史上最深の分光観測で72個の銀河を新発見
【2017年12月5日 ヨーロッパ南天天文台】
ハッブル・ウルトラ・ディープ・フィールド(HUDF)は、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が2003年から2004年にかけて観測した小さな天域だ。ろ座の一角に位置するHUDFは私たちに最も深い(=遠い、あるいは過去に遡ることができる)宇宙の眺めを見せてくれている領域であり、HST以降も何度も観測されている。
仏・リヨン天体物理学研究センターのRoland Baconさんらの研究チームは、ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTに搭載されている分光器「MUSE」を使って史上最も深い分光サーベイを実施し、HUDFに含まれる非常にかすかな銀河1600個を観測した。この数は、過去10年間に地上に設置されている望遠鏡が苦労して観測してきた数の10倍に相当する。
Baconさんたちの観測結果には、これまでのサーベイでとらえられていた銀河に比べて明るさが100分の1しかない、130億年以上も前の初期宇宙に存在している非常に暗い銀河も含まれており、すでに多くの観測研究が行われてきた空域の新たな光景を見せてくれるものとなっている。「MUSEは、HSTにはできない観測を行うことが可能です。分光観測で得られた天体のスペクトルから、銀河までの距離や銀河の色などの特性が計測できます」(Baconさん)。
サーベイの成果の中で最も興味深いのは、HSTでも見つけることができなかった72個の新発見の銀河が含まれていることだ。これらは「ライマンアルファ輝線銀河」と呼ばれる、水素原子が放射する特定の波長の光だけで明るく見える銀河である。
「これまでにじゅうぶん研究されている空域であっても、MUSEを使えば初期宇宙の銀河に関する情報を引き出すことができます。私たちは一度に大量の銀河を観測し、銀河の化学組成や内部の動きなど分光でしか得られない情報を調べるのです」(オランダ・ライデン大学 Jarle Brinchmannさん)。
別の成果として、初期宇宙の銀河を取り囲む明るい水素のハローが検出されており、銀河における物質の出入りを研究するうえで有望な新しい方法となると考えられている。その他についても10篇の論文の中で多くの応用方法が探究されており、宇宙再電離時代のかすかな銀河の役割や、宇宙が若かったころの銀河同士の合体率の計測、銀河風、初期宇宙の銀河における星形成、星の動きをマップ化した研究も行われている。
「注目すべきは、今回の成果が、最近アップグレードされたMUSEの補償光学装置を使わずに得られたことです。この装置が稼働すれば、今後より革命的なデータが得られるに違いありません」(Baconさん)。
〈参照〉
- ヨーロッパ南天天文台:MUSE Probes Uncharted Depths of Hubble Ultra Deep Field
- Astronomy & Astrophysics:論文
- The MUSE Hubble Ultra Deep Field Survey - I. Survey description, data reduction, and source detection
- The MUSE Hubble Ultra Deep Field Survey - II. Spectroscopic redshifts and comparisons to color selections of high-redshift galaxies
- The MUSE Hubble Ultra Deep Field Survey - III. Testing photometric redshifts to 30th magnitude
- The MUSE Hubble Ultra Deep Field Survey - IV. Global properties of C III] emitters
- The MUSE Hubble Ultra Deep Field Survey: V. Spatially resolved stellar kinematics of galaxies at redshift 0.2 ≲ z ≲ 0.8
- The MUSE Hubble Ultra Deep Field Survey - VI. The faint-end of the Lyα luminosity function at 2.91 < z < 6.64 and implications for reionisation
- The MUSE Hubble Ultra Deep Field Survey - VII. Fe ii* emission in star-forming galaxies
- The MUSE Hubble Ultra Deep Field Survey - VIII. Extended Lyman-α haloes around high-z star-forming galaxies
- The MUSE Hubble Ultra Deep Field Survey: IX. evolution of galaxy merger fraction up to z ≈ 6
- The MUSE Hubble Ultra Deep Field Survey - X. Lyα equivalent widths at 2.9 < z < 6.6
〈関連リンク〉
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