純粋に“映画”として評価された『CASSHERN』

(C)2004「CASSHERN」パートナーズ

先日、30歳前後の若い編集者と映画やアニメの世間話をしている中、ふと彼が「そういえば『CASSHERN』って面白かったですね」と漏らしたので、思わず「え、それってどういうこと?」って聞き返してしまいました。

「だってかっこよかったじゃないですか。当時学校でも、普段映画見ない奴らも結構あれは見てて、クラスの中で盛り上がってたんですよ」

なるほど、やはりそれがあの映画の本質だったかと、納得してしまいました……。

『新造人間キャシャーン』と
『CASSHERN』の相違点

『CASSHERN』は、1973年から74年にかけて放送されたタツノコ・プロダクションの人気テレビ・アニメーション・シリーズ『新造人間キャシャーン』(全35話)を原作とする実写の日本映画です。

原作のストーリーは、東博士が開発した公害処理用ロボットBK-1が落雷の衝撃で自我を持ち、自らブライキングボスと名乗り、公害を引き起こす元凶たる人間を抹殺すべくアンドロ軍団を結成して世界征服を開始。

これを憂慮した東博士の息子・鉄也は、父に懇願して新造人間の手術を受け、鋼の身体を持つキャシャーンとなってアンドロ軍団に立ち向かっていくというもの。

当時小学生だった私は、そのスタイリッシュな絵柄と、二度と人間に戻れないであろう哀しみを帯びながら戦い続けるキャシャーンのストイックな勇姿に見とれたものでした。

これに対し、映画『CASSHERN』は環境破壊と汚染が進む近未来を舞台に、東博士が発表した画期的再生医療“新造細胞”理論が軍部によって促進されていき、博士もこれに従事。それに反発した息子の鉄也は周囲の反対を押し切って軍隊に入り、戦死してしまいます。

その頃、博士の研究所では新造細胞が勝手に結合して次々と人体化していき、これを恐れた者らの手で彼らは抹殺されますが、奇跡的に生き延びた者=新造人間ブライキング・ボスが人類への復讐を誓い、仲間らとともに宣戦布告。一方、東博士は鉄也の亡骸を培養槽に浸し、新造人間として蘇らせます……。

このように映画『CASSHERN』は原作アニメの世界観を部分的に踏襲しつつも、かなり印象の異なる内容のものとして製作されました。

監督は数々のミュージック・クリップで高い評価を得ていた紀里谷和明で、これが映画監督デビュー作。ポップな映像センスの中にアーティスティックなこだわりを盛り込むことに長けた彼は、ここでも原作がヨーロッパに倣った舞台設定をしていることに着目し、かつてのロシアや東欧共産圏で発展した構成主義的イメージにスチームパンクを融合させた退廃的世界観を構築し、原作をリスペクトしつつも自らのアーティスティック・センスを徹底的に披露していきました。

しかし、そういった改変によって、公開当時は「これは『新造人間キャシャーン』ではない」と、多くの原作ファンからバッシングを受けました。特にキャシャーンがほとんどヘルメットをかぶらないことや、また彼の相棒たる愛犬ロボット、フレンダーが登場しないこと(もっとも生身の犬としてのフレンダーは出てきます)はかなりのファンをがっかりさせてしまいました。敵のブライキング・ボスをロボットではなく新造人間に変更したのは良しとして、原作ではコワモテキャラだったのを映画ではイケメン唐沢寿明に演じさせたのも、原作を好きであればあるほど違和感を払拭できないものがあったようです。

ほぼ全編をスタジオ撮影し、マット画によるCG合成で紡がれていった映像もどこか見る者に息苦しさを与え(それも演出の狙いではあったとは思いますが)、またさすがにミュージック・クリップとは異なり、2時間の長尺を演出するにあたって、全体の構成にいささかバランスの悪さがあったことは否めません。

こういった具合に、当時『CASSHERN』は原作ファンや映画マスコミからは大いに不評でしたが、それでも興収15億3000万円を計上するヒットとなりました。それには当時この手のSFアニメの実写化が珍しかったことや、主題歌を当時紀里谷監督の妻だった宇多田ヒカルが歌っていたことも話題になっていたからだろうというのが大方の見方でした。

