大学中退の社会学まとめ

序文

この記事は退学 Advent Calendar 2017 - Adventarの2日目の記事です。
「大学中退した人々はどうなるのか」「中退した私はどうすればいいのか」まとまった情報が見つからなかったので投稿しデータを共有します。

※中退防止策については書きません。中退予備軍には「下を見て身の振り方を考え直せ」としか言えません。原因は次項「中退理由」に一部書きましたが、各位で様々なのでそれぞれ自力で解決するしかありません。中退には原因があり、起こるべくして起こります。

記事形式は「NAVERまとめ」的です。この記事のメインはデータの引用部分です。 引用 - Wikipediaと勝手に判断しましたが、私的解釈が少なく引用分量が多すぎるかもしれません。引用部分以外は全て私的解釈です。出典は可能な限り明記しています。


中退理由

教育学術新聞 : 教育学術オンライン 第2456号|日本私立大学協会

経済的理由が実態よりも多くカウントされる傾向にあるのは、中退者にとって経済的理由が申告しやすく、教職員も了承しやすいため、暗黙の了解として処理されているのが一因ではないか、と私たちは分析している。教職員に面と向かって「大学がつまらなかったから」「友達ができなかったから」とは言いづらい。
学部・学科構成等で違いはあるが、経済的理由、病気、妊娠・結婚による中退は全体の2割程度

大学中退後のキャリアに影響する大学入学以前の経験(pdf)
p7 Ⅱ-1.大学中退後のキャリア

大学生はどのような理由で,中退に至るのか。
前述の退学者調査(文部科学省,2014)によって明らかにされた。高等教育における中途退学者は,2.65%,7 万 9311 名であり,彼ら彼女らの退学理由 3のうち,もっとも多いのは経済的理由であり,20.4%に上る。
次に多いのが,「学業不振」「学校生活不適応」といった,高等学校から大学への円滑な移行ができていないことをうかがわせる理由であり,あわせて18.9%に上る。
その他の退学理由のうち,中退後のキャリアを予測する項目は,転学,就職と海外留学であり,それぞれ15.4%と 13.4%,0.7%であった。

p8 Ⅱ-2 高校から大学への移行

大学中退に至る過程について,Lehmann(2007)は,退学する大学生は1年生の早期のうちに,成績の良し悪しにかかわらず異文化へ適応できず,友人ともなじめないことを理由に辞めてしまうとしている

※大学在籍時の成績は、1年生の早期の適応度によって決まり、入学試験の成績は関係がないことは、中退率が高いことで有名な大学成績1年で決まる? 卒業時と一致 東京理科大調査でも示されています。

Tinto (1975)の指摘によると,学生は「家庭環境」「個人特性」「大学入学前の経験」をそれぞれ保持して入学してきており,これらの諸特性を持った学生は,教育機関のアカデミック・システム(知的環境)や社会的システム(交際範囲)の中にそれぞれ統合され,大学の二つのシステムに統合される度合いが強いほど、大学へのコミットメントは強く,卒業確率が上がる(Tinto,1975)。
つまり,これらのシステムに統合される度合いが弱いほど,大学へのコミットメントは小さくなるため,退学や留年する確率は高くなるとしている。

教育機関のアカデミック・システム(知的環境)は文化資本、社会的システム(交際範囲)は社会関係資本、と読み替えることもできます。
平易に言えば、家庭の社会階級が高く文化的生活を送っておりコミュニケーション能力が高い高校時代からのリア充ほど大学に適応し、家庭の社会階級が低く教養が乏しく人付き合いが苦手な高校時代からのオタクほど中退するということでしょうか。

日本中退予防研究所

人間関係を理由にした中退には、教員や友人・先輩との間で何らかのトラブルが生じて中退するパターンと、周囲と人間関係を築けず孤立して中退するパターンの2通りがありますが、多くの場合が後者の「孤立」によるものでした。

学歴劣等感を拗らせて逆にさらに低い高卒階級に転落してしまうことがあります。私的には学歴劣等感とは相対的剥奪感ではと想像しています。未だに学歴劣等感(コンプレックス)自体についての真面目な分析を発見したことがないので募集中です。気分上の対処療法としては学歴コンプレックスに悩む人のスレPart5のテンプレが今まで見た中で一番まとまっていましたが。相対的剥奪と定義すると社会学の範疇ですが、まとめが未完成なので記述しません。

