彩島 うた
彩島 うた
学生ライター
ココ浅井
ココ浅井
ブラジル在住
きむむ
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大学院生
三井 俊介
三井 俊介
陸前高田市議会議員

正義感を振りかざす素人の批判をものともしない「世界一のクリスマスツリー」

 12月に入り、街中はクリスマスムードに包まれています。駅前やショッピングモールではクリスマスツリーが目立ち、夜になると色とりどりのイルミネーションが賑やかに照らされています。神戸市では、神戸港の開港150周年を記念して、中央区のメリケンパークに「世界一のクリスマスツリー」を立てるプロジェクトを進めてきました。12月2日にオープニングセレモニーの点灯式が行われ、26日までイベントが行われます。明るく楽しい雰囲気のプロジェクトですが、実はこの企画に対してネット上で炎上騒動が起きていました。

一本の木に集まる人々の関心

クリスマスツリー

ライトで照らされた高さ約30㍍のクリスマスツリー 2日夜、神戸市中央区のメリケンパーク

 プロジェクトの趣旨は、震災の鎮魂の想いと復興のシンボルとして、「ニューヨーク・ロックフェラーセンター」の巨大クリスマスツリーよりも大きな生木としては世界一の高さとなる木をメリケンパークに立てるというものです。このプロジェクトを担当したのは、プラントハンターの西畠清順さんが代表を務めるそら植物園。ツリーに選ばれたのは、富山県氷見市で発見された全長約30㍍のあすなろの木です。重さは約24㌧で、新幹線やロケット輸送で用いられる特殊車両と大型船を使い、富山県伏木富山港を出航後、日本海から瀬戸内海を経て神戸まで1000㌔㍍以上の距離を移動し、植樹されました。

 このあすなろの木は、山火事なども免れた縁起の良い木で、神戸の震災復興の象徴的なイベントであるルミナリエと同時期にクリスマスツリーとして飾り、これを見た人々から何かしら感じて欲しいという想いが西畠さんにはあるとのことです。このクリスマスツリーには飾りつけとして、電飾ではなくメッセージを書き込んだ反射板を吊るして「世界一多くのメッセージを吊るされたクリスマスツリーとしてギネス記録にも挑戦するそうです。

 この壮大なプロジェクトに対して批判の声が上がりました。批判の意見にはいくつか理由があるようで、「なぜわざわざ樹齢150年の木を伐採し、ふきっさらしの港へ運ぶのか」、「樹木の命や、震災の鎮魂など命を考えるイベントといいながら、“大木の命”を疎かにしている」といった意見が多くみられます。また、イベント終了後に、共催企業がこの木を加工したバングル(腕輪)を3800円で販売すると発表したことや、西畠さんがあすなろの木に対して、「ヒノキになれない落ちこぼれの木が世界一に」などと表現していたことも反感を買ったようです。また、木を運ぶ際に安全祈願としてつけたしめ縄が、御神木だと勘違いされSNS上で「御神木を持ってくるとは何事だ」と批判されていました。それは誤解だと西畠さんがホームページ上で説明していますが、イベントが終わった後に木をバングルに変えて販売するということへの批判が強く、結局中止となりました。

 批判の意見に対するメッセージとして西畠さんはホームページ上で木の根ごと運んだ理由や、営利目的ではないということ、あすなろの木のその後は未定だということなどについて説明しています。そして、「いま、伝えたいこと」として、プロジェクトに対する自身の想いや、批判に対する姿勢を見せています。『大好きな植物に、世間の関心がいくなら本望であり、なにより今回のプロジェクトの目的です。ぼくは、冷静です。そしてとてつもない応援者たちと膨大な数の仲間がいます。…(中略)…もし、あの木をみて「かわいそう 」と思ったなら、どうか、どうか その植物に対するやさしさだけは、忘れずにいてください』と西畠さんは語っています。

批判に耳を貸さない責任者としての姿勢

 批判の声や炎上があったからといってこのプロジェクト自体に影響がでたところはなく、予定通りイベントは行われています。ホームページで西畠さんが説明した内容を見る限り、西畠さんは批判の声に耳を貸すというわけではなく、誤解されている部分は説明しても、この企画を通してやりたかったことや信念を曲げる気はない、というように考えているようです。

 私もプロジェクト自体は素敵なものだと思います。神戸まで行けるなら是非見に行きたいものです。一人ひとり考え方が違うので、木の利用方法について疑問を持つ人もいることでしょう。それでもプロジェクトは公に認められ、西畠さんの考えを支援する人も多くいます。木が抜かれて困っていたり、メリケンパークに植樹されることで被害を受ける人がいると批判するなら分かりますが、木の専門家でも何でもない素人が浅い考えで批判するのは無粋なことではないでしょうか。

 ただ、プロジェクトの目的が単純に“世界一のクリスマスツリーを飾る”ということだけではなく、神戸港150周年記念ということで地元の活性化のためだったり、震災の鎮魂のためだったりと、いくつかの目的のために行われたものだったので、様々な点からの批判の声が上がり、炎上へと繋がっていったのだと思われます。“鎮魂のため”と言いながら、世界一のギネス記録を目指したり、イベント後の木を販売しようとしたりしていたことが批判の的となったのでしょう。

 西畠さんはその批判に対して謝罪するよりも、プロジェクトのことや関係者の想いを知ってほしいと主張し、傲慢だと更に批判する声もありましたが、責任者として主張を貫き通す姿勢を見せたからこそイベントが予定通り進んだのだと思います。このプロジェクトを残念だと言う人も少なくないですが、点灯されたツリーは夜空に映えてきれいに輝いています。正解、不正解がない問いを、自分の意見が最も正しいと正義感を振りかざしてSNS上で批判する人達こそ、このツリーの前で自分の主張を言ってみてはいかがでしょうか。

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