822/822
第十四話 世界の異変
それから一週間後――世界はさらなる動きを見せた。
それは何の前触れなのかは分からない。
しかし確実に。絶対的に。
世界に異常が起こり始めたのだ。
まず初めに気づいたのは、各地の魔物たちを調査している者たちである。
その者たちは、いつも通り近場に存在する魔物の生態調査をしようと出掛けたのだが、対象の魔物の存在を発見することができなかった。
魔物の棲息地はそこであり、他へ移動するという習性などなかったのだ。
だからもしかしたら他の魔物に捕食されたのでは、という見解に辿り着くのも仕方なかったのだが、不意に他の者が気づいた。
それは――調査対象外の魔物の存在も確認できない、ということ。
これはさすがにおかしいと思い、調査隊は周囲を隈なく調べることに。
するとようやく魔物の姿を発見することができた。
魔物たちは、例外なく巣穴に引きこもっていたのだ。
食物連鎖的に、弱い魔物が引きこもることは珍しくはない。強い存在が立ち去るのをそうして待ったりもする。
しかしここら一帯に棲む魔物たちすべてが、となると異常としか思えない。
試しにAランク級の魔物を巣穴から引っ張り出してみたが、外へ出た瞬間に大暴れし、調査隊から逃げ回って巣穴へ戻って行ったのである。
Aランク級といえば、優秀な冒険者が徒党を組んで討伐しなければならないほどの強者だ。
それなのに、魔物はまるで何かに怯えたように巣へと逃亡したのである。
そしてその現象は、そこ一帯ではなく世界中に広まり始めた。
するとそこからさらに世界は軋み始めたように、各地の空を黒い雲が支配し始めたのだ。
まるで闇そのものを思わせる雲に、当然調査の手が伸びる。
しかし調査した結果、色が黒いだけで普通の雲と何ら変わりがないという調査報告が上がった。
当然大陸に存在する一つの国家の主である日色の耳にも、その報は届けられることに。
「――――なるほどな。つまり世界に異変が生じてる可能性が大だってことか」
執務室にて、上がってきた報告書に目を通して溜め息混じりに発した。
「他にも気になることがある」
報告書を届けてくれたリリィンの言葉に「何?」と眉をひそめる日色。
彼女の隣に立つシウバが、黒いファイルを手渡してきた。
受け取った日色はザッと資料に目を通していき、驚愕する。
「読んだか? まだ小規模だが、獣人界の各地では流行り病が蔓延している」
「……病の傾向は?」
「廃れたと思われた《枯渇病》と呼ばれる病だ」
「《枯渇病》……? どこかで聞いたな」
「昔、【獣王国・パシオン】を襲った未曾有の病気だ」
そうだった。確かまだレオウードが王子として辣腕を振るっていた時代だったと聞いている。
その時に蔓延った病。それは国を蝕み、一時期は壊滅するほどの甚大な被害をもたらした。
しかし何とか特効薬を作ることができて、ある程度病を落ち着きを見せたという。しかしレオウードの妃になっていたはずの一人の少女が、レッグルスの母でありレオウードの妻であるブランサを庇って命を落とした。
その少女というのが、以前アヴォロスが組織した《マタル・デウス》に所属していたコクロゥの姉だったはず。
「その病が獣人界で広がり始めてる?」
「そうだ。それだけでなく、他にも過去に流行った病が獣人界を中心にして、な」
「! ということは、他の大陸にも被害が?」
「このままだとそうなる、かもな。今はレッグルスたちが対応しているらしいが、病が広がっている原因を突き止めない限りは確実な根絶には至らない」
「……ミュアとオッサンはどうしてる?」
「原因の解明に尽力している。ここも獣人界にあることだしな。国を中心にして、調査してもらっているのだ」
「それでいい。ミュアの力を使えば、たとえ病に侵されていても治すこともできるだろう」
