が、「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」などとする原則に従って、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的として制定されたのは、上記のような放送の意義を反映したものにほかならない。
上記の目的を実現するため、放送法は、公共放送事業者と民間放送事業者とがおのおのその長所を発揮し欠点を補い、放送により国民が十分福祉を享受することができるように図るべく、二本立て体制を採ることとし、その一方を担う公共放送事業者として日本放送協会(NHK)を設立して、その目的、業務、運営体制等を定め、NHKを民主的かつ多元的な基盤に基づきつつ自律的に運営される事業体として性格付け、これに公共の福祉のための放送を行わせることとしたものである。
放送法が、NHKにつき、営利を目的として業務を行うこと及び他人の営業に関する広告の放送をすることを禁止し、事業運営の財源を受信設備設置者から支払われる受信料によって賄うこととしているのは、特定の個人、団体又は国家機関等から財政面での支配や影響がNHKに及ぶことのないようにし、受信設備を設置することによりNHKの放送を受信することのできる環境にある者に広く公平に負担を求めることによって、NHKが上記の者ら全体により支えられる事業体であるべきことを示すものにほかならない。これに加え、放送法の制定・施行に際しては、放送法施行前の旧法下において実質的に聴取契約の締結を強制するものであった受信設備設置の許可制度が廃止されるものとされていたことをも踏まえると、放送法64条1項は、NHKの財政的基盤を確保するための法的に実効性のある手段として設けられたものと解される。
イ そして、放送法64条1項が、受信設備設置者はNHKと「その放送の受信についての契約をしなければならない」と規定していることからすると、放送法は、受信料の支払義務を、受信設備を設置することのみによって発生させたり、NHKから受信設備設置者への一方的な申込みによって発生させたりするのではなく、受信契約の締結(NHKと受信設備設置者との間の合意)によって発生させることとしたものであることは明らかといえる。放送法自体に受信契約の締結の強制を実現する具体的な手続は規定されていないが、民法及び民事訴訟法により実現されるものとして規定されたと解するのが相当である。
NHKは、NHKから受信設備設置者への受信契約の申込みが到達した時点で、あるいは遅くとも申込みの到達時から相当期間が経過した時点で、受信契約が成立する旨を主張する。しかし、NHKの財政的基盤を安定的に確保するためには、基本的には、NHKが、受信設備設置者の理解が得られるように努め、これに応じて受信契約が締結されることにより運営されていくことが望ましく、現に、放送法施行後長期間にわたり受信契約締結の承諾を得て受信料を収受してきた。放送法は、任意に受信契約を締結しない者について契約を成立させる方法につき特別な規定を設けていないのであるから、任意に受信契約を締結しない者との間においても、受信契約の成立には双方の意思表示の合致が必要というべきである。
ウ 受信契約の締結を強制するに当たり、放送法には、その契約の内容が定められておらず、一方、当事者たるNHKが策定する放送受信規約によって定められることとなっているが、受信契約の最も重要な要素である受信料額については、国会がNHKの毎事業年度の収支予算を承認することによって定めるものとされ、また、受信契約の条項はあらかじめ総務大臣の認可を受けなければならないものとされ、総務大臣は、その認可について電波監理審議会に諮問しなければならないものとされているのであって、放送法は、このようにして定まる受信契約の内容が、放送法に定められたNHKの目的にかなうものであることを予定していることは明らかである。また、放送法施行規則23条が、受信契約の条項には、少なくとも、受信契約の締結方法、受信契約の単位、受信料の徴収方法等の事項を定めるものと規定しており、NHKの策定した放送受信規約に、これらの事項に関する条項が明確に定められ、その内容が受信契約の締結強制の趣旨に照らして適正なものであり、受信設備設置者間の公平が図られていることが求められる仕組みとなっている。
(2)以上によると、放送法64条1項は、受信設備設置者に対し受信契約の締結を強制する旨を定めた規定であり、NHKからの受信契約申込みに対し受信設備設置者が承諾をしない場合には、NHKがその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め、その判決の確定によって受信契約が成立すると解するのが相当である。
(3)受信設備設置者が放送法64条1項に基づく受信契約の締結義務を受信設備設置後速やかに履行しないことは履行遅滞に当たるから、受信設備設置者に対し受信料相当額の損害賠償を求めることができる旨のNHKの主張については、受信契約の成立により受信設備の設置の月からの受信料債権が発生すると認められるのであるから、受信設備設置者が受信契約の締結を遅滞することによりNHKに受信料相当額の損害が発生するとはいえない。NHKが受信設備設置者との間で受信契約を締結することを要しないで受信料を徴収することができるのに等しい結果となることを認めることは相当でない。
NHK受信契約訴訟 最高裁の判決要旨
