木造船 窃盗容疑で捜査の方針

北朝鮮から来たとみられる木造船が立ち寄った道南の松前町の沖にある無人島の建物から家電製品や布団などがなくなっていたほか、海上保安部が管理する灯台のソーラーパネルの一部もなくなっていたことがわかりました。警察は、木造船の乗組員が持ち出した可能性があるとみて、盗みの疑いで捜査することにしています。
北朝鮮から来たとみられる漁船は11月28日、松前町の沖にある無人島の「松前小島」に一時立ち寄ったことが確認され、その後、海上保安部の巡視船がこの船を見つけた際、乗組員が家電製品などを海に投棄したのを確認したほか、船内からはテレビなど複数の家電が見つかりました。
警察や第1管区海上保安本部、それに地元の漁協の関係者らが4日、島で調査を行った結果、このうち漁協が所有する小屋は玄関のドアが壊され、内部が荒らされた状態で、中にあったテレビや冷蔵庫などの家電製品のほか食器や布団など家財道具一式がほとんどなくなっていたことがわかりました。
また、海上保安部が管理する松前小島灯台のソーラーパネルの一部も何者かに取りはずれた状態で、そのパネルが島の港内でみつかったということです。
漁協や海上保安部では、ほかにもなくなっているものがないかさらに調査を行うことにしています。
島の漁港の管理をしている松前町水産課の佐藤祐二課長は、「建物の鍵が壊されて、テレビなどがなくなり、予想以上にひどい状況だった。警察に被害届けを出すかは今はコメント出来ない」と話していました。
一方、警察は木造船の乗組員が持ち出した可能性があるとみて、盗みの疑いで捜査することにしています。

「松前小島」で調査を行った町から島の漁港の管理を委託されている吉田修策さんは、「島にある小屋は、中がぐちゃぐちゃでドアのちょうつがいまでほとんど全部なくなってる。漁港の管理を今後どうしていけばよいのか、町や漁協と考えていなかればならない」と話していました。

【木造船 これまでの経緯】
国籍不明の木造船は11月28日の午後、パトロール中の警察のヘリコプターが松前小島の港に停泊しているのを見つけました。
その後、第1管区海上保安本部の巡視船と航空機が複数の人物が上陸しているのを確認しましたが、その日は悪天候で島へ行くことができませんでした。
そして、翌29日になって島から北東におよそ12キロの沖で漂流する木造船を巡視船が見つけました。
巡視船は監視を続け、知内町の沖合で11月30日から船に立ち入っての検査を開始し、12月3日からは木造船を函館港の外まで移動して検査を続けています。
調べに対し乗組員は「ことし9月に朝鮮半島北東部のチョンジンからイカ漁に向かったものの1か月ほど前からかじが壊れて漂流した。
悪天候の中、たまたま島を見つけて避難した。もしも避難していなければ死んでいた」と話しています。
また、乗組員は10人で、北朝鮮の本人確認証などを持ち、全員が帰国を希望しているということです。
その一方、船内からはテレビなどの複数の家電製品が見つかったほか、木造船が発見された際、乗組員が家電製品などを海へ投棄しているのを巡視船が確認しています。
こうしたことを受け、第1管区海上保安本部と警察は3日、松前小島を調べました。
関係者の話によりますと、地元の漁協が所有する建物からはテレビや冷蔵庫、洗濯機など複数の家電のほか、食器や布団、ジャンパーなどが入ったバックもなくなっていたということです。
さらに建物内は荒らされていて、アニメキャラクターが描かれたポスターなどの装飾品もなくなっていて、室内には何もない状態だということです。
一方、海上保安本部が管理する「松前小島灯台」では発電用に周囲に設置されているソーラーパネルの一部がなくなっていましたが、その後の調べておよそ300メートル離れた港の防波堤に落ちているのが確認されました。
また、灯台の入り口にあるシャッターのカギが壊され、内部に侵入された形跡があったということです。
海上保安本部は5日も木造船の乗組員から詳しく事情を聞くことにしています。

