「ねえ、どう思う? 最近『韓国人になりたいんですけど……』っていう相談が増えたんだけど」
異変に気付いたのは、今年6月、夜の東京・新大久保。韓国エンタメ関係のライターたちが集まって飲んでいる席で、仲間の一人が発した一言だった。
「えーっ」というどよめきに続いて、次々と質問が飛ぶ。
「それって、日本人でしょ? つまり韓国に住みたいってこと?」
「韓国人と結婚したいってこと?」
「俺、韓国関係の仕事やって10年以上だけど、特に韓国人になりたいとか考えたことは一度もないね」というK-POPライターの言葉に、一同がうなずいた。
相談を受けたエンタメライターによると、韓国人になりたい人たちは10~20代の女子だという。
その頃の日韓関係といえば、5月に誕生した文在寅政権が、慰安婦問題日韓合意について安倍首相に「国民の大多数が心情的に合意を受け入れられないのが現実」と伝え、暗雲が漂い始めていた時期。武藤正敏元駐韓大使が『韓国人に生まれなくてよかった』(悟空出版)という本を出版し、その煽情的なタイトルが波紋を呼んでいた。
こんなご時世に、韓国人になりたい女子なんて、マジでいるのか――。
ところが、何気なくスマホでインスタグラムを開き、「#韓国人になりたい」と検索してビックリ。結果は、まさかの5895件。ちなみに「#アメリカ人になりたい」は225件、「#フランス人になりたい」は132件、「#中国人になりたい」はわずか5件だった。
圧倒的に多い「#韓国人になりたい」人は、プリクラ風の自撮り写真から察するに、やはり10代~20代の女子。さらに、彼女たちがよく使う、共通したハッシュタグがいくつかあった。それは、「#綺麗になりたい」「#メイク好きさんとつながりたい」などおしゃれ願望を満たすべきもの。「#데일리그램」(デイリーグラム)など韓国語も散見される。
どうやら、韓国人になりたい女子の謎を解くヒントは、ファッションにありそうだ。いや、それともTWICEの日本デビューでブーム再燃と言われているK-POP人気の影響なのか。または、2017年の流行語大賞にも輝いた「インスタ映え」が関係しているのか。自他認める韓国通のおしゃれ女子3人に、韓国や韓国人に憧れる理由を聞いてみることにした。
待ち合わせ場所のカフェの前ですれ違った時から、彼女たちが今日の取材対象であることは、すぐにわかった。長い髪、白い肌、赤いリップ。K-POPのガールズグループをほうふつさせるルックスだったからだ。
インタビューに答えてくれたのは、高木栞さん(20)、寒澤貴子さん(23)、井上茉莉那さん(19)。
彼女たちを推したのは、ファッション誌『ViVi』(講談社)の岩田俊編集長だ。『ViVi』はTWICEが日本で初めて表紙を飾った今年8月号で、「インスタ映えも! 使えるコスメも! Hyper Seoul!! 最強韓国ガイド2017」を掲載。「反韓感情は考慮しましたが、読者調査で感じる韓国ブームの温度感を優先した」(岩田編集長)特集号は、韓国コスメと美容スポットをナビゲートした記事に特に大きな反響があり、売り上げも上々だったという。
3人は、『ViVi』公認のインフルエンサー、ViViガール。タレント、モデル、クリエイター、インスタグラマーなど、 10代20代の女性たちに大きな影響力を持つViViガールの中でも、編集長お墨付きの韓国通だ。
カフェに並んで座った3人に、「韓国人になりたいと思ったりします?」と単刀直入に尋ねると、3人声を合わせて「なりたーい!」という予想通りの好リアクション。ところが、「じゃあ、韓国に足しげく通っているんですか?」という質問には、意外な答えが返ってきた。
「私、パスポート持ってなくて。日本から出たことない」と、栞さん。
貴子さんも、「実は私もパスポートは期限切れ。ずっと前に韓国に旅行したことあるけど、韓国好きになってからは行ったことないんです」と苦笑する。