NHKの受信契約をめぐる訴訟で、最高裁判所大法廷が言い渡した判決の要旨は次のとおりです(15人の裁判官のうち14人の多数意見要旨)。
(1)ア 放送は、憲法21条が規定する表現の自由の保障の下で、国民の知る権利を実質的に充足し、健全な民主主義の発達に寄与するものとして、国民に広く普及されるべきものである。放送法が、「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」などとする原則に従って、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的として制定されたのは、上記のような放送の意義を反映したものにほかならない。
上記の目的を実現するため、放送法は、公共放送事業者と民間放送事業者とがおのおのその長所を発揮し欠点を補い、放送により国民が十分福祉を享受することができるように図るべく、二本立て体制を採ることとし、その一方を担う公共放送事業者として日本放送協会(NHK)を設立して、その目的、業務、運営体制等を定め、NHKを民主的かつ多元的な基盤に基づきつつ自律的に運営される事業体として性格付け、これに公共の福祉のための放送を行わせることとしたものである。
放送法が、NHKにつき、営利を目的として業務を行うこと及び他人の営業に関する広告の放送をすることを禁止し、事業運営の財源を受信設備設置者から支払われる受信料によって賄うこととしているのは、特定の個人、団体又は国家機関等から財政面での支配や影響がNHKに及ぶことのないようにし、受信設備を設置することによりNHKの放送を受信することのできる環境にある者に広く公平に負担を求めることによって、NHKが上記の者ら全体により支えられる事業体であるべきことを示すものにほかならない。これに加え、放送法の制定・施行に際しては、放送法施行前の旧法下において実質的に聴取契約の締結を強制するものであった受信設備設置の許可制度が廃止されるものとされていたことをも踏まえると、放送法64条1項は、NHKの財政的基盤を確保するための法的に実効性のある手段として設けられたものと解される。
イ そして、放送法64条1項が、受信設備設置者はNHKと「その放送の受信についての契約をしなければならない」と規定していることからすると、放送法は、受信料の支払義務を、受信設備を設置することのみによって発生させたり、NHKから受信設備設置者への一方的な申込みによって発生させたりするのではなく、受信契約の締結(NHKと受信設備設置者との間の合意)によって発生させることとしたものであることは明らかといえる。放送法自体に受信契約の締結の強制を実現する具体的な手続は規定されていないが、民法及び民事訴訟法により実現されるものとして規定されたと解するのが相当である。
NHKは、NHKから受信設備設置者への受信契約の申込みが到達した時点で、あるいは遅くとも申込みの到達時から相当期間が経過した時点で、受信契約が成立する旨を主張する。しかし、NHKの財政的基盤を安定的に確保するためには、基本的には、NHKが、受信設備設置者の理解が得られるように努め、これに応じて受信契約が締結されることにより運営されていくことが望ましく、現に、放送法施行後長期間にわたり受信契約締結の承諾を得て受信料を収受してきた。放送法は、任意に受信契約を締結しない者について契約を成立させる方法につき特別な規定を設けていないのであるから、任意に受信契約を締結しない者との間においても、受信契約の成立には双方の意思表示の合致が必要というべきである。
ウ 受信契約の締結を強制するに当たり、放送法には、その契約の内容が定められておらず、一方、当事者たるNHKが策定する放送受信規約によって定められることとなっているが、受信契約の最も重要な要素である受信料額については、国会がNHKの毎事業年度の収支予算を承認することによって定めるものとされ、また、受信契約の条項はあらかじめ総務大臣の認可を受けなければならないものとされ、総務大臣は、その認可について電波監理審議会に諮問しなければならないものとされているのであって、放送法は、このようにして定まる受信契約の内容が、放送法に定められたNHKの目的にかなうものであることを予定していることは明らかである。また、放送法施行規則23条が、受信契約の条項には、少なくとも、受信契約の締結方法、受信契約の単位、受信料の徴収方法等の事項を定めるものと規定しており、NHKの策定した放送受信規約に、これらの事項に関する条項が明確に定められ、その内容が受信契約の締結強制の趣旨に照らして適正なものであり、受信設備設置者間の公平が図られていることが求められる仕組みとなっている。
(2)以上によると、放送法64条1項は、受信設備設置者に対し受信契約の締結を強制する旨を定めた規定であり、NHKからの受信契約申込みに対し受信設備設置者が承諾をしない場合には、NHKがその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め、その判決の確定によって受信契約が成立すると解するのが相当である。
(3)受信設備設置者が放送法64条1項に基づく受信契約の締結義務を受信設備設置後速やかに履行しないことは履行遅滞に当たるから、受信設備設置者に対し受信料相当額の損害賠償を求めることができる旨のNHKの主張については、受信契約の成立により受信設備の設置の月からの受信料債権が発生すると認められるのであるから、受信設備設置者が受信契約の締結を遅滞することによりNHKに受信料相当額の損害が発生するとはいえない。NHKが受信設備設置者との間で受信契約を締結することを要しないで受信料を徴収することができるのに等しい結果となることを認めることは相当でない。
