ドラマ「陸王」で読み解く不正連鎖の真因

「モラル低下」「品質への甘え」で片付けてはいけない

2017年12月5日(火)

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 「あなたたちは一連のメーカーの不祥事を見て、どう思っているんですか?」

 別件でとある大手自動車メーカーOBを取材していたときのこと。ずっとメディアに対して言いたいことがあったのだろう。そのOBは不意に記者たち(別の記者もいた)に逆インタビューを始めた。

 「あ、え~っと……」

 口ごもる記者。言いたいことは山ほどあったが、どこからどの順番で話せば理解してもらえるかが分からなかった。というのも、一連の不正について初対面に近い人と話す場合、気をつけなければならないのが「互いに共有している情報量」だからだ。

 「共有する情報量」とはざっくり言えば、どこまでモノ作りの現場を知っているかということ。そのOBは自動車メーカー出身だから、製造業に詳しいことは言うまでもない。

 だが、工場の中のことをどこまで知っているかは分からなかった。OBは元技術者ではあったものの、技術者でも現場を知らない人はいる(現場を知らない技術者には若手が多く、その方の年齢から考えるとその可能性は低かったが……)。

 逆にそのOBは記者がどのような取材を、どの程度してきて、どんな情報を持っているかを知らない。この「前提条件」を理解し合えていない人と話す場合は、注意をしないと「お前は不正をした会社の味方をするのか!」と勘違いされかねないのだ。

 しばらくもごもごしていると、そのOBは堪りかねた様子で口火を切った。

 「あなたたちメディアはすぐに『品質問題』『日本のモノ作りの失墜』って話にしたがりますがね、実際はそうじゃない。あれは品質の問題じゃなくて、管理とかマネジメントの問題ですよ。あの不正があったせいで、実際の品質問題が出ていますか? ないですよ。それも分かっていないのに品質軽視だ、日本の品質低下だとまくしたてるからおかしなことになる。そうじゃないですか?」

 その口調からは、何とも言えないやるせなさと憤りを感じた。その勢いに押されたこともあり、記者はなかなか次の言葉を発することができなかった。そのOBに何かを言っても、あまり説得力が無いとも思えた。

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「ドラマ「陸王」で読み解く不正連鎖の真因」の著者

池松 由香

池松 由香(いけまつ・ゆか)

日経ビジネス記者

北米毎日新聞社(米国サンフランシスコ)で5年間、記者を務めた後、帰国。日経E-BIZ、日経ベンチャー(現・日経トップリーダー)、日経ものづくりの記者を経て、2014年10月から日経ビジネス記者。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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