彼女の『銀竜』としての力は守りの力であり、邪を祓う力も持つ。駆使すれば病自体を祓うこともできるのだ。
(この国はミュアやオレがいれば何とかなるが、他の場所ではそうはいかないだろうな)
過去に特効薬が作られているといっても、病人の数が劇的に増加してしまえば追いつかなくなるのは明白。それに気になることもある。
かつて『神族』によってもたらされてた病や呪いは【ヤレアッハの塔】のシステムを使って造りあげられたものだった。
(《枯渇病》もその一種のはず。それなのに再び復活してるってことは……)
自然に発生したものである可能性と、誰かの手による可能性が考えられる。ただシステム自体は、日色しか使えなくしているので、システムによって病を広げるのは不可能。
となると自然に発生したと仮定するしかないが……。
「今は【パシオン】の頭脳の二人、ユーヒットとララシークが総力を挙げて薬作りに勤しんでいるようだ」
「白髪の男や四つ目の大陸のこともあるってのに、厄介だな……ん? ジイサン、深刻そうな顔をしてどうした?」
シウバが険しい顔で考え込んでいたので気になった。
「いえ、少し気になったことがございまして」
「気になったこと?」
「はい。四つ目の大陸の存在が明らかになってすぐに、白髪の男の存在も判明しました。次に魔物たちの不明の引きこもり現象に空を覆う黒い雲。そして流行り病……と」
「……何が言いたい?」
「いえ。立て続けに事が起こり過ぎているような気が致します」
「それはワタシも気になっていた。貴様はこう言いたいのだろう? すべては一つに繋がっている、と」
リリィンの言葉に対し、シウバが「恐らくは」と頷きを返した。
確かに、こうも連続して異常事態が起きれば関連性を疑ってしまうのは当然だ。
「…………この世界の異変。もしかしたらその白髪の男が起こしている可能性があるってことか」
「断定はできませんが、ヒイロ様も何となくそう思ってらしたのでは?」
オリザスが何かしらの方法で、世界に異常を広げているとするなら、もう彼はすでに動き出しているということだ。
(アヴォロスからは、目ぼしい情報はない。糸目野郎が示した場所には、すでに奴はいなかったようだからな)
今もアヴォロスと、日色が貸した部隊による捜索は続けられているが、オリザスの尻尾すら掴めていない状況である。
(やはり白髪の男を見つけることが急務……か)
日色の魔法で男の所在を明らかにしようとしてみたが、何らかの抵抗が働いて発見できずにいる。
元々この世界の住人ではない者に対する効果が低いという特性も持ち合わせているのかもしれない。
(まあ、アダムスよりも頭がキレるってことだしな。オレの魔法も研究されて対策をしている可能性は十分に考えられるが)
それにしても、世界の理すら歪められる《文字魔法》から逃れている事実は見逃せないほど、オリザスの実力が高いということだろう。
「……ヒイロ様、もしかしたら他国の病を抱えた者が、この国に続々と押し寄せてくるかもしれませんが」
「ハッキリ言って面倒だ……では済ませられないか。今となっては、な」
もう国王なのだ。たとえ自国の民ではなくても、助けを求めてきた者たちを蔑にしてしまえば信用問題に関わる。
それに恐らくは、レッグルスやイヴェアムからの要請という形になるだろうし、彼らの頼みを無下に断るつもりもない。
とにかく今できることをし続けるしかない。
(アヴォロスから進展の話が聞ければいいが……)
するとそこへ、慌ただしくレッカが部屋へと入ってきた。
次回更新は14日です。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
この小説をブックマークしている人はこんな小説も読んでいます!