上記の目的を実現するため、放送法は、公共放送事業者と民間放送事業者とがおのおのその長所を発揮し欠点を補い、放送により国民が十分福祉を享受することができるように図るべく、二本立て体制を採ることとし、その一方を担う公共放送事業者として日本放送協会(NHK)を設立して、その目的、業務、運営体制等を定め、NHKを民主的かつ多元的な基盤に基づきつつ自律的に運営される事業体として性格付け、これに公共の福祉のための放送を行わせることとしたものである。
放送法が、NHKにつき、営利を目的として業務を行うこと及び他人の営業に関する広告の放送をすることを禁止し、事業運営の財源を受信設備設置者から支払われる受信料によって賄うこととしているのは、特定の個人、団体又は国家機関等から財政面での支配や影響がNHKに及ぶことのないようにし、受信設備を設置することによりNHKの放送を受信することのできる環境にある者に広く公平に負担を求めることによって、NHKが上記の者ら全体により支えられる事業体であるべきことを示すものにほかならない。これに加え、放送法の制定・施行に際しては、放送法施行前の旧法下において実質的に聴取契約の締結を強制するものであった受信設備設置の許可制度が廃止されるものとされていたことをも踏まえると、放送法64条1項は、NHKの財政的基盤を確保するための法的に実効性のある手段として設けられたものと解される。
イ そして、放送法64条1項が、受信設備設置者はNHKと「その放送の受信についての契約をしなければならない」と規定していることからすると、放送法は、受信料の支払義務を、受信設備を設置することのみによって発生させたり、NHKから受信設備設置者への一方的な申込みによって発生させたりするのではなく、受信契約の締結(NHKと受信設備設置者との間の合意)によって発生させることとしたものであることは明らかといえる。放送法自体に受信契約の締結の強制を実現する具体的な手続は規定されていないが、民法及び民事訴訟法により実現されるものとして規定されたと解するのが相当である。
NHKは、NHKから受信設備設置者への受信契約の申込みが到達した時点で、あるいは遅くとも申込みの到達時から相当期間が経過した時点で、受信契約が成立する旨を主張する。しかし、NHKの財政的基盤を安定的に確保するためには、基本的には、NHKが、受信設備設置者の理解が得られるように努め、これに応じて受信契約が締結されることにより運営されていくことが望ましく、現に、放送法施行後長期間にわたり受信契約締結の承諾を得て受信料を収受してきた。放送法は、任意に受信契約を締結しない者について契約を成立させる方法につき特別な規定を設けていないのであるから、任意に受信契約を締結しない者との間においても、受信契約の成立には双方の意思表示の合致が必要というべきである。
ウ 受信契約の締結を強制するに当たり、放送法には、その契約の内容が定められておらず、一方、当事者たるNHKが策定する放送受信規約によって定められることとなっているが、受信契約の最も重要な要素である受信料額については、国会がNHKの毎事業年度の収支予算を承認することによって定めるものとされ、また、受信契約の条項はあらかじめ総務大臣の認可を受けなければならないものとされ、総務大臣は、その認可について電波監理審議会に諮問しなければならないものとされているのであって、放送法は、このようにして定まる受信契約の内容が、放送法に定められたNHKの目的にかなうものであることを予定していることは明らかである。また、放送法施行規則23条が、受信契約の条項には、少なくとも、受信契約の締結方法、受信契約の単位、受信料の徴収方法等の事項を定めるものと規定しており、NHKの策定した放送受信規約に、これらの事項に関する条項が明確に定められ、その内容が受信契約の締結強制の趣旨に照らして適正なものであり、受信設備設置者間の公平が図られていることが求められる仕組みとなっている。
(2)以上によると、放送法64条1項は、受信設備設置者に対し受信契約の締結を強制する旨を定めた規定であり、NHKからの受信契約申込みに対し受信設備設置者が承諾をしない場合には、NHKがその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め、その判決の確定によって受信契約が成立すると解するのが相当である。
(3)受信設備設置者が放送法64条1項に基づく受信契約の締結義務を受信設備設置後速やかに履行しないことは履行遅滞に当たるから、受信設備設置者に対し受信料相当額の損害賠償を求めることができる旨のNHKの主張については、受信契約の成立により受信設備の設置の月からの受信料債権が発生すると認められるのであるから、受信設備設置者が受信契約の締結を遅滞することによりNHKに受信料相当額の損害が発生するとはいえない。NHKが受信設備設置者との間で受信契約を締結することを要しないで受信料を徴収することができるのに等しい結果となることを認めることは相当でない。
1 放送法64条1項の意義
