浅草には「ペリカンカフェ」以外にも、ペリカンのパンがいただける喫茶店が何軒もある
本日は浅草在住者で知らない者はないであろう人気のパン屋さん「ペリカン」のパンがいただけるお店をご紹介いたします。
ペリカンのパンは基本は予約購入
まずは「ペリカン」さんのご紹介から。東京メトロ銀座線・田原町駅からほど近い場所にある、食パンとロールパンしか売らないパン屋さんです。1942年創業、現在は4代目がお店を営んでいらっしゃいます。
昨今のパンブームや、たった2種類のパンしか作らないという専門性、そしてなによりそのおいしさが注目を集め、テレビや雑誌で紹介されることが増えています。
そのせいもあってか、開店時間の朝8時には行列ができるほど。基本的には予約購入で、飛び入りで買える日はラッキーです。
ほのかな甘み、みっちり・ぎゅっとした質感が独特。何もつけずにそのままいただいてもおいしいし、かといって、何かと一緒に食べるときに個性が主張してくるようなこともありません。ひとりでも、チームでも輝くことができる、いちOLとしてはその働きぶりに尊敬の念すら抱いてしまうようなパンなのです。
「お米のように毎日食べられるパン」を目指しているという話を聞き、なるほどたしかに、と思わず声が出ました。
今年9月には直営の「ペリカンカフェ」もオープン。その人気と勢いはとどまることを知りません。
コーヒーとペリカンのパンが引き立てあう「喫茶オンリー」
浅草エリアには「ペリカンカフェ」以外にも、ペリカンのパンがいただける喫茶店が実は何軒もあります。
老舗の「珈琲アロマ」や、「フルーツパーラーゴトー」、2016年オープンのブルックリンスタイルのカフェ「SPLENDOR COFFEE」などなど……。
そんななかで、私にとっての「ペリカンのパンをおいしくいただけるお店」は合羽橋商店街にある1952年創業の老舗「喫茶オンリー」。初訪問時のインパクトが大きくてすっかりファンになってしまい、しばしばお邪魔している大好きなお店です。
初めて訪れたのは、私が浅草エリアに引っ越した1年前のこと。ご近所探検と称して合羽橋を散歩をしている最中に「魔性の味」と書かれたレトロな看板が視界に飛び込んできました。
「魔性の味」って、どんな味…?
ふと視線を落とすと、足元にはかなりパンチが効いた看板が。
当店は、店名通りのただの珈琲屋です。
気の利いた物を食べたい方は、先々にある各店の利用をお勧めします。
すっかり興味津々、入店せずにはいられない!!と、足を踏み入れたのでした。
歴史を感じさせる自動ドアがゆったり開くと、昭和時代にタイムスリップしたような落ち着いた空間が広がります。
入ってすぐの席に腰かけてメニュー表を見てみれば、コーヒー以外にもトーストやホットドッグなどシンプルな軽食も用意されているようでした。ぐるりと店内を見渡したところ、壁に貼られた「トースト1枚とコーヒー」なるセットメニューを発見。コーヒー(450円)に100円でトーストがつくとのことで、お得感に負けてそちらをオーダーすることにしました。
間もなくすると、お店オリジナルのカップに入った「魔性の味」のコーヒーとトーストが目の前に。サラダもゆで卵もなく、潔くトースト1枚です。
まずは「魔性の味」のなんたるかを見定めなければ……と、ミルクも砂糖も入れずにコーヒーをひとくち。
……苦いけれど、苦くない。酸っぱいけれど、酸っぱくない。なんとも表現しづらいのです。ただ言えるのは「うまい」のひと言。
正直、魔性の味だなんて言いすぎじゃない?と、冷やかしにも似た気持ちを持っていました。でも、本当においしかった。感動しながら、スナック菓子をつまむような軽い感覚でトーストにかじりつきました。
……待って、待って、待って。このトースト、みっちりしていて優しい甘さで、すごくおいしい!