【「松前小島」の状況は】
木造船が立ち寄った「松前小島」の北東には、第1管区海上保安本部が管理する松前小島灯台があります。
海上保安本部によりますと、灯台の敷地にあるソーラーパネルの一部がなくなっているほか、灯台の入り口にあるシャッターのカギが壊され、内部に侵入された形跡が残っていたということです。
灯台の南側には、大しけの際の緊急避難用などとして使われる漁港と松前町の松前さくら漁業協同組合が所有する管理小屋、発電機小屋、倉庫それにトイレの4つの建物があります。
このうち、管理小屋は町からの委託を受け、港を管理する管理人が、年に50日ほど寝泊まりするための小屋です。
ブラウン管テレビ3台と冷蔵庫4台、洗濯機や炊飯器、電子レンジ、ガスコンロ、ストーブ、食器や布団や着替え、防寒用のジャンパーが入ったバッグ、それに発電機や小型バイクなど島の滞在に必要な生活用具一式を取りそろえられているほか、室内にはパチンコ台のキャラクターが描かれたポスターもあったということです。
不在の際には、玄関や窓に鍵をかけていたということですが、関係者によりますと、小屋は玄関のドアが壊され、内部は荒らされた状態で、テレビ1台と冷蔵庫1台などを残して、ほとんど何も残っていない状態だということです。
また、管理小屋の南にある発電機小屋には軽油や灯油を備蓄していました。
軽油や灯油を入れたタンクがなくなっていたほか小型の船に取り付ける船外機もなくなっていたということです。

【専門家の見方は】
今回の問題で、日朝関係に詳しい専門家は、仮に木造船が窃盗事件に関与していた場合、日本の法令に基づいた対応が基本になるとしています。
元外交官で、日朝国交正常化交渉の政府代表をつとめた美根慶樹さんは、「仮に木造船が窃盗事件に関与していたとすれば、日本の法令に従って対応することが基本だ。
ただ乗組員を刑事訴追しても、結論が出るまで時間も手間もかかる。
賠償の見込みがないことなどを踏まえると、現実的な解決方法を考える必要もあるのではないか」と話しています。
また、日本海側で朝鮮半島から漂流してきたとみられる船が相次いで見つかっていることについては、「北朝鮮が外貨を得ようと沿岸の漁業権を中国に売却し、沖合の離れた海域に漁に出た漁船が漂着したものと考えられる」と分析した上で、「日本海沿岸の住民が不安を感じるのは当然だ。単なる漁船なのか、それとも工作船のような不審な船なのかについて、海上保安庁などが住民に正しい情報を迅速に伝えることが必要だと思う」と指摘しています。
【北朝鮮?相次ぐ木造船】
海上保安庁によりますと、朝鮮半島から来たとみられる木造船が日本国内に漂着したり周辺で漂流したりするケースは11月、28件確認されました。
月別の数としては、平成26年1月の21件を7件上回って、データがあるこの4年で最も多くなっています。
こうしたケースは例年、海上がしけやすい冬場に多くなる傾向があり、ことしも10月までは2件から5件の範囲で推移していましたが先月になって急激に増えました。
背景には、北朝鮮が厳しい食糧事情への対応や外貨獲得の手段として、水産資源の確保に力を入れていることがあるとみられます。
キム・ジョンウン朝鮮労働党委員長はことし元日の演説で漁獲量のさらなる増加を目指す姿勢を打ち出し、先月には朝鮮労働党の機関紙が「冬場の漁獲戦闘で戦勝の砲声を響かせるべきだ」と伝え、漁業に力を入れる方針に変わりはないと強調しています。
また、専門家によりますと、北朝鮮では、外貨獲得の手段として沿岸で漁をする権利を中国側に売り渡す動きがあるということで、その結果、北朝鮮の漁船が自国の沿岸を通り越して日本海まで来るケースが増えているとみられています。
朝鮮半島から来たとみられる木造船の漂着や漂流は、平成25年が80件、平成26年が65件、おととしが45件、去年が66件、そして、ことしは3日の時点で63件確認されていて、今後、増える可能性もあります。

【日本海でなにが?】
水産庁などによりますと、能登半島沖の日本の排他的経済水域にある「大和堆」と呼ばれる漁場では、北朝鮮の漁船が、日本側の許可を得ずに操業するケースがここ数年、目立っています。
北朝鮮の漁船は、7月と8月を除くほぼ年間を通じてカニ漁を行っているほか、6月から12月にかけてイカをとっているとみられるということです。
ことし7月からは地元の漁業者の要請を受けて海上保安庁の巡視船が大和堆付近で取り締まりを行っていて、7月は北朝鮮の漁船724隻に対して日本の排他的経済水域から退去するよう警告が行われました。
警告の対象は、8月は99隻に減りましたが、9月が499隻、10月が411隻と再び増加し、先月は186隻に対して退去するよう警告が行われました。
海上保安庁によりますと、7月の取り締まり開始以降、大和堆で北朝鮮の漁船はほとんど見られなくなりましたが、日本の排他的経済水域のすぐ外側では北朝鮮の漁船が多数確認されていて、海がしけて流されてくることもあるということです。
海上保安庁は引き続き現場に巡視船を派遣して、監視にあたっています。