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金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~ 作者:十本スイ

特別篇

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第十四話 世界の異変

 それから一週間後――世界はさらなる動きを見せた。
 それは何の前触れなのかは分からない。
 しかし確実に。絶対的に。
 世界に異常が起こり始めたのだ。
 まず初めに気づいたのは、各地の魔物たちを調査している者たちである。
 その者たちは、いつも通り近場に存在する魔物の生態調査をしようと出掛けたのだが、対象の魔物の存在を発見することができなかった。
 魔物の棲息地はそこであり、他へ移動するという習性などなかったのだ。
 だからもしかしたら他の魔物に捕食されたのでは、という見解に辿り着くのも仕方なかったのだが、不意に他の者が気づいた。


 それは――調査対象外の魔物の存在も確認できない、ということ。


 これはさすがにおかしいと思い、調査隊は周囲を隈なく調べることに。
 するとようやく魔物の姿を発見することができた。
 魔物たちは、例外なく巣穴に引きこもっていたのだ。
 食物連鎖的に、弱い魔物が引きこもることは珍しくはない。強い存在が立ち去るのをそうして待ったりもする。


 しかしここら一帯に棲む魔物たちすべてが、となると異常としか思えない。
 試しにAランク級の魔物を巣穴から引っ張り出してみたが、外へ出た瞬間に大暴れし、調査隊から逃げ回って巣穴へ戻って行ったのである。
 Aランク級といえば、優秀な冒険者が徒党を組んで討伐しなければならないほどの強者だ。
 それなのに、魔物はまるで何かに怯えたように巣へと逃亡したのである。


 そしてその現象は、そこ一帯ではなく世界中に広まり始めた。
 するとそこからさらに世界は軋み始めたように、各地の空を黒い雲が支配し始めたのだ。
 まるで闇そのものを思わせる雲に、当然調査の手が伸びる。


 しかし調査した結果、色が黒いだけで普通の雲と何ら変わりがないという調査報告が上がった。
 当然大陸に存在する一つの国家の主である日色の耳にも、その報は届けられることに。


「――――なるほどな。つまり世界に異変が生じてる可能性が大だってことか」


 執務室にて、上がってきた報告書に目を通して溜め息混じりに発した。


「他にも気になることがある」


 報告書を届けてくれたリリィンの言葉に「何?」と眉をひそめる日色。
 彼女の隣に立つシウバが、黒いファイルを手渡してきた。
 受け取った日色はザッと資料に目を通していき、驚愕する。


「読んだか? まだ小規模だが、獣人界の各地では流行り病が蔓延している」
「……病の傾向は?」
「廃れたと思われた《枯渇病》と呼ばれる病だ」
「《枯渇病》……? どこかで聞いたな」
「昔、【獣王国・パシオン】を襲った未曾有の病気だ」


 そうだった。確かまだレオウードが王子として辣腕を振るっていた時代だったと聞いている。
 その時に蔓延った病。それは国を蝕み、一時期は壊滅するほどの甚大な被害をもたらした。


 しかし何とか特効薬を作ることができて、ある程度病を落ち着きを見せたという。しかしレオウードの妃になっていたはずの一人の少女が、レッグルスの母でありレオウードの妻であるブランサを庇って命を落とした。
 その少女というのが、以前アヴォロスが組織した《マタル・デウス》に所属していたコクロゥの姉だったはず。


「その病が獣人界で広がり始めてる?」
「そうだ。それだけでなく、他にも過去に流行った病が獣人界を中心にして、な」
「! ということは、他の大陸にも被害が?」
「このままだとそうなる、かもな。今はレッグルスたちが対応しているらしいが、病が広がっている原因を突き止めない限りは確実な根絶には至らない」
「……ミュアとオッサンはどうしてる?」
「原因の解明に尽力している。ここも獣人界にあることだしな。国を中心にして、調査してもらっているのだ」
「それでいい。ミュアの力を使えば、たとえ病に侵されていても治すこともできるだろう」


 彼女の『銀竜』としての力は守りの力であり、邪を祓う力も持つ。駆使すれば病自体を祓うこともできるのだ。


(この国はミュアやオレがいれば何とかなるが、他の場所ではそうはいかないだろうな)


 過去に特効薬が作られているといっても、病人の数が劇的に増加してしまえば追いつかなくなるのは明白。それに気になることもある。
 かつて『神族』によってもたらされてた病や呪いは【ヤレアッハの塔】のシステムを使って造りあげられたものだった。


(《枯渇病》もその一種のはず。それなのに再び復活してるってことは……)


 自然に発生したものである可能性と、誰かの手による可能性が考えられる。ただシステム自体は、日色しか使えなくしているので、システムによって病を広げるのは不可能。
 となると自然に発生したと仮定するしかないが……。


「今は【パシオン】の頭脳の二人、ユーヒットとララシークが総力を挙げて薬作りに勤しんでいるようだ」
「白髪の男や四つ目の大陸のこともあるってのに、厄介だな……ん? ジイサン、深刻そうな顔をしてどうした?」


 シウバが険しい顔で考え込んでいたので気になった。


「いえ、少し気になったことがございまして」
「気になったこと?」
「はい。四つ目の大陸の存在が明らかになってすぐに、白髪の男の存在も判明しました。次に魔物たちの不明の引きこもり現象に空を覆う黒い雲。そして流行り病……と」
「……何が言いたい?」
「いえ。立て続けに事が起こり過ぎているような気が致します」
「それはワタシも気になっていた。貴様はこう言いたいのだろう? すべては一つに繋がっている、と」


 リリィンの言葉に対し、シウバが「恐らくは」と頷きを返した。
 確かに、こうも連続して異常事態が起きれば関連性を疑ってしまうのは当然だ。


「…………この世界の異変。もしかしたらその白髪の男が起こしている可能性があるってことか」
「断定はできませんが、ヒイロ様も何となくそう思ってらしたのでは?」


 オリザスが何かしらの方法で、世界に異常を広げているとするなら、もう彼はすでに動き出しているということだ。


(アヴォロスからは、目ぼしい情報はない。糸目野郎が示した場所には、すでに奴はいなかったようだからな)


 今もアヴォロスと、日色が貸した部隊による捜索は続けられているが、オリザスの尻尾すら掴めていない状況である。


(やはり白髪の男を見つけることが急務……か)


 日色の魔法で男の所在を明らかにしようとしてみたが、何らかの抵抗が働いて発見できずにいる。
 元々この世界の住人ではない者に対する効果が低いという特性も持ち合わせているのかもしれない。


(まあ、アダムスよりも頭がキレるってことだしな。オレの魔法も研究されて対策をしている可能性は十分に考えられるが)


 それにしても、世界の理すら歪められる《文字魔法》から逃れている事実は見逃せないほど、オリザスの実力が高いということだろう。


「……ヒイロ様、もしかしたら他国の病を抱えた者が、この国に続々と押し寄せてくるかもしれませんが」
「ハッキリ言って面倒だ……では済ませられないか。今となっては、な」


 もう国王なのだ。たとえ自国の民ではなくても、助けを求めてきた者たちを蔑にしてしまえば信用問題に関わる。
 それに恐らくは、レッグルスやイヴェアムからの要請という形になるだろうし、彼らの頼みを無下に断るつもりもない。


 とにかく今できることをし続けるしかない。


(アヴォロスから進展の話が聞ければいいが……)


 するとそこへ、慌ただしくレッカが部屋へと入ってきた。



次回更新は14日です。
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