親または精神疾患が一因で不登校になっている場合もあります。
ニート・引きこもり・不登校の原因と親&脱出法 ― ひきこもり ヒキコモリ 登校拒否
発達障害→)毒親アダルトチルドレン適応障害の典型パターンです。


中退率

日本中退予防研究所
※サイト運営は中退予防に取り組むNPOですが「中退者が続出することによる悪評が大学運営に損害を与えることを防止するために中退者を減らす方法論を大学運営陣にコンサルティングする(意訳)」組織なので中退当事者からの信用は限定的です。中退当事者も読める書籍「中退白書2010(NPO法人NEWVERY内日本中退予防研究所)」と大学運営陣向けの書籍「中退予防戦略」を出版しています。私が知る限りでは、「こういう人が中退してしまいますよ~(中退した後は知りません)」形式で中退に間接的・部分的に言及する書籍は数あれど、「実際のところ大学を中途退学した人々の多くはどうなるのか」「大学中退した後どうすればいいのか」を記述している書籍はこの二冊しか知りません。にも関わらず私はまだ読めていないので、この二冊の書籍の内容はこの記事中には含まれません。

『大学の実力』
読売新聞が実施している「大学の実力」調査では、中退率や就職率など、他の大学情報誌では知れない情報が詰まっています。また年々調査協力大学を増やし、2011年度版には623校が回答しています。大学選びや進路指導にお役立て下さい。

私は読んでいません。危ない大学を入学前に避ける以外の用途で読んでも手遅れだと思います。後述する選択肢のうち別の大学へ移る道を選ぶなら、この書籍で志望大学を吟味し次回は避けましょう。

私大生の8人に1人が中退者になっていた!?大学から生まれる“格差社会ニッポン”の恐るべき実態NPO法人NEWVERY山本繁理事長×(略)

現在、四年制大学の年間中退者は私立で約6万人、国立で約1万2000人、あわせて7万2000人、短大約7000人、そして専門学校が約3万7000人で、いわゆる高等教育機関中退者は11万人強と我々は推計しています。四年制私立大学では平均して8~9人に1人が辞めているのが現状です。高校中退が約7万2000人ですから、それ以上の学生が大学・専門学校からドロップアウトしていることがわかります。

1/8 = 0.125であり、1/9=0.111...ですから、私立大学一般の平均中退率は約10%と主張されています。

実は文科省が調査をしておらず、正式なデータがないため、本当のところは全くわかりません。

偏差値の高低と中退率できれいに相関関係がでます。つまり、退学リスクの高い学生ほど、偏差値の低い大学に入学しているといえます。ちなみに、東大の中退率は卒業までに1%、早慶で5%前後です。

日本中退予防研究所

偏差値では同レベルの大学・専門学校でも、中退率をみると、年間10%のところもあれば1%のところもあるのが事実です。

中退率の推移

大学中退後のキャリアに影響する大学入学以前の経験(pdf)
p12 図表8 年代別中途退学率

中退率が近年増加しているのかどうか,中途退学者を年代別で確認したところ,中等教育・高等教育共に,年代が若いほど,中途退学率は高く,18~29 歳では高等学校中退が5.9%にのぼることが明らかになった

最近になるほと中退率は上昇しているようです。これは教育体制が崩壊してきた可能性、賃上げに比べ大学授業料が高騰していること、大学全入時代において従来の高卒上澄み層も低偏差値私立大学に入学するようになったこと、などが原因として考えられます。


中退後の選択肢

日本中退予防研究所

起業家のようなすごい人でなくても、中退の悪影響を比較的受けない人たちもいます。ただし、そうしてリスクを回避できるパターンは、じつは次の3通りしかありません。

(1)大学・専門学校などに再入学する
新しい大学や専門学校に再入学すれば、2~3年は卒業年次がずれるものの、その後のキャリアにはそれほど支障はありません。ただし、再入学となれば、再受験のための予備校代・受験料・入学金・2~4年間の授業料など少なく見積もっても300万円は必要になります。そのため、経済的に余裕のある家庭でなければこの手段は現実的ではないのが難点です。

(2)身内の縁で就職する
「コネ」でも何でも、就職