「あなたたちは一連のメーカーの不祥事を見て、どう思っているんですか?」
別件でとある大手自動車メーカーOBを取材していたときのこと。ずっとメディアに対して言いたいことがあったのだろう。そのOBは不意に記者たち(別の記者もいた)に逆インタビューを始めた。
「あ、え~っと……」
口ごもる記者。言いたいことは山ほどあったが、どこからどの順番で話せば理解してもらえるかが分からなかった。というのも、一連の不正について初対面に近い人と話す場合、気をつけなければならないのが「互いに共有している情報量」だからだ。
「共有する情報量」とはざっくり言えば、どこまでモノ作りの現場を知っているかということ。そのOBは自動車メーカー出身だから、製造業に詳しいことは言うまでもない。
だが、工場の中のことをどこまで知っているかは分からなかった。OBは元技術者ではあったものの、技術者でも現場を知らない人はいる(現場を知らない技術者には若手が多く、その方の年齢から考えるとその可能性は低かったが……)。
逆にそのOBは記者がどのような取材を、どの程度してきて、どんな情報を持っているかを知らない。この「前提条件」を理解し合えていない人と話す場合は、注意をしないと「お前は不正をした会社の味方をするのか!」と勘違いされかねないのだ。
しばらくもごもごしていると、そのOBは堪りかねた様子で口火を切った。
「あなたたちメディアはすぐに『品質問題』『日本のモノ作りの失墜』って話にしたがりますがね、実際はそうじゃない。あれは品質の問題じゃなくて、管理とかマネジメントの問題ですよ。あの不正があったせいで、実際の品質問題が出ていますか? ないですよ。それも分かっていないのに品質軽視だ、日本の品質低下だとまくしたてるからおかしなことになる。そうじゃないですか?」
その口調からは、何とも言えないやるせなさと憤りを感じた。その勢いに押されたこともあり、記者はなかなか次の言葉を発することができなかった。そのOBに何かを言っても、あまり説得力が無いとも思えた。
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