社会実験との思いで開発した質屋アプリ、5カ月後に70億円で売却

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消費者から中古品をインターネット経由で即座に現金で買い取る。売り手が品物を本当に送ってくるかどうか保証はない。それでも光本勇介氏(36)にはうまくいくという直感があった。同氏は自らが創業したバンクでこのアイデアを実現した。

  結果は想像以上だった。6月に試験的に運用を始めた買い取りアプリ「CASH(キャッシュ)」では、運営開始からわずか16時間で買い取り額が上限の3億6000万円に達したため、慌ててサービスを停止した。翌日になると大量の衣服や電子機器を載せたトラックが到着し始め、数人の従業員で都内にある小さなオフィスにバケツリレーで運び込んだ。

光本勇介氏

Photographer: Kentaro Takahashi/Bloomberg

  結局、納品されなかったのは1割弱だったが光本氏にとっては十分だった。8月にサービスを再開。現在は買取上限を1日1000万円とし、商品はファッション関連アイテムやスマートフォンなどに限定。売り手は写真を送り金額提示を受けるが交渉はできず、価格は他の中古市場から集めたデータに基づいて自動的に設定される。バンクは商品を再販して収益を得る。  

  キャッシュの運営開始について光本氏は「これは社会実験だった」と語る。1996年にネットで商品販売を始め、その後、いったん譲渡して買い戻したオンラインストア作成サービス「STORES.jp」を立ち上げた。「もちろん良い人より悪い人のほうが少ないと思ったが、どれくらいかは分からなかったので実験をやっちゃえ」と買い取りアプリの実現に踏み切った。

DMM会長からの打診

  リサイクル通信によると、日本の中古品市場の規模は1.6兆円に上る。ブックオフコーポレーションが古本からビデオゲームや家電までを幅広く売買できる数百の店舗を展開するほか、ヤフーは国内最大のネットオークションサイトを運営。日本で最初にベンチャーとして企業価値が10億ドル(約1127億円)を超える評価を得たメルカリは、スマホアプリで容易に人々が互いに物を売買することが可能なサービスを提供している。

  光本氏が見つけたのは、消費者のクローゼットの中で眠っている価値を解放するための手間を取り除く手段だった。ネットオークションや個人売買で出品するためにきれいな写真を撮ったり、商品の説明を書いたり、買い手との間の価格交渉を面倒と感じる人々がいることに着目した。メルカリの伊豫健夫執行役員も、「確かにそういうニーズがあるように素直に思った」とし、自分たちもそういった需要に応えていなかったと光本氏の着眼点の良さを認める。

中古品を現金払いで買い取る「CASH」

Photographer: Kentaro Takahashi/Bloomberg

  同氏はより大きな企業が同様のサービスで追随してくるのは時間の問題だと考えていた。だが10月4日午前1時58分、フェイスブック上でこんなメッセージが届いた。「こんにちは!亀山です〜!CASH売って〜!無理?」。送り主はDMMホールディングスの亀山敬司会長(56)だった。

  アダルトビデオ(AV)事業からスタートし、為替取引プラットホーム、ゲーム、オンライン英会話スクール、太陽光発電事業まで幅広く手掛けるDMMは、売上高約1820億円のメディア・テクノロジー帝国。光本氏はDMMに70億円でキャッシュを売却し、事業を継続することで亀山氏と合意した。

大胆さ

  光本氏は「インターネットをやっている人たちの中でDMMはやっぱり怖い存在」と指摘。DMMが「いつ似たようなサービスを始め、競合するか分からない。その意味で1回ちゃんと会っておこうと思った」と振り返る。この売却発表から1週間後、メルカリも同様のサービスを開始した。

  亀山氏はインタビューで、光本氏が見いだした中古品市場の可能性について評価しているとした上で、創業1年にも満たない企業に驚くような高評価を与えたのは、優秀な人材を確保するために企業を買収する「アクイ・ハイヤー(acquiーhire)」としての意味合いがあると指摘した。

  同氏によると、「特にネット系というのは、設備とか現金とかいう以上にセンスみたいのものとか、デザインとか、サービスの起こし方がある」という。ネット業界には「大胆な人間が少ない」からこそ、そういう人材を評価したいと強調した。

原題:36-Year-Old Makes $62 Million With Instant Online Flea Market(抜粋)

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