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日本発の量子コンピュータがついにクラウドで一般公開! コヒーレントイジングマシン(CIM)とは何か

ITエンジニアのための量子コンピュータ入門 第4回

2017/12/04 14:00

 第4回の今回は、日本発の量子コンピュータとして注目されている「コヒーレントイジングマシン(または量子ニューラルネットワーク)」と呼ばれる量子コンピュータの解説を行います。これは、現在クラウドで公開されており、我々が実際に使ってみることができる日本で最初の量子コンピュータ(の一種)です。今回の記事では、このマシンをビジネスに使うことをめざして、その動作原理や特徴を解説していきたいと思います。

目次
  • 量子コンピュータ体験サイト「QNNcloud

1. コヒーレントイジングマシン(CIM)とは?

 さて、現在「革新的研究開発推進プログラム ImPACT」という国家プロジェクトで16のプログラムが走っていますが、そのうちの一つに「量子人工脳を量子ネットワークでつなぐ高度知識社会基盤の実現」というものがあります。これは、産学連携で量子情報技術に関する研究を行うプログラムで、「量子コンピュータ」「量子シミュレーション」「量子セキュアネットワーク」という3つのテーマを軸としています。

 そのうち量子コンピュータのテーマでは、本プログラムで「量子人工脳」と呼ぶ、組合せ最適化問題に特化したマシンを開発しています。このマシンは、コヒーレントイジングマシン(CIM)、または量子ニューラルネットワーク(QNN)、光ネットワーク方式の量子コンピュータなどとさまざまに呼ばれていますが、本記事ではコヒーレントイジングマシンの略称であるCIMで統一します。

 CIMとはいったいどんなものなのでしょうか? 概要を説明しましょう。まず、第1回から解説しているD-Waveマシンのような、通常のコンピュータでは解くことが難しい組合せ最適化問題を高速に解く“専用マシン”です。実用化すれば、通常のコンピュータを補うアクセラレータとして活用することができるようになります。

 そしてCIMの最大の特徴は、通常のコンピュータが半導体と電気回路で動作するのに対して、「光」を使って計算するということです。具体的には、光通信で一般的に使われる光ファイバー中のレーザーパルスを量子ビットに見立てて計算をするという、かなりぶっ飛んだ手法を使います。これが実現すれば、世界で初めての「光コンピュータ[1]」が実現します。今回は、CIMの動作原理と特徴について解説し、さらに、2016年11月に発表された論文の内容を示して、CIMの実力を考察します。

 CIMの仕組みについては、NTT物性科学基礎研究所が公開しているYouTube動画もありますので、併せて参照してください。

[1] 光コンピュータ

 実は、光コンピュータの着想は1980年頃からあり、光の諸特性を使って計算をするという研究が行われていた。しかし、1990年代以降、半導体の微細化技術の進展によって電子回路によるコンピュータの地位が絶対的なものになり、光コンピュータの研究は衰退した。現在、計算は電子回路、通信は光による光通信という役割分担で今日に至っているが、今もなお光計算を開発しているOptalysysという企業もある。ただしこれは光の量子性には着目していないため、CIMとの直接的な共通点はない。

2. コヒーレントイジングマシンの開発(1)

 CIMの動作原理を理解するために、CIM開発の歴史を追って説明していきます。CIMは主に国立情報学研究所(NII)とNTT、Stanford大学で構成される研究チームによって発展してきました。どのように今の形になったのかを知ることで、重要な動作原理である「測定フィードバック型」の計算原理のイメージを掴むことができると思います。

コヒーレントイジングマシンができるまで
コヒーレントイジングマシンができるまで

 上に示したのは、CIMの発展の過程です。私がかってに、第0期~第3期まで番号をふっています。CIMに関する論文は十数本出版されており、それらを読むうちに段階的により実用的な方式が提案されていき、現在の形になったことが分かります。それでは順番に説明していきましょう。

第0期:注入同期レーザー型イジングマシン

 CIMの初期の研究は、理論検討が中心の2011年の論文[1]に始まります。本論文では、注入同期レーザー型イジングマシンのコンセプトを提案しています。まずはこのコンセプトを説明しましょう。

 下の図に示すように、一つのマスターレーザーと複数のスレーブレーザーを光ファイバーなどの光ネットワークで相互に結合されている状態を考えます。マスターレーザーから光を同期注入された複数のスレーブ(slave:奴隷)レーザーは、注入された光のエネルギーを借りて自らも発振します。このスレーブレーザーが発振して出射する光の偏光状態(右回り円偏光、左回り円偏光)をイジングモデルのスピン±1に対応させて計算を行う仕組みです。

 複数のスレーブレーザー同志も相互に結合しており、(図では省略していますが)結合の間にそれぞれイジングモデルのJijに対応する相互作用が偏光板を使って実装されています。そして、マスターレーザーのパワーを上げていくとあるところでスレーブレーザーが同時に発振し光を出射します。この光の偏光方向の組み合わせは、損失が最小になるように発振するという特徴があり、この偏光方向を測定することによりイジングモデルの組み合わせ最適化問題を解くことができます。このコンセプトは、論文[2]などの理論研究が行われ、のちに論文[7]によって原理実証が行われました。

注入同期レーザー型イジングマシン
注入同期レーザー型イジングマシン

 以上で説明した注入同期レーザー型イジングマシンのコンセプトは、スレーブレーザーの数が量子ビット数に対応します。つまり1000量子ビットを実装しようとすると、スレーブレーザーを1000個用意する必要があります。これは光通信などの分野で開発されている面発光レーザー(VCSEL)という技術を使って集積化できる可能性があります。しかし、スレーブレーザー同志の結合を実装するのが容易ではないという課題があります。結合はN量子ビットに対しておよそNの2乗必要になるため、いちいち光ファイバーなどで結合をつくるのはかなり大変です。そこで、この課題を解決するアイデアが提案されました。それがCIMのコンセプトです。


著者プロフィール

  • 宇津木 健(ウツギ タケル)

     「量子情報勉強会」主催。東京工業大学大学院物理情報システム専攻卒業後、メーカーの研究所にて光学関係の研究開発を行っています。 また、中野付近でお芝居をしています! Twitter:@utsugitakeru

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