インタビュー
ふたつの視点を軸に作っていった物語
『おんな城主 直虎』は、全体の4分の3ぐらいが「井伊谷」でのお話になっています。そのため、井伊谷で起こりうるとしたらどんな出来事だろうという点から物語を考えていくことが多かったです。例えば、海があるわけではないから貿易は難しいが、ちょっと行ったところに“気賀”という町がある。ここではどうも湖を使って船が行き来していた形跡あり。どこまで確かかはわからないけれど、方久という人が城主をしていたという話がある。これを繋げてみるとどうなる?と、拾った痕跡ひとつひとつを井伊谷に起こりうることにフィードバックしていく作業でした。
直虎が尼だったというファクターもやはり大きかったと思います。その世界に浸ったことがある人は、どんな風に考え物事に立ち向かうのか。史実から拾い集めて物語を作っていくこととは別に、直虎のパーソナルな視点からも話を進めました。
そして、このふたつをガッチャンと合体し、『おんな城主 直虎』の物語は出来あがっていきました。もしかしたら、方程式を解くのと似ているかもしれません。方程式って解けたときにスッキリしませんか?まさにああいう感じですね。しんどいけれど、書いていてとっても楽しかったです。
直虎が万千代に「背骨」を与える
直虎と万千代の関係は、川が海へと流れ込んでいくようなイメージ。同じ川だったはずのものが途中でわかれてしまい、ある地点からもう一度ひとつに合流して以前より太い川に。そこからさらに大きな川へと流れ込み、最終的に海へ出ていく…この作品の終盤はそういった流れになっています。また、万千代が井伊家を再興するにあたり、お家再興はどういう立ち位置でどんな形であるべきなのか、武家がどのように存在していくのが世のためなのか、ある種「背骨」のようなものを万千代に与えるのが直虎の役割だと思っています。
直虎自身はすでに在野で身分もなにもない立場です。しかし、井伊谷の人たちを守りたいから守るというスタンスからもう少し広がった世界を見たときに、彼女は自分のやり残したことやずっと目を伏せておいたものにもう一度立ち向かわなければならなくなります。ふたたび動き出した直虎の、彼女らしい戦い方にもご注目いただければと思います。
今までのすべてが集約される最終回に!
実は終盤にかけて、書いている自分でも思いがけず動いていったのが今川氏真でした。お家が没落したあと、徳川の下に入って織田信長の前で鞠を蹴ったとか、和歌を詠んでいたらしい、家康ともたまに会っていたらしいなど少しエピソードは残っているんですが、詳しい暮らしがわからない。はじめから面白い人だなと思っていたので「ひとつの生き残り方」という形で彼のことを描こうとは考えていたんです。第48回をご覧いただいた方にはおわかりいただけたかと思いますが、彼がこのドラマにふさわしいラストを思いがけず切り開いていってくれます。
あと、最終回も書いていてとっても楽しかったですね。パーっと終わっていくというのも変な表現なのですが、まさにそんな感じなんです。このために、この瞬間のために、ここでパーっと光があたるために、今までがあったんだ!というのが弾けた回になっています。私も筆が走るというか走らされるというか、不思議な感覚で書きあげました。いよいよ残り2回、最後まで『おんな城主 直虎』を楽しんでいただけたら幸いです。