(1)ア 放送は、憲法21条が規定する表現の自由の保障の下で、国民の知る権利を実質的に充足し、健全な民主主義の発達に寄与するものとして、国民に広く普及されるべきものである。放送法が、「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」などとする原則に従って、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的として制定されたのは、上記のような放送の意義を反映したものにほかならない。
上記の目的を実現するため、放送法は、公共放送事業者と民間放送事業者とがおのおのその長所を発揮し欠点を補い、放送により国民が十分福祉を享受することができるように図るべく、二本立て体制を採ることとし、その一方を担う公共放送事業者として日本放送協会(NHK)を設立して、その目的、業務、運営体制等を定め、NHKを民主的かつ多元的な基盤に基づきつつ自律的に運営される事業体として性格付け、これに公共の福祉のための放送を行わせることとしたものである。
放送法が、NHKにつき、営利を目的として業務を行うこと及び他人の営業に関する広告の放送をすることを禁止し、事業運営の財源を受信設備設置者から支払われる受信料によって賄うこととしているのは、特定の個人、団体又は国家機関等から財政面での支配や影響がNHKに及ぶことのないようにし、受信設備を設置することによりNHKの放送を受信することのできる環境にある者に広く公平に負担を求めることによって、NHKが上記の者ら全体により支えられる事業体であるべきことを示すものにほかならない。これに加え、放送法の制定・施行に際しては、放送法施行前の旧法下において実質的に聴取契約の締結を強制するものであった受信設備設置の許可制度が廃止されるものとされていたことをも踏まえると、放送法64条1項は、NHKの財政的基盤を確保するための法的に実効性のある手段として設けられたものと解される。
イ そして、放送法64条1項が、受信設備設置者はNHKと「その放送の受信についての契約をしなければならない」と規定していることからすると、放送法は、受信料の支払義務を、受信設備を設置することのみによって発生させたり、NHKから受信設備設置者への一方的な申込みによって発生させたりするのではなく、受信契約の締結(NHKと受信設備設置者との間の合意)によって発生させることとしたものであることは明らかといえる。放送法自体に受信契約の締結の強制を実現する具体的な手続は規定されていないが、民法及び民事訴訟法により実現されるものとして規定されたと解するのが相当である。
NHKは、NHKから受信設備設置者への受信契約の申込みが到達した時点で、あるいは遅くとも申込みの到達時から相当期間が経過した時点で、受信契約が成立する旨を主張する。しかし、NHKの財政的基盤を安定的に確保するためには、基本的には、NHKが、受信設備設置者の理解が得られるように努め、これに応じて受信契約が締結されることにより運営されていくことが望ましく、現に、放送法施行後長期間にわたり受信契約締結の承諾を得て受信料を収受してきた。放送法は、任意に受信契約を締結しない者について契約を成立させる方法につき特別な規定を設けていないのであるから、任意に受信契約を締結しない者との間においても、受信契約の成立には双方の意思表示の合致が必要というべきである。
ウ 受信契約の締結を強制するに当たり、放送法には、その契約の内容が定められておらず、一方、当事者たるNHKが策定する放送受信規約によって定められることとなっているが、受信契約の最も重要な要素である受信料額については、国会がNHKの毎事業年度の収支予算を承認することによって定めるものとされ、また、受信契約の条項はあらかじめ総務大臣の認可を受けなければならないものとされ、総務大臣は、その認可について電波監理審議会に諮問しなければならないものとされているのであって、放送法は、このようにして定まる受信契約の内容が、放送法に定められたNHKの目的にかなうものであることを予定していることは明らかである。また、放送法施行規則23条が、受信契約の条項には、少なくとも、受信契約の締結方法、受信契約の単位、受信料の徴収方法等の事項を定めるものと規定しており、NHKの策定した放送受信規約に、これらの事項に関する条項が明確に定められ、その内容が受信契約の締結強制の趣旨に照らして適正なものであり、受信設備設置者間の公平が図られていることが求められる仕組みとなっている。
(2)以上によると、放送法64条1項は、受信設備設置者に対し受信契約の締結を強制する旨を定めた規定であり、NHKからの受信契約申込みに対し受信設備設置者が承諾をしない場合には、NHKがその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め、その判決の確定によって受信契約が成立すると解するのが相当である。
(3)受信設備設置者が放送法64条1項に基づく受信契約の締結義務を受信設備設置後速やかに履行しないことは履行遅滞に当たるから、受信設備設置者に対し受信料相当額の損害賠償を求めることができる旨のNHKの主張については、受信契約の成立により受信設備の設置の月からの受信料債権が発生すると認められるのであるから、受信設備設置者が受信契約の締結を遅滞することによりNHKに受信料相当額の損害が発生するとはいえない。NHKが受信設備設置者との間で受信契約を締結することを要しないで受信料を徴収することができるのに等しい結果となることを認めることは相当でない。
