その森は、8万年を生きる「クローン生命体」だった

米国ユタ州、フィッシュレーク国有林にあるアメリカヤマナラシの森は、実は1つのクローン生命体だった。(Photograph by Diane Cook and Len Jenshel)
[画像のクリックで拡大表示]

 8万年以上ものあいだ、『パンド』と呼ばれるその植物は「無数の木々が集まった森」として生きてきた。その正体は、無性生殖によって繁殖した、1個のクローン生命体である。しかも地球上で最高齢のクローン生命体だ。そんな驚くべき木の物語も、ナショナル ジオグラフィックの書籍『心に響く 樹々の物語』には収録されている。

 正体が明らかになったのは、1968年のこと。米ミシガン大学の森林生態学者バートン・V・バーンズは、パンドは遺伝子的にまったく同じ4万本以上の幹と1個の巨大な根系から成る植物だと結論づけた。年齢は、クローン群生地がこの規模にまで成長するのにかかると考えられる時間からの推定だ。

 パンドは、ラテン語で「広がる」という意味をもつ。コロラド大学の進化生物学者マイケル・C・グラントがこの愛称を命名したのは、発見から25年後のこと。43ヘクタールという広大な面積に及ぶ根系をもつのだから、まさに「広がる」植物といえる。

 「震える巨人」という、もう一つの愛称も、6000トン以上と推定される総重量にふさわしい。この重さもまた、パンドが誇る最高記録の一つだ。パンドは地球上で最も重い生命体なのだ。

 パンドは、人類が北米大陸に到達するはるか以前に、ユタ州中部のコロラド高原で芽を出した。だが、今では人間がパンドを絶滅に追いやる存在となっている。病気や害虫、林野火災への対策や牛の放牧、野生動物の維持管理といった事柄がすべて、パンドの存続を脅かす要因となっているのだ。ヤマナラシは日光をふんだんに必要とするが、山火事を防ぐ対策が取られた結果、背の高い針葉樹類の繁殖が進み、アメリカヤマナラシのように比較的背の低い木には日差しが届きにくくなっている。

 近年、米農務省の林野部は、パンド存続の脅威となっている要因に対処すべく、いくつかの改善措置を打ち出した。手始めとして、パンドの新芽が野生動物や家畜などに食い荒らされないよう、27ヘクタールが柵で囲われた。

おすすめ関連書籍

心に響く 樹々の物語

ナショナル ジオグラフィックの写真家が、2年をかけて五大陸をまわり、物語のある美しい樹木を集めました。

定価:本体2,750円+税