赤ちゃんと一緒に議会に出席しようとした熊本市の女性市議を巡って「子連れ論争」が巻き起こっている。

 「普通の会社では許されない」といった批判的な意見は少なくない。「他の支援策を整えてもらうべきだ」との声もある。

 しかし市議の思い切った行動は、社会の関心を集め、政治活動と子育ての両立に一石を投じた。女性議員を増やしていくためにも、子育て世代の議員が直面する困難について議論を深めるいい機会だ。

 女性市議が7カ月の長男を抱いて本会議場に入ったのは先月22日。「両立に悩む多くの声を見える形にしたかった」からという。事前に議会事務局に相談したところ、前向きな回答が得られなかったことも理由の一つである。

 市議会は議員以外を傍聴人とみなし、傍聴人が議場に入ることを認めていない。そのため議場は一時騒然とし、結局同伴を断念した。押し問答の末、開会が約40分遅れたことなどから、市議への厳重注意処分も決まった。

 騒動後、事務局には電話やメールが殺到。28日までに寄せられた480件中、6割が応援、4割が批判的な内容だった。 

 そもそも議会は人口比から大きくかけ離れた男性中心の構成で、これまで議論にもならなかった問題である。

 批判の中に「議員だけ特権はおかしい」という声があったが、声を寄せた本人が仕事と子育ての両立に直面しているからこその反発ではないか。 

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 1980年代後半の「アグネス論争」を思い出す。

 タレントのアグネス・チャンさんが、乳飲み子を連れてテレビ局に現れたことから起こった「子連れ出勤」の是非を巡る大論争である。

 アグネスさんも当時、仕事軽視や普通の会社では許されないといった批判にさらされた。だが「働く母親の背中には子どもがいる」という当たり前のことを社会に突き付けた意味は小さくなかった。

 育児休業法が施行されるのは、その後の92年である。

 オーストラリアの連邦議会で女性議員が2カ月の娘に議場で授乳し話題になるなど、同伴を認める国も複数ある。

 北谷町では産休明けの町議に議員控室を託児スペースとして用意するなど、子育てを後押ししている。

 少なくとも議会内に託児所や託児スペースを設けるなどの両立支援策が必要だ。

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 2016年末の時点で全国の市議会に占める女性議員の割合は14・0%、町村議会は9・8%にとどまっている。安倍政権が掲げる「女性活躍」は、足元の政治分野で大きく立ち遅れている。

 議会規則の欠席理由に「出産」が明記されるようになったのはつい最近のことである。議員には育児休業もない。

 政府の少子化対策がことごとく失敗してきたことと、子育て中の女性が政策決定に関わってこなかったことは無関係ではないだろう。

 議員の妊娠や出産、育児を想定した制度整備を急ぐべきだ。