これが「ペリカンのパン」との初対面でした。これまた正直に白状すると、お皿が目の前に現れたときは「なんて素っ気ないトーストだろう」と思っていたんです。マスター、ごめん。
でも、素っ気なくていいんです。むしろその方がいい。パンがおいしいからゴテゴテと盛り付けて下駄を履かせなくても、十二分にご馳走になってしまいます。
ちょっと遊び心を……と、テーブルに備え付けられているシュガーポットから砂糖を少々拝借、シュガートースト一丁上がり!
砂糖を振りかけてみたくなった自分にスタンディングオベーションをしてあげたいくらい、おいしかったです。
さらにたまげたのは、パンに夢中になっているうちに冷めてきてしまったコーヒーのこと。冷めたコーヒーは酸っぱさが際立つ感じがして苦手で、かといって残すのももったいないので「喉に流し込む」という感覚で飲み干すことが常なのですが、オンリーのコーヒーは全然風味が落ちていない。あいもかわらず「苦いのに、苦くない。酸っぱいのに、酸っぱくない」という絶妙なおいしさをキープしつづけているのです。
本当に、魔性の味。言いすぎだと指摘されるかもしれないけれど、「いままで飲んだコーヒーの中でいちばんおいしい」と思いました。
そしてまた、このコーヒーとペリカンのパンの相性が抜群なんです。お互いに確かにおいしいのに、無駄な主張をしてこない。だから掛け合わさったときにアシストし合ってくれて、食べている最中も、食べおわった後も、すごく幸せな気持ちに浸れます。
60年以上守り続けられている「オンリーワン」のコーヒー
「喫茶オンリー」の創業は1952年。現在のマスター・小磯さんのお父様が始められたお店です。キャッチフレーズでもある「魔性の味」は、お父様の時代のお客様が「このコーヒーはヤミツキになる味だね」と評したことから標榜されるようになりました。当時の豆のブレンドや焙煎の仕方を、約30年前からご子息である小磯マスターが引き継いでいらっしゃいます。
冷めてもおいしいコーヒーにびっくりして、「とってもおいしいコーヒーですね」とマスターに伝えたことがあります。美食家でもない、しがないアラサーOLが生意気なことを言うようで恐縮だったのですが、伝えずにはいられませんでした。
するとマスターは「すごいのは亡くなった親父なんですよ、僕は同じことやってるだけだから」と。ご自身がマスターになってからコーヒーの味をいろいろ検証されたそうなのですが、お父様は独学で「魔性の味のコーヒー」に辿り着いていたことがよくわかったとおっしゃっていました。
「親父こそが”マスター”なんです。僕は”留守番”」。
浅草・合羽橋という場所柄、そして喫煙できるお店だということもあって、お手洗いや煙草休憩を目的に来店される観光中の方が多いそうです。いわば、コーヒーは「ついで」。
「”ついで”のはずのコーヒーが、みんな空っぽ。それを見ると、ああ、やっぱりうちのコーヒーは”不味くはないんだな”って思います」
「おいしい」じゃなくて「不味くない」?不思議な表現に首をかしげていると、
「おいしさなんて、人それぞれじゃない!だからこっちから”このコーヒーはおいしいですよ”なんて言いませんよ。ただ、”不味くはない”。それは自信があります」
……自意識過剰なアラサー銀座OL、この言葉が心に響いて、響きまくって、ますますファンになってしまいました。
私といえば、歳だけ重ねて、でも中身が全然年齢についてこなくて、だけど精一杯背伸びをして「デキる自分」を気取って仕事して……。自分でどんなに「私はちゃんとしています、デキる女です」を装ったって、その価値を見定めるのは、一緒に仕事をする相手やお客様なんですよね……。
誰にどう思われるかを気にしていたって仕方がない。それはいい仕事なんかじゃない。大切なのは「何をするか」。そんな教えを分けていただいた気がしました。
オンリーのコーヒーとペリカンのパンが織りなす「よい仕事」
おいしいコーヒーによって、さらにその魅力が引き立つ「ペリカンのパン」。トーストだけでなく、他のメニューもシンプルで絶品です。
