「トランプ大統領は9月に国連演説で、金正恩委員長のことを『ロケットマン』と呼びましたが、韓国軍の幹部たちは『ハッキングマン』と呼んでいます。
北朝鮮の核攻撃よりもハッカー攻撃のほうが恐いからで、トランプ大統領の訪韓を前に、最大限の警戒態勢を敷いています」(ソウル在住ジャーナリスト・金敬哲氏)
北朝鮮のハッカー攻撃が止まらない。
10月31日、韓国国会で国防委員会所属の慶大秀議員が、大手造船会社の大宇造船海洋が、昨年4月に北朝鮮から大規模なハッキングを受けていたと暴露した。金氏が続ける。
「大宇造船海洋は、韓国軍のイージス艦や潜水艦を造っていますが、同社から4万件にも上る内部資料が流出。その中には、1級から3級に指定されている軍事機密が60件以上、含まれていました。
具体的には、最新鋭のイージス艦や潜水艦、護衛艦の設計図、戦闘やレーダーシステム、建造技術、武器システム、評価資料などです。北朝鮮との戦闘に関する艦艇の軍事機密が、丸ごと敵側に渡ってしまったのです」
韓国では10月10日にも、同じ国防委員会の李哲煕議員が、「昨年9月、235GB分に上る軍の機密資料が、北朝鮮側に流出していた」と暴露した。その中には、2級軍事機密が226件、3級軍事機密が42件含まれていたという。
「この時、衝撃的だったことが二つありました。一つは、『金正恩斬首作戦』を含む対北朝鮮戦争の具体的な軍の動きを定めた『作戦計画5015』の資料も流出したこと。
もう一つは、流出した中で182GB分は、国防部がその内容を把握できていないということです。これは、トランプ政権が大幅な作戦変更を迫られ、早期の北朝鮮空爆はできなくなったことを意味します」(同・金氏)
北朝鮮のサイバーテロ部隊を指揮するのは、朝鮮人民軍偵察総局である。
偵察総局は、'09年1月に、金正恩委員長が、父・金正日総書記から後継指名を受けた時に、「父は先軍政治で朝鮮人民軍を発展させたが、21世紀の戦争に必須のサイバー攻撃部隊がない」と進言して創設したと言われる。
この部隊に所属していた亡命者は、こう証言している。
「サイバーテロ部隊は、金正恩が直接指揮する、大がかりな国家プロジェクトだ。全国の小学生の中から理系の天才児たちを、平壌の金星中学に集め、徹底したコンピュータ教育を施す。
その中から選りすぐって、軍総参謀部傘下の自動化大学(美林大学)でさらに英才教育を施し、卒業生を全員、サイバーテロ部隊に配属するのだ。その数は、数千人規模に上る」
このサイバーテロ部隊の主な「戦果」は、ページ末の表の通りだ。
この表を見ると分かるように、'15年10月にフィリピンの銀行をハッキングしたあたりから、従来型のサイバー攻撃に加えて、外貨稼ぎの手段としても悪用するようになった。
国連やアメリカなどの経済制裁が強まるにつれ、外貨稼ぎの手段が狭まり、銀行システムのハッキングなどによる不正な外貨稼ぎを増やしているのだ。
その典型例が、昨年2月にバングラデシュ中央銀行のシステムに侵入し、まんまと8100万ドル(約92億円)を、北朝鮮に不正送金させたケースである。
比較的防御の弱い国のシステムに侵入し、規制の緩い国(フィリピン)を迂回させて、北朝鮮に送金させたのである。途中で経由先のドイツ銀行が気づかなければ、10億ドル規模の巨額の被害が出るところだった。
その後、北朝鮮は同様の手口で、東南アジアや中南米諸国の金融システムにも侵入したことが明らかになっている。
マレーシアは、今年2月の金正男暗殺事件の舞台になったことがきっかけとなり、北朝鮮と事実上、断交したが、実際には金融ハッカー問題が大きかったと言われる。