無職転生 - 異世界行ったら本気だす -
34歳職歴無し住所不定無職童貞のニートは、ある日家を追い出され、人生を後悔している間にトラックに轢かれて死んでしまう。目覚めた時、彼は赤ん坊になっていた。どうや//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全286部分)
- 37568 user
-
最終掲載日:2015/04/03 23:00
異世界はスマートフォンとともに。
神様の手違いで死んでしまった主人公は、異世界で第二の人生をスタートさせる。彼にあるのは神様から底上げしてもらった身体と、異世界でも使用可能にしてもらったスマー//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全456部分)
- 23757 user
-
最終掲載日:2017/11/23 08:42
LV999の村人
この世界には、レベルという概念が存在する。
モンスター討伐を生業としている者達以外、そのほとんどがLV1から5の間程度でしかない。
また、誰もがモンス//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全344部分)
- 25845 user
-
最終掲載日:2017/12/03 05:53
フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~
※作者多忙につき、当面は三週ごとの更新とさせていただきます。
※2016年2月27日、本編完結しました。
ゲームをしていたヘタレ男と美少女は、悪質なバグに引//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全225部分)
- 25765 user
-
最終掲載日:2017/11/25 07:00
境界迷宮と異界の魔術師
主人公テオドールが異母兄弟によって水路に突き落されて目を覚ました時、唐突に前世の記憶が蘇る。しかしその前世の記憶とは日本人、霧島景久の物であり、しかも「テオド//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全1312部分)
- 27168 user
-
最終掲載日:2017/12/05 00:00
Re:ゼロから始める異世界生活
突如、コンビニ帰りに異世界へ召喚されたひきこもり学生の菜月昴。知識も技術も武力もコミュ能力もない、ないない尽くしの凡人が、チートボーナスを与えられることもなく放//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全443部分)
- 28841 user
-
最終掲載日:2017/06/13 01:00
黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~
記憶を無くした主人公が召喚術を駆使し、成り上がっていく異世界転生物語。主人公は名前をケルヴィンと変えて転生し、コツコツとレベルを上げ、スキルを会得し配下を増や//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全481部分)
- 23667 user
-
最終掲載日:2017/12/02 18:00
用務員さんは勇者じゃありませんので
部分的学園異世界召喚ですが、主役は用務員さんです。
魔法学園のとある天才少女に、偶然、数十名の生徒・教師ごと召喚されてしまいます。
その際、得られるはずの力をと//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全142部分)
- 23455 user
-
最終掲載日:2017/08/25 18:00
とんでもスキルで異世界放浪メシ
※タイトルが変更になります。
「とんでもスキルが本当にとんでもない威力を発揮した件について」→「とんでもスキルで異世界放浪メシ」
異世界召喚に巻き込まれた俺、向//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全393部分)
- 34294 user
-
最終掲載日:2017/12/04 22:24
二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む
魔王を倒し、世界を救えと勇者として召喚され、必死に救った主人公、宇景海人。
彼は魔王を倒し、世界を救ったが、仲間と信じていたモノたちにことごとく裏切られ、剣に貫//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全128部分)
- 24671 user
-
最終掲載日:2017/11/20 09:02
マギクラフト・マイスター
世界でただ一人のマギクラフト・マイスター。その後継者に選ばれた主人公。現代地球から異世界に召喚された主人公が趣味の工作工芸に明け暮れる話、の筈なのですがやはり//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全1728部分)
- 27746 user
-
最終掲載日:2017/12/04 12:00
蜘蛛ですが、なにか?
勇者と魔王が争い続ける世界。勇者と魔王の壮絶な魔法は、世界を超えてとある高校の教室で爆発してしまう。その爆発で死んでしまった生徒たちは、異世界で転生することにな//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全529部分)
- 28855 user
-
最終掲載日:2017/10/13 23:33
二度目の人生を異世界で
唐突に現れた神様を名乗る幼女に告げられた一言。
「功刀 蓮弥さん、貴方はお亡くなりになりました!。」
これは、どうも前の人生はきっちり大往生したらしい主人公が、//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全383部分)
- 30008 user
-
最終掲載日:2017/11/29 12:00
八男って、それはないでしょう!
平凡な若手商社員である一宮信吾二十五歳は、明日も仕事だと思いながらベッドに入る。だが、目が覚めるとそこは自宅マンションの寝室ではなくて……。僻地に領地を持つ貧乏//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全205部分)
- 36649 user
-
最終掲載日:2017/03/25 10:00
私、能力は平均値でって言ったよね!
