5日、将棋の羽生善治新竜王(47、棋聖)が前人未到の永世七冠を達成した。並外れた探究心で最先端の戦術を取り入れ続け、30年近く第一人者として君臨。貪欲な知への欲求で、進化の著しい人工知能(AI)にも精通する。若手を相手に最新型の戦いもいとわない姿勢が強さの秘訣ともいえる。
永世竜王がかかった今回の七番勝負はほとんどが最新型の戦いとなった。決着局となった第5局は中盤の仕掛けが奏功。短手数で渡辺明前竜王(33、棋王)をねじ伏せ、15年ぶりに竜王のタイトルを奪回した。
羽生新竜王の強さを支えるのは「飽くなき好奇心、探究心」と永世名人でもある谷川浩司九段(55)は指摘する。「47歳になっても若手と最新型でぶつかっている」(谷川九段)のが証拠だ。
例えば、将棋ソフトの進化により再評価されてプロの間で復活した雁木(がんぎ)戦法をタイトル戦でいきなり使うなど実戦をうまく活用。羽生新竜王も「変化する将棋を何とか取り入れることを繰り返してきたのが実感」と振り返る。
羽生新竜王は1985年、中学3年で四段となってプロ入りし、89年、19歳で初タイトルの竜王を獲得した。95年に獲得した永世棋王を手始めに、2008年には6つ目の永世称号となる永世名人の資格を得ていた。
タイトル名 | 獲得数 (期) | 永世称号 の獲得年 |
---|---|---|
王座 | 24 | 1996 |
王位 | 18 | 97 |
棋聖※ | 16 | 95 |
棋王 | 13 | 95 |
王将 | 12 | 2007 |
名人 | 9 | 08 |
竜王※ | 7 | 17 |
叡王 | ― | 新設で 規定なし |
(注)※は現在の保有タイトル
ただ、永世七冠を目指した同年の竜王挑戦では渡辺前竜王を相手に、将棋界初の3連勝後の4連敗を喫して敗退。10年にも再挑戦したが失敗し、永世七冠への挑戦は7年ぶりだった。
将棋界でこれまで永世称号を獲得した棋士は羽生新竜王を含め、わずか10人。棋戦ごとに条件は異なるが、5連覇や通算10期など繰り返し挑戦者をはねのけてタイトル数を積み重ねないと得られず、ハードルは高い。
ともに永世五冠の故大山康晴十五世名人、中原誠名誉王座(70、十六世名人)をはじめ、永世称号保持者はいずれも時代を代表する棋士ばかりだが、「永世七冠はすごすぎて、想像を絶する」と中村太地王座(29)は偉業をたたえる。
日本将棋連盟の機関誌「将棋世界」元編集長で作家の大崎善生氏は羽生新竜王について「将棋以外でも新しいものに対する好奇心が旺盛で、柔軟性に富む。変わることを恐れず、時代時代に適応する能力も優れている。同世代には森内俊之九段(47、永世名人資格保持者)や佐藤康光九段(48、永世棋聖資格保持者)ら強力なライバルもいたが、彼らに勝ち抜くため研究に研究を重ね、あらゆる戦法を得意戦法にしてきた」と話している。