Access Accepted第557回:Nintendo Switchの成功と 「ニンディーズ」
年末商戦に突入した北米ゲーム市場では,ハードウェアやゲームがまさに飛ぶように売れている。とくに注目すべきがNintendo Switchの躍進ぶりで,オンラインショップやショッピングモールの小売店にSwitchや任天堂のソフトがズラリと並んでいる様子を見ると,2017年の欧米ゲーム市場にある種の「厚み」が加わったようにも感じられる。今週は,その成功に一役買ったインディーズゲームと任天堂の取り組みを考えてみたい。
Nintendo eShopの方向性を変えた
「The Binding of Isaac: Rebirth」
感謝祭のあとの11月第4金曜日を「ブラックフライデー」,そして翌月曜日を「サイバーマンデー」と呼ぶのは,この季節,本連載でも何度か紹介しているので読者の皆さんもよくご存じだろう。サイバーマンデーが終われば,「クリスマスセール」から「年末大放出」まで,アメリカのショッピングシーズンが6週間ほど続く。
北米のリサーチ会社IDCは,2017年に店頭とオンラインショップで販売されたゲーム用ハードウェアの販売総数を,アメリカとカナダを合わせて約1500万台と予想しており,これは前年比で25%~30%のアップになる。
実際,Sony Interactive Entertainment Americaは,大手ネットワークのCNBCの番組の中で,今年は「史上最高のブラックフライデー」になったと語っており,また,MicrosoftのXbox One XやXbox One Sも好調だという。
任天堂が2017年に投入したNintendo Switchはこの時期,ファーストパーティのタイトルを含めてとくに値下げなどを行わなかったにもかかわらず,こちらも好調な売れ行きを見せており,Adobeの調査によれば,このサイバーマンデーのオンラインショップで最も売れたハードウェアになったという。
詳しい数字については今後の発表を待たなくてはならないが,40万台のWii Uを販売するにとどまった昨年(2016年)とは比ぶべくもなく,任天堂は北米ゲーム市場全体の成長に大きく寄与しているようだ。
「スーパーマリオ オデッセイ」「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」「ゼノブレイド2」,そして「スプラトゥーン2」などの人気タイトルがSwitchの売り上げを後押ししているのは間違いないが,この数年,任天堂が行ってきた,「インディーズゲームの開発者にどれだけアピールできるか」という施策がうまくいきつつあることも,Switch成功の理由の1つではないかと筆者は思っている。
Switchは今や,「ゲームが売れるプラットフォーム」として多くのインディーズゲーム開発者に認識されるようになっており,Nintendo eShopでは毎週のように新作が提供されるなど,Wii U以前とは異なる空気が感じられる。こうした任天堂向けのインディーズタイトルは,海外では親しみを込めて「ニンディーズ」(Nindies)と呼ばれることもある。
実際,2011年にPCなどで大ヒット作となった見下ろし型のシューティング「The Binding of Isaac」を,ストーリーには問題があるという理由からロイヤリティを与えなかった任天堂が,2015年に登場したリメイク版「The Binding of Isaac: Rebirth」を,Nintendo 3DSとWii Uでリリースしている。
Nintendo of Americaでインディーズタイトルを担当していたデーモン・ベイカー(Damon Baker)氏はそのことについて「我が社の認証システムは,『The Binding of Isaac』以前と以降で変化した」と話しており,2015年前後を境に,Nintendo of Americaはインディーズタイトルに対する舵取りを切り替えている。これは,2年後にリリースされるSwitchのための準備だったように思える。
「ニンディーズ」という単語を生み出した
Humble Bundleとのジョイント
任天堂は長年の経験に沿った独自の審査システムにより,同社のハードウェア向けに制作・販売される作品を厳選してきた。
一方で,PCやほかのプラットフォームは,年に何千本もの新作がリリースされる大量開発の時代に突入しており,SteamやPlayStation Networkでは,目にも止まらぬ勢いで新作が次々に投入されるようになった。相対的に,Nintendo eShopのラインナップは,「賑やかさ」が欠ける寂しい印象を与え,Nintendo of Americaの関係者にも,そうした状況に不満を述べる人が少なくなかったのだ。
「The Binding of Isaac: Rebirth」のリリース直後,Nintendo of Americaはデジタル販売サイトの「Humble Bundle」とタッグを組み,「Humble Nindie bundle」というプロモーションを開始した。よく使う読者もいるかもしれないが,「Humble Bundle」は,利用者が買いたいゲームに好きな購入金額を設定でき,利益の一部がゲーム開発者のほか,チャリティ団体にも贈られるというユニークなゲーム販売サイトだ。
おそらくこれが,“ニンディーズ”という名前が登場した最初の例だと思われるが,2週間にわたって行われたプロモーションでは10作以上のインディーズタイトルが販売され,子供達にプログラミングの入門クラスをオンラインで無料公開している非営利団体Code.orgに,12万ドル以上が寄付される結果に終わった。
プロモーションによる具体的な利益額は分からないものの良好だったようで,Nintendo of Americaは,ゲーマーコミュニティを巻き込んだインディーズタイトルの盛り上がりを再認識したのかもしれない。直後となるE3 2015期間中には,「Nindies@Home」というオンラインイベントを行い,「Mutant Mudds」や「Lovely Planet」といったインディーズタイトル9作を期間限定で無料公開している。
こうした流れを受け,2017年3月にリリースされたSwitchは,当初から「インディーズに優しいプラットフォーム」として海外の独立系デベロッパから評価を得て,「Stardew Valley」や「Shovel Knight: Specter of Torment」「I am Setsuna」などの人気タイトルがNintendo eShopを賑わせるようになった。
多くのゲーマーやゲーム開発者達に望まれながら,インディーズゲーム市場になかなか進もうとしなかった任天堂だが,方針を定めてからは機敏で,ゲーマーやゲーム開発者のハートを掴み取るまでには意外なほど時間がかからなかった。今のところ,「Switch躍進の原動力」とまでは言えないかもしれないが,今後,Switch市場が成熟していくにつれ,ニンディーズの存在感も増していくはずだ。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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