上記の目的を実現するため、放送法は、公共放送事業者と民間放送事業者とがおのおのその長所を発揮し欠点を補い、放送により国民が十分福祉を享受することができるように図るべく、二本立て体制を採ることとし、その一方を担う公共放送事業者として日本放送協会(NHK)を設立して、その目的、業務、運営体制等を定め、NHKを民主的かつ多元的な基盤に基づきつつ自律的に運営される事業体として性格付け、これに公共の福祉のための放送を行わせることとしたものである。
放送法が、NHKにつき、営利を目的として業務を行うこと及び他人の営業に関する広告の放送をすることを禁止し、事業運営の財源を受信設備設置者から支払われる受信料によって賄うこととしているのは、特定の個人、団体又は国家機関等から財政面での支配や影響がNHKに及ぶことのないようにし、受信設備を設置することによりNHKの放送を受信することのできる環境にある者に広く公平に負担を求めることによって、NHKが上記の者ら全体により支えられる事業体であるべきことを示すものにほかならない。これに加え、放送法の制定・施行に際しては、放送法施行前の旧法下において実質的に聴取契約の締結を強制するものであった受信設備設置の許可制度が廃止されるものとされていたことをも踏まえると、放送法64条1項は、NHKの財政的基盤を確保するための法的に実効性のある手段として設けられたものと解される。
イ そして、放送法64条1項が、受信設備設置者はNHKと「その放送の受信についての契約をしなければならない」と規定していることからすると、放送法は、受信料の支払義務を、受信設備を設置することのみによって発生させたり、NHKから受信設備設置者への一方的な申込みによって発生させたりするのではなく、受信契約の締結(NHKと受信設備設置者との間の合意)によって発生させることとしたものであることは明らかといえる。放送法自体に受信契約の締結の強制を実現する具体的な手続は規定されていないが、民法及び民事訴訟法により実現されるものとして規定されたと解するのが相当である。
NHKは、NHKから受信設備設置者への受信契約の申込みが到達した時点で、あるいは遅くとも申込みの到達時から相当期間が経過した時点で、受信契約が成立する旨を主張する。しかし、NHKの財政的基盤を安定的に確保するためには、基本的には、NHKが、受信設備設置者の理解が得られるように努め、これに応じて受信契約が締結されることにより運営されていくことが望ましく、現に、放送法施行後長期間にわたり受信契約締結の承諾を得て受信料を収受してきた。放送法は、任意に受信契約を締結しない者について契約を成立させる方法につき特別な規定を設けていないのであるから、任意に受信契約を締結しない者との間においても、受信契約の成立には双方の意思表示の合致が必要というべきである。
ウ 受信契約の締結を強制するに当たり、放送法には、その契約の内容が定められておらず、一方、当事者たるNHKが策定する放送受信規約によって定められることとなっているが、受信契約の最も重要な要素である受信料額については、国会がNHKの毎事業年度の収支予算を承認することによって定めるものとされ、また、受信契約の条項はあらかじめ総務大臣の認可を受けなければならないものとされ、総務大臣は、その認可について電波監理審議会に諮問しなければならないものとされているのであって、放送法は、このようにして定まる受信契約の内容が、放送法に定められたNHKの目的にかなうものであることを予定していることは明らかである。また、放送法施行規則23条が、受信契約の条項には、少なくとも、受信契約の締結方法、受信契約の単位、受信料の徴収方法等の事項を定めるものと規定しており、NHKの策定した放送受信規約に、これらの事項に関する条項が明確に定められ、その内容が受信契約の締結強制の趣旨に照らして適正なものであり、受信設備設置者間の公平が図られていることが求められる仕組みとなっている。
(2)以上によると、放送法64条1項は、受信設備設置者に対し受信契約の締結を強制する旨を定めた規定であり、NHKからの受信契約申込みに対し受信設備設置者が承諾をしない場合には、NHKがその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め、その判決の確定によって受信契約が成立すると解するのが相当である。
(3)受信設備設置者が放送法64条1項に基づく受信契約の締結義務を受信設備設置後速やかに履行しないことは履行遅滞に当たるから、受信設備設置者に対し受信料相当額の損害賠償を求めることができる旨のNHKの主張については、受信契約の成立により受信設備の設置の月からの受信料債権が発生すると認められるのであるから、受信設備設置者が受信契約の締結を遅滞することによりNHKに受信料相当額の損害が発生するとはいえない。NHKが受信設備設置者との間で受信契約を締結することを要しないで受信料を徴収することができるのに等しい結果となることを認めることは相当でない。
2 放送法64条1項の憲法適合性
(1)放送法64条1項が憲法13条、21条、29条に違反するとの被告の主張は、《1》放送法が、NHKを存立させてその財政的基盤を受信設備設置者に負担させる受信料により確保するものとしていることが憲法上許容されるか、《2》上記《1》が許容されるとした場合に、受信料を負担させるに当たって受信契約の締結強制という方法を採ることが憲法上許容されるかという問題である。
