マネー研究所

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55歳で資産5800万円 早期リタイアしても大丈夫? 人生まるごとシミュレーション(8)

2017/12/5

PIXTA

 長い人生、気になるお金。できることなら、将来のマネープランを見通せないものか――。マネー研究所は、金融機関向けのソフトウエア開発などを手掛けるMILIZE(旧社名AFG)の協力の下、実在する企業の給与や退職金、年代別の生活費、家賃、年金などの各種データを用いて試算。誰もが気になる「人生にまつわるお金」を、リアルなデータに基づいて明らかにする。8回目のテーマは早期退職。世帯年収900万円で、1500万円の金融資産を保有する45歳の会社員は、55歳で早期リタイアできるのか。

◇  ◇  ◇

 大手建設機械メーカーで課長を務める直也(45歳)。パートタイマーで倹約家の妻の沙織(45歳)とともに、着実に資産を積み上げてきました。マンションのローンの返済は既に終え、娘(15歳)の教育費も蓄えた資産で十分に賄えそうです。そんな状況の中、直也は「あと10年くらい働いたら会社を辞めてもいいんじゃないか」と考えるようになりました。

イラスト:PIXTA(以下同)

沙織 最近、仕事が忙しいみたいね。お疲れさま。コーヒーでもいれようか?

直也 ああ、ありがとう。これから年末にかけて、しばらく仕事が立て込みそうで……。悪いけど、しばらく帰りが遅くなりそうだよ。

沙織 そうなんだ。あまり無理しないでね。

直也 うん……。それなんだけど、実は、会社の「空気」が悪くなっててさ。それなりに成果を出しても、上からは「君の年次だと、もっと働いてもらわないと困るんだよね」とか言われて、給料は下げられるし、人は補充してくれないしで、やる気が出ないんだよ。正直、「いつ仕事辞めようかなあ」なんてことを、しょっちゅう考えてる。

沙織 そっか、しんどいね……。でも大丈夫! 仕事を辞めても親子3人、節約すればきっと生きていけるわ(笑)。

直也 いやいや、今すぐ辞めるつもりはないって……。でも、あと10年くらい働けば何とかなるかもしれないな。住宅ローンは終わったし、子供は1人だけだから、そんなに教育費もかからない。投資と節約で資産もそこそこ増えてきたし、頑張れば早期リタイアできそうな気がしてきたぞ。

沙織 じゃ、ちょっと聞いてみようか? 私のお友達の佳奈ちゃん、そういうのにとっても詳しいの……って、あら? 誰か来たみたいね。はーい、お待ちくださーい!

佳奈 (ガチャ)お久しぶり、沙織さん。呼ばれたような気がしたので来てみたわ。

沙織 あら佳奈ちゃん、ちょうどよかった! 聞きたいことがあったの。ささ、上がってちょうだい。

直也 (……エスパー?)

◇  ◇  ◇

佳奈 ……事情はだいたい分かったわ。直也さんが55歳でリタイアした場合の人生をシミュレートすればいいのね?

直也 はい。今すぐリタイアするのは無理でしょうが、10年あれば金融資産もそこそこ増えているでしょうし、退職金も見込めます。ひょっとしたら定年を待たずにリタイアしても生活できるんじゃないかって思いまして。

佳奈 なるほど。現在の世帯年収は約900万円(夫が800万円、妻が100万円)で、金融資産は、銀行預金が約1000万円、株と投資信託で約500万円の合計1500万円ですか。住宅ローンは既に完済。今後の大きな支出は娘さんの教育費ですが、こちらも公立中心の予定で問題はなさそう。支出も抑えめで、手取りの3割(年間約220万円)を投資と貯蓄に回していると……。なるほど、なかなか優秀な家計ですね。

図1 直也さん(45歳)・沙織さん(45歳)の世帯年収と年間支出。節約家計で、手取り年収の約3割を投資と貯蓄に回している(投資に年間100万円、残りを貯蓄)

沙織 あはは、私の趣味は節約だから~♪

直也 リーマン・ショック以降、給与を下げられてしまって、このままじゃまずいかもと投資を始めたんですよ。投資信託の積み立てを中心に、株式を一部組み合わせて運用しています。今後は教育費がかかるので、貯蓄のペースを少し落として対応します。投資は現状と同じ金額(年間100万円)で続けていくつもりです。

佳奈 分かりました。ところで、早期リタイアした後は、どんな生活をお考えですか? そこそこお金も使うアクティブな生活か、それとも、お金はあまり使わずに淡々と日々を過ごしていく生活か、ということですが。

直也 えーっと、そこは考えてなかったなあ……。そうですね、リタイアしてしばらくは、旅行に行ったり地域のボランティア活動に参加したり、そこそこ積極的に動きたいですね。

沙織 そうね、私もそんな感じかな。とはいえ、70歳くらいになったら体も衰えてくるだろうから、そんなに出かけられなくなるんじゃない? だから後半は淡々と日々を過ごしていく感じになると思うわ。

佳奈 なるほど。では、退職直後の55歳から64歳までの10年はそこそこお金を使って、それ以降は平均並み、という前提でシミュレートしてみましょう……っと、はい、終わり。

直也 うおっ、仕事早すぎ!

佳奈 さて結果だけど……うーん、微妙かな。

沙織 え? どういうこと?

佳奈 「リタイア後、10年間はアクティブに過ごす」という前提だと、70歳に入った段階で蓄えがなくなって家計が破綻するみたい。

直也 ぐはっ、やっぱり無理か~。

佳奈 ただ、条件を多少見直せば、90歳を過ぎても余裕で暮らせそうよ。詳しく見ていきましょう。

■5800万円あっても15年でゼロに

佳奈 まず、55歳時点で金融資産がどれだけたまっているかを計算すると、約5768万円になるわ。内訳はリスク資産が1763万円、銀行預金は2150万円。さらに退職金として1855万円が入る想定よ。ちなみに投資の平均利回りは年3%としたの。元本総額1500万円に対して利益は263万4000円ね。都合上、NISA(少額投資非課税制度)は使わず特定口座で運用し、退職の1年前の年末にすべて現金化するとしたわ。その際にかかる20%の税金を差し引いて利益を計算しているの。

直也 おー、けっこうたまってるなあ。金額を聞くと、投資を続けていく意欲がわいてくるよ。

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