ハニー・トースト(550円)は、分厚いペリカンのパンに、マスターが選び抜いたアイスクリームと手作りのシロップがかかった贅沢な一品。
使い始めてから30年は経っているというオーブントースターで、パンをじっくり焼き上げます。
あつあつトーストの上に、卵の味を感じる懐かしい味わいのバニラアイスが溶けて染みこんでいく様は、見た目だけでヨダレが。
切れ込みに沿ってパンをちぎって、アイスを乗せて、いただきます。
パンのやさしい味、アイスクリームとシロップの甘さ、そこにマーガリンの程よい塩気が混ざり合う至福のとき。その余韻をかすかに口の中に残した状態でいただくコーヒーが、幸せな時間をキュッと締め上げてくれる心地がします。
パンそのままの味に向き合いたいなら、厚焼きトースト(500円)がおすすめ。
サクッと焼き上がった表面の切れ込みにマーガリンが染みこんだ部分は、もう、とんでもないごちそうです。味付けが施されていないプレーンな部分もまた、おいしいんだ……。かなりボリュームがありますが、ゆっくり食べているうちに冷めてしまっても大丈夫。オンリーのコーヒー同様、ペリカンのパンも、冷めたっておいしいんです。おいしいものは経時劣化しないのだと知りました。
マスターの秘かなおすすめメニューはホット・ドック(500円)。炒めた玉ねぎとウインナー、レタス、キュウリが挟まっています。
ドック用のパンはペリカンのものではないのですが、甘みがあって、ウインナーの塩気と一緒にいただくと絶品。ソースも出していただけるのですが、私は“何もかけずにそのまま”派です。
「一生懸命に仕事をする」ということ
「おもてなし全盛期」において、オンリーさんは正直なところくつろげるタイプのお店ではないと思います。Wi-Fiはもちろん飛んでいませんし、店内にはPC禁止の貼り紙があるほどです。
「喫茶オンリー」は、英語表記だと”Coffee Bar Only”。お酒を飲むバーのように、さくっとコーヒーを楽しむためのお店、いわばコーヒースタンドなんです。常連さんはご近所さんや合羽橋周辺で働かれている方が多く、新聞や本を片手にコーヒーとトーストを頼み、手早く腹ごしらえをして去っていきます。早々に食べ終えてしまうには惜しくなるくらいおいしいのに、だらだらと長居することなく、次の用事や自分の持ち場に戻っていく。その姿は、私の目にはとても格好よく映ります。
浅草で生活する、舌の肥えた江戸っ子たちを虜にする「魔性の味のコーヒー」。マスターはさぞやコーヒーのことが好きなんだろうと思いきや、「仕事は好きじゃないよ」ですって!
「でも一生懸命、ちゃんとやる。それがプロ!」
「好きなことで生きていく」のはすばらしいこと。でも私は自分の本業(銀座でOLやってます)に猛烈な愛なんて注げていません。仕事を好いていないことに、情けなさのようなものを感じていました。でも、「仕事の好き嫌い」と「一生懸命さ」「ちゃんとやっているという矜持」は別物なんだ。マスターのカラッとした笑顔に教えられました。
平日の仕事を終えて土曜日にオンリーでコーヒーをいただくたびに、仕事が好きかどうかはさておき、「来週も一生懸命に働こう」と思うのです。
ご紹介したお店
喫茶オンリー
住所:東京都台東区西浅草2-22-8
TEL:03-3841-7679
営業時間:10:00~18:00
定休日:日・祝
URL:https://r.gnavi.co.jp/444pdjc80000/
※掲載された情報は、取材時点のものであり、変更されている可能性があります
著者プロフィール
85年生まれの自意識過剰なアラサー銀座OL。人生の楽しみは食べること。”食べものエッセイスト”を自称し、ブログ「言いたいことやまやまです」にて食べもの関連記事を公開中。好物はスーパーの総菜コーナーの白身魚フライと、料理の汁に浸した白米ORパン。お酒はハイボール&焼酎派です。
ブログ:言いたいことやまやまです
Twitter:@やまま
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