そんな中、私自身は『CASSHERN』をかなりユニークで大胆な試みの作品として面白く見ていました。何よりもその構成主義的世界観の中に、特にチェコをはじめとする東欧ファンタスティック映画の空気感と同じものを感じ(思えばロボットという言葉の語源も1920年のチェコスロバキアの小説家カレル・チャペックが発表した戯曲『R.U.R.(ロッサム万能ロボット)』が語源です。しかもここで登場するロボットは機械人間ではなく、新造人間のようなバイオノイドでした)、また数々のミュージッククリップで養った大胆かつ挑戦的映像センスにも大いに目を見張らされました。

多くの原作ファンがバッシングする中、これは『新造人間キャシャーン』をリスペクトした紀里谷和明監督が、そこに自身のアーティスティックな才覚を盛り込んだものとして大いに評価し(これが後出しジャンケンでないことは、当時の「キネマ旬報」での作品特集を読んでいただければと思います)、これによって私は映画業界の中でかなりマイノリティな立場に追い込まれてしまいました⁉

海外での評価を得ての
ワールドワイドな活動へ

しかし『CASSHERN』はその後イギリスやカナダ、フランス、韓国など海外で公開され、そこでかなりの反響を呼ぶことになりました。それは原作を知らないからこそ、純粋に“映画”としてのスタイリッシュな美意識の数々に魅了されていったわけで、キャストにしても伊勢谷友介や唐沢寿明などのイケメンを主格に据えたことも世界観に即していたと思います。特に唐沢寿明は原作の大ファンで、自分がブライキング・ボスを演じることそのものに大いに昂揚していたとか(現在、人気ドラマの劇場版『LAST COP THE MOVIE』でも昭和バリバリの中年オヤジ刑事を好演している彼、俳優としてのキャリアの初期はスタントマンやスーツアクターとして特撮ヒーローものに出演しており、そのキャリアを活かしたのがスーツアクターの生きざまを描いた快作『イン・ザ・ヒーロー』でした)。

最初に話した『CASSHERN』が面白かったという編集者の彼も原作アニメは見たことがなく、単に宇多田ヒカルの主題歌などの話題で見てみようかという程度のものだったのが、いざ鑑賞するやその美しさに魅惚れ、日本映画でこういうものが作れるのかと感嘆したのだとか。

原作ものの映画はどうしてもそのファンから比較される運命にはありますが、その上で原作とは異なる映画独自の魅力みたいなものを観客も見出すくらいの気概があっていいのではないでしょうか。
(それによくよく見ると、冒頭で原作と同じ納谷悟朗をナレーションに起用したり、実はいろいろ原作をリスペクトした作りにもなっているのです)

紀里谷和明はその後、豊臣秀吉が支配する桃山時代に暗躍した大泥棒・石川五右衛門を主人公に、しかしながらその世界観は完全に日本ではない、いわば異世界としてのダーク・ファンタジー『GOEMON』(09)を発表し、その後、何とクライブ・オーウェンやモーガン・フリーマンなどハリウッド・スターを起用し、日本の「忠臣蔵」を西洋の中世世界に置き換えた『ラスト・ナイツ』(15)を世に放ちます。

『CASSHERN』の国内での批判をものともせず、己の実力を信じ、今やワールドワイドな映画制作を成し遂げた紀里谷和明監督。その原点を今こそ見直して再評価してみるべきなのかもしれません。

そういえば現在、アニメを原作とした実写映画はごく普通のものとなって久しいものがありますが(タツノコプロ原作ものでもその後『ヤッターマン』『科学忍者隊ガッチャマン』『破裏拳ポリマー』が実写映画化されました)、これも『CASSHERN』がきっかけかもしれません。その意味での先駆け的映画としても、その挑戦を評価すべきかもしれませんね。

[この映画を見れる動画配信サイトはこちら!](2017年5月5日現在配信中)
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(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou

    鹿児島県出身。映画文筆。

    朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。

    取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。

    編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊)

    その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。

    ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊)
    現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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