2016年8月のある日、エリック・ストームさんは、一番近い火山へ仕事に出かけた。
ストームさんは、ハワイのツアー会社「キラウエア・エコガイド」の経営者で代表ガイドだ。私書箱の住所に「ボルケーノ」の名が含まれているくらい、同社は火山に近い。彼は普段、ハワイ島にあるハワイ火山国立公園を、少なくとも週3回歩き回り、ツアーの先導をする。8月のこの日、ストームさんはサンフランシスコからの観光客グループを案内していた。(参考記事:「【動画】ハワイで「溶岩の滝」が海へ、圧巻の光景」)
ツアーの間、ストームさんは動画が撮れるカメラ「GoPro (ゴープロ)」を、2012年に溶岩が一帯を流れたときにできた割れ目に設置していた。ストームさんはニコンのカメラも持っており、火山ツアーの際にはプロの写真家も連れて行くので、過酷な条件下での撮影には慣れている。カメラを岩と岩の間にはめ込み、溶岩流に向ける配置も、それまで何百回と経験済みだった。だがこのときは、溶岩の流れがいつもより速かった。(参考記事:「【動画】ライオンが奪ったカメラに写っていたのは」)
ストームさんはポリネシアの火の女神ペレについて熱心に話すあまり、カメラのことを忘れてしまった。間もなく、大地の割れ目から炎が上がっているのが目に入った。設置したGoProが燃えていたのだ。
「意図的に溶岩を通過させたわけでは決してありません」とストームさんは話す。「400ドルの授業料でした」
焼け焦げたカメラを回収
2016年の動画がこの時期になって注目を集めたのは、イスラエルの写真家がハワイで溶岩流を上空から撮影中、ドローンに付けたカメラを誤って溶かすという出来事があったからだ。このとき、カメラは一部溶けたが動き続けていた。この一件が報じられたことで、ストームさんに起こった出来事も、初めて多くの人に知られることになった。(参考記事:「【動画】火山噴火をドローン撮影、レユニオン島」)
ストームさんのGoProは焼けてだめになったが、カメラはハンマーを使って溶岩の中から取り出し、岩が冷えていく間に映像を回収することができた。ストームさんによると、カメラ本体は20分ほど経つと革手袋で扱えるくらいまで冷えたので、タオルでくるみ、自宅に持ち帰ったという。
教会のように大切な場所
地元の人にとって、この火山は「教会のような存在」だとストームさんは話す。ハワイの神話によれば、火山の頂は敬うべき神聖な場所だ。溶岩をつついたり、料理に使ったり、何かしらいじくり回したりするのは、無礼とみなされるという。
「私は自分の仕事場に最大限の敬意を払い、ここが極めて神聖で尊重すべき場所だと人々にきちんと理解してもらうために尽力しています」とストームさん。「この場所がいかに神聖で特別か、世界中の人たちに知ってほしいと思います」(参考記事:「【動画】溶岩の噴出が半端ない! 迫力のエトナ山」)
動きはゆっくりだが、溶岩は1100℃を超えることがあり、ほとんどどんな物でも溶かしてしまう。ツアー客の安全のため、キラウエア・エコガイドは通常、参加者に革手袋、火山ガス用の呼吸器、ライトを渡している。ツアーの終了時間が日没後になることが多いためだ。水や応急処置用品などを含めると、ガイドのバックパックに入る装備は重さ20キロ前後になることもあるとストームさんは話す。
「活火山を訪れる人には、その場所に敬意を払い、溶岩に触れないようお願いしています」とストームさん。焼けたGoProについては「全く私の不注意によるアクシデントです」と語った。(参考記事:「超巨大火山のマグマ、休眠から数十年で巨大噴火も」)