(2)電波を用いて行われる放送は、電波の有限性などから、元来、国による一定の規律を要するものとされてきたといえる。旧法下においては、放送事業等は、行政権の広範な自由裁量によって監理統制されるものであったため、日本国憲法下において、このような状態を改めるべきこととなったが、具体的にいかなる制度を構築するのが適切であるかについては、憲法上一義的に定まるものではなく、憲法21条の趣旨を具体化する前記の放送法の目的を実現するのにふさわしい制度の定め方には立法裁量が認められる。そして、公共放送事業者と民間放送事業者との二本立て体制の下において、前者を担うものとしてNHKを存立させ、これを民主的かつ多元的な基盤に基づきつつ自律的に運営される事業体であるようにするためその財政的基盤を受信設備設置者に受信料を負担させることにより確保するものとした仕組みは、憲法21条の保障する表現の自由の下で国民の知る権利を実質的に充足すべく採用され、その目的にかなう合理的なものであると解されるのであり、なおその合理性が今日までに失われたとする事情も見いだせないのであるから、これが憲法上許容される立法裁量の範囲内にあることは、明らかというべきである。このような制度の枠を離れて被告が受信設備を用いて放送を視聴する自由が憲法上保障されていると解することはできない。
(3)受信料の支払義務を受信契約により発生させることとするのは、NHKが、基本的には、受信設備設置者の理解を得て、その負担により支えられて存立することが期待される事業体であることに沿うものであり、相当な方法である。受信契約の締結を強制するに当たり、放送法には、契約の内容が定められておらず、一方当事者たるNHKが策定する放送受信規約によってその内容が定められることとなる点については、放送法が予定している受信契約の内容は、NHKの目的にかなうものとして、受信契約の締結強制の趣旨に照らして適正なもので受信設備設置者間の公平が図られていることを要するものであり、放送法64条1項は、受信設備設置者に対し、そのような内容の受信契約の締結を強制するにとどまると解されるから、同法の目的を達成するのに必要かつ合理的な範囲内のものとして、憲法上許容されるというべきである。
(4)以上によると、放送法64条1項は、同法に定められたNHKの目的にかなう適正・公平な受信料徴収のために必要な内容の受信契約の締結を強制する旨を定めたものとして、憲法13条、21条、29条に違反するものではないというベきである。
(2)電波を用いて行われる放送は、電波の有限性などから、元来、国による一定の規律を要するものとされてきたといえる。旧法下においては、放送事業等は、行政権の広範な自由裁量によって監理統制されるものであったため、日本国憲法下において、このような状態を改めるべきこととなったが、具体的にいかなる制度を構築するのが適切であるかについては、憲法上一義的に定まるものではなく、憲法21条の趣旨を具体化する前記の放送法の目的を実現するのにふさわしい制度の定め方には立法裁量が認められる。そして、公共放送事業者と民間放送事業者との二本立て体制の下において、前者を担うものとしてNHKを存立させ、これを民主的かつ多元的な基盤に基づきつつ自律的に運営される事業体であるようにするためその財政的基盤を受信設備設置者に受信料を負担させることにより確保するものとした仕組みは、憲法21条の保障する表現の自由の下で国民の知る権利を実質的に充足すべく採用され、その目的にかなう合理的なものであると解されるのであり、なおその合理性が今日までに失われたとする事情も見いだせないのであるから、これが憲法上許容される立法裁量の範囲内にあることは、明らかというべきである。このような制度の枠を離れて被告が受信設備を用いて放送を視聴する自由が憲法上保障されていると解することはできない。
(3)受信料の支払義務を受信契約により発生させることとするのは、NHKが、基本的には、受信設備設置者の理解を得て、その負担により支えられて存立することが期待される事業体であることに沿うものであり、相当な方法である。受信契約の締結を強制するに当たり、放送法には、契約の内容が定められておらず、一方当事者たるNHKが策定する放送受信規約によってその内容が定められることとなる点については、放送法が予定している受信契約の内容は、NHKの目的にかなうものとして、受信契約の締結強制の趣旨に照らして適正なもので受信設備設置者間の公平が図られていることを要するものであり、放送法64条1項は、受信設備設置者に対し、そのような内容の受信契約の締結を強制するにとどまると解されるから、同法の目的を達成するのに必要かつ合理的な範囲内のものとして、憲法上許容されるというべきである。
(4)以上によると、放送法64条1項は、同法に定められたNHKの目的にかなう適正・公平な受信料徴収のために必要な内容の受信契約の締結を強制する旨を定めたものとして、憲法13条、21条、29条に違反するものではないというベきである。
3 判決の確定により発生する受信料債権の範囲
受信契約の承諾を命ずる判決の確定により発生する受信料債権の範囲
受信契約の内容を定める放送受信規約には、受信契約を締結した者は受信設備の設置の月から受信料を支払わなければならない旨の条項がある。同じ時期に受信設備を設置しながら、速やかに受信契約を締結した者と、その締結を遅延した者との間で、支払うべき受信料の範囲に差異が生ずるのは公平とはいえないから、上記の条項は、受信設備設置者間の公平を図るうえで必要かつ合理的である。上記の条項を含む受信契約の承諾の意思表示を命ずる判決の確定により同契約が成立した場合、同契約に基づき、受信設備の設置の月以降の分の受信料債権が発生するというべきである。