アスカム子爵家長女、アデル・フォン・アスカムは、10歳になったある日、強烈な頭痛と共に全てを思い出した。
自分が以前、栗原海里(くりはらみさと)という名の18//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全247部分)
- 24308 user
-
最終掲載日:2017/12/05 00:00
レジェンド
東北の田舎町に住んでいた佐伯玲二は夏休み中に事故によりその命を散らす。……だが、気が付くと白い世界に存在しており、目の前には得体の知れない光球が。その光球は異世//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全1570部分)
- 31194 user
-
最終掲載日:2017/12/04 18:00
ありふれた職業で世界最強
クラスごと異世界に召喚され、他のクラスメイトがチートなスペックと“天職”を有する中、一人平凡を地で行く主人公南雲ハジメ。彼の“天職”は“錬成師”、言い換えればた//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全291部分)
- 45202 user
-
最終掲載日:2017/12/03 10:45
Knight's & Magic
メカヲタ社会人が異世界に転生。
その世界に存在する巨大な魔導兵器の乗り手となるべく、彼は情熱と怨念と執念で全力疾走を開始する……。
*お知らせ*
ヒーロー文庫よ//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全133部分)
- 23450 user
-
最終掲載日:2017/11/19 20:09
ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント-
世界最強のエージェントと呼ばれた男は、引退を機に後進を育てる教育者となった。
弟子を育て、六十を過ぎた頃、上の陰謀により受けた作戦によって命を落とすが、記憶を持//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全177部分)
- 27854 user
-
最終掲載日:2017/11/29 00:00
転生したらスライムだった件
突然路上で通り魔に刺されて死んでしまった、37歳のナイスガイ。意識が戻って自分の身体を確かめたら、スライムになっていた!
え?…え?何でスライムなんだよ!!!な//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全303部分)
- 37726 user
-
最終掲載日:2016/01/01 00:00
異世界迷宮で奴隷ハーレムを
ゲームだと思っていたら異世界に飛び込んでしまった男の物語。迷宮のあるゲーム的な世界でチートな設定を使ってがんばります。そこは、身分差があり、奴隷もいる社会。とな//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全221部分)
- 30198 user
-
最終掲載日:2017/11/30 20:07
聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~
地球の運命神と異世界ガルダルディアの主神が、ある日、賭け事をした。
運命神は賭けに負け、十の凡庸な魂を見繕い、異世界ガルダルディアの主神へ渡した。
その凡庸な魂//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全362部分)
- 24836 user
-
最終掲載日:2017/09/06 20:00
賢者の孫
あらゆる魔法を極め、幾度も人類を災禍から救い、世界中から『賢者』と呼ばれる老人に拾われた、前世の記憶を持つ少年シン。
世俗を離れ隠居生活を送っていた賢者に孫//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全125部分)
- 32154 user
-
最終掲載日:2017/11/28 11:51
盾の勇者の成り上がり
盾の勇者として異世界に召還された岩谷尚文。冒険三日目にして仲間に裏切られ、信頼と金銭を一度に失ってしまう。他者を信じられなくなった尚文が取った行動は……。サブタ//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全852部分)
- 31711 user
-
最終掲載日:2017/11/28 10:00
デスマーチからはじまる異世界狂想曲
◆カドカワBOOKSより、書籍版11巻、コミカライズ版5巻発売中! アニメ放送は2018年1月予定です。
※書籍版とWEB版は順番や内容が異なる箇所があります。//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全556部分)
- 38706 user
-
最終掲載日:2017/12/03 20:06
ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた
◆書籍⑧巻まで、漫画版連載中です◆ ニートの山野マサル(23)は、ハロワに行って面白そうな求人を見つける。【剣と魔法のファンタジー世界でテストプレイ。長期間、//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全190部分)
- 25264 user
-
最終掲載日:2017/11/27 21:00
進化の実~知らないうちに勝ち組人生~
柊誠一は、不細工・気持ち悪い・汚い・臭い・デブといった、罵倒する言葉が次々と浮かんでくるほどの容姿の持ち主だった。そんな誠一が何時も通りに学校で虐められ、何とか//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全114部分)
- 26541 user
-
最終掲載日:2017/11/11 15:19