鎧(よろい)をもつ恐竜は、その装甲を戦いに役立てていたことは間違いない。しかし、少なくとも一種の恐竜では、そのゴツゴツした体が恋人探しの場面でも重要な役割を果たしていたらしいとする論文が発表された。
白亜紀に生息したノドサウルス類の恐竜、ボレアロペルタ・マークミッチェリ(Borealopelta markmitchelli)を入念に調べた結果、首と肩にあるとげが誇張するかのように大きいことがわかった。おそらく、交尾の相手やライバルの目を引くためと思われる。骨でできたとげは、軟組織に覆われることでさらに強調されていた。この恐竜は驚くほど保存状態が良く、現在も複雑な装甲を肉眼で確認できる。(参考記事:「『奇跡の恐竜』は新種と報告、色で防御か」)
ボレアロペルタは約1億1000万年前に命を落とし、古代の海底に行き着いた。そして2011年、カナダの炭鉱作業員たちが偶然掘り起こし、保存状態の良い立体的な化石を発見した。まるで瞬時に石化したように見えるほどだ。この化石が5月に公表されて以来、科学者たちは生前の様子を知るため、詳しい調査を行ってきた。(参考記事:「鎧をまとった奇跡の恐竜化石」)
装甲の突起が恋人探しと戦いの両方に役立てられていたこと自体は、それほど驚くべきことではない。ゾウも牙を防具として使いながら、交尾の相手を探すときは、ほかのオスの牙を判断材料にしている。
カナダ、ロイヤル・ティレル博物館の研究員ケイレブ・ブラウン氏は「鳥の尾羽、トカゲの配色、哺乳類の角など、現存する動物の複雑な構造も、ほとんどが性選択という(進化の)原動力によるものです。だからと言って、防御や種認知の機能が損なわれることはありません」と説明する。ブラウン氏はナショナル ジオグラフィックの支援を受け、ボレアロペルタの調査を行っている。(参考記事:「地球の奇跡! 目を疑うほど色彩豊かな動物たち」)
ブラウン氏は11月29日、オンライン学術誌「PeerJ」にボレアロペルタに関する新しい論文を発表した。鎧竜の研究はあまり例がなく、軟組織に焦点を当てたのはこの研究が初めてだ。軟組織はめったに化石化しないため、今回の研究は貴重なものと言える。
論文の原稿を査読したビクトリア・アーバー氏は「形状から機能を導き出すことは、現存する動物でも容易ではありません」と話す。「今回の研究は素晴らしい出発点だと思います」。アーバー氏はロイヤル・オンタリオ博物館の古生物学者で、自身も鎧竜の研究を行っている。