受信契約の内容を定める放送受信規約には、受信契約を締結した者は受信設備の設置の月から受信料を支払わなければならない旨の条項がある。同じ時期に受信設備を設置しながら、速やかに受信契約を締結した者と、その締結を遅延した者との間で、支払うべき受信料の範囲に差異が生ずるのは公平とはいえないから、上記の条項は、受信設備設置者間の公平を図るうえで必要かつ合理的である。上記の条項を含む受信契約の承諾の意思表示を命ずる判決の確定により同契約が成立した場合、同契約に基づき、受信設備の設置の月以降の分の受信料債権が発生するというべきである。
4 受信料債権の消滅時効の起算点
受信契約に基づき発生する、受信設備設置の月以降の分の受信料債権の消滅時効の起算点
消滅時効は、権利を行使できる時から進行するところ、受信料債権は受信契約に基づき発生するから、受信契約が成立する前には、NHKは、受信料債権を行使できない。通常は、受信設備設置者がNHKに対し受信設備を設置した旨を通知しない限り、NHKが受信設備設置者の存在を速やかに把握することは困難と考えられ、他方、受信設備設置者は受信契約締結義務を負うのであるから、受信契約を締結していない者について、これを締結した者と異なり、受信料債権が時効消滅する余地がないのもやむを得ない。受信契約に基づき発生する受信設備の設置の月以降の分の受信料債権の消滅時効は、受信契約成立時から進行すると解するのが相当である。
消滅時効は、権利を行使できる時から進行するところ、受信料債権は受信契約に基づき発生するから、受信契約が成立する前には、NHKは、受信料債権を行使できない。通常は、受信設備設置者がNHKに対し受信設備を設置した旨を通知しない限り、NHKが受信設備設置者の存在を速やかに把握することは困難と考えられ、他方、受信設備設置者は受信契約締結義務を負うのであるから、受信契約を締結していない者について、これを締結した者と異なり、受信料債権が時効消滅する余地がないのもやむを得ない。受信契約に基づき発生する受信設備の設置の月以降の分の受信料債権の消滅時効は、受信契約成立時から進行すると解するのが相当である。
NHK受信契約訴訟 最高裁の判決要旨
NHKの受信契約をめぐる訴訟で、最高裁判所大法廷が言い渡した判決の要旨は次のとおりです(15人の裁判官のうち14人の多数意見要旨)。
1 放送法64条1項の意義
2 放送法64条1項の憲法適合性
(1)放送法64条1項が憲法13条、21条、29条に違反するとの被告の主張は、《1》放送法が、NHKを存立させてその財政的基盤を受信設備設置者に負担させる受信料により確保するものとしていることが憲法上許容されるか、《2》上記《1》が許容されるとした場合に、受信料を負担させるに当たって受信契約の締結強制という方法を採ることが憲法上許容されるかという問題である。
(2)電波を用いて行われる放送は、電波の有限性などから、元来、国による一定の規律を要するものとされてきたといえる。旧法下においては、放送事業等は、行政権の広範な自由裁量によって監理統制されるものであったため、日本国憲法下において、このような状態を改めるべきこととなったが、具体的にいかなる制度を構築するのが適切であるかについては、憲法上一義的に定まるものではなく、憲法21条の趣旨を具体化する前記の放送法の目的を実現するのにふさわしい制度の定め方には立法裁量が認められる。そして、公共放送事業者と民間放送事業者との二本立て体制の下において、前者を担うものとしてNHKを存立させ、これを民主的かつ多元的な基盤に基づきつつ自律的に運営される事業体であるようにするためその財政的基盤を受信設備設置者に受信料を負担させることにより確保するものとした仕組みは、憲法21条の保障する表現の自由の下で国民の知る権利を実質的に充足すべく採用され、その目的にかなう合理的なものであると解されるのであり、なおその合理性が今日までに失われたとする事情も見いだせないのであるから、これが憲法上許容される立法裁量の範囲内にあることは、明らかというべきである。このような制度の枠を離れて被告が受信設備を用いて放送を視聴する自由が憲法上保障されていると解することはできない。
(3)受信料の支払義務を受信契約により発生させることとするのは、NHKが、基本的には、受信設備設置者の理解を得て、その負担により支えられて存立することが期待される事業体であることに沿うものであり、相当な方法である。受信契約の締結を強制するに当たり、放送法には、契約の内容が定められておらず、一方当事者たるNHKが策定する放送受信規約によってその内容が定められることとなる点については、放送法が予定している受信契約の内容は、NHKの目的にかなうものとして、受信契約の締結強制の趣旨に照らして適正なもので受信設備設置者間の公平が図られていることを要するものであり、放送法64条1項は、受信設備設置者に対し、そのような内容の受信契約の締結を強制するにとどまると解されるから、同法の目的を達成するのに必要かつ合理的な範囲内のものとして、憲法上許容されるというべきである。
(4)以上によると、放送法64条1項は、同法に定められたNHKの目的にかなう適正・公平な受信料徴収のために必要な内容の受信契約の締結を強制する旨を定めたものとして、憲法13条、21条、29条に違反するものではないというベきである。
(2)電波を用いて行われる放送は、電波の有限性などから、元来、国による一定の規律を要するものとされてきたといえる。旧法下においては、放送事業等は、行政権の広範な自由裁量によって監理統制されるものであったため、日本国憲法下において、このような状態を改めるべきこととなったが、具体的にいかなる制度を構築するのが適切であるかについては、憲法上一義的に定まるものではなく、憲法21条の趣旨を具体化する前記の放送法の目的を実現するのにふさわしい制度の定め方には立法裁量が認められる。そして、公共放送事業者と民間放送事業者との二本立て体制の下において、前者を担うものとしてNHKを存立させ、これを民主的かつ多元的な基盤に基づきつつ自律的に運営される事業体であるようにするためその財政的基盤を受信設備設置者に受信料を負担させることにより確保するものとした仕組みは、憲法21条の保障する表現の自由の下で国民の知る権利を実質的に充足すべく採用され、その目的にかなう合理的なものであると解されるのであり、なおその合理性が今日までに失われたとする事情も見いだせないのであるから、これが憲法上許容される立法裁量の範囲内にあることは、明らかというべきである。このような制度の枠を離れて被告が受信設備を用いて放送を視聴する自由が憲法上保障されていると解することはできない。
(3)受信料の支払義務を受信契約により発生させることとするのは、NHKが、基本的には、受信設備設置者の理解を得て、その負担により支えられて存立することが期待される事業体であることに沿うものであり、相当な方法である。受信契約の締結を強制するに当たり、放送法には、契約の内容が定められておらず、一方当事者たるNHKが策定する放送受信規約によってその内容が定められることとなる点については、放送法が予定している受信契約の内容は、NHKの目的にかなうものとして、受信契約の締結強制の趣旨に照らして適正なもので受信設備設置者間の公平が図られていることを要するものであり、放送法64条1項は、受信設備設置者に対し、そのような内容の受信契約の締結を強制するにとどまると解されるから、同法の目的を達成するのに必要かつ合理的な範囲内のものとして、憲法上許容されるというべきである。
(4)以上によると、放送法64条1項は、同法に定められたNHKの目的にかなう適正・公平な受信料徴収のために必要な内容の受信契約の締結を強制する旨を定めたものとして、憲法13条、21条、29条に違反するものではないというベきである。
3 判決の確定により発生する受信料債権の範囲
受信契約の承諾を命ずる判決の確定により発生する受信料債権の範囲
受信契約の内容を定める放送受信規約には、受信契約を締結した者は受信設備の設置の月から受信料を支払わなければならない旨の条項がある。同じ時期に受信設備を設置しながら、速やかに受信契約を締結した者と、その締結を遅延した者との間で、支払うべき受信料の範囲に差異が生ずるのは公平とはいえないから、上記の条項は、受信設備設置者間の公平を図るうえで必要かつ合理的である。上記の条項を含む受信契約の承諾の意思表示を命ずる判決の確定により同契約が成立した場合、同契約に基づき、受信設備の設置の月以降の分の受信料債権が発生するというべきである。
受信契約の内容を定める放送受信規約には、受信契約を締結した者は受信設備の設置の月から受信料を支払わなければならない旨の条項がある。同じ時期に受信設備を設置しながら、速やかに受信契約を締結した者と、その締結を遅延した者との間で、支払うべき受信料の範囲に差異が生ずるのは公平とはいえないから、上記の条項は、受信設備設置者間の公平を図るうえで必要かつ合理的である。上記の条項を含む受信契約の承諾の意思表示を命ずる判決の確定により同契約が成立した場合、同契約に基づき、受信設備の設置の月以降の分の受信料債権が発生するというべきである。
4 受信料債権の消滅時効の起算点
受信契約に基づき発生する、受信設備設置の月以降の分の受信料債権の消滅時効の起算点
消滅時効は、権利を行使できる時から進行するところ、受信料債権は受信契約に基づき発生するから、受信契約が成立する前には、NHKは、受信料債権を行使できない。通常は、受信設備設置者がNHKに対し受信設備を設置した旨を通知しない限り、NHKが受信設備設置者の存在を速やかに把握することは困難と考えられ、他方、受信設備設置者は受信契約締結義務を負うのであるから、受信契約を締結していない者について、これを締結した者と異なり、受信料債権が時効消滅する余地がないのもやむを得ない。受信契約に基づき発生する受信設備の設置の月以降の分の受信料債権の消滅時効は、受信契約成立時から進行すると解するのが相当である。
消滅時効は、権利を行使できる時から進行するところ、受信料債権は受信契約に基づき発生するから、受信契約が成立する前には、NHKは、受信料債権を行使できない。通常は、受信設備設置者がNHKに対し受信設備を設置した旨を通知しない限り、NHKが受信設備設置者の存在を速やかに把握することは困難と考えられ、他方、受信設備設置者は受信契約締結義務を負うのであるから、受信契約を締結していない者について、これを締結した者と異なり、受信料債権が時効消滅する余地がないのもやむを得ない。受信契約に基づき発生する受信設備の設置の月以降の分の受信料債権の消滅時効は、受信契約成立時から進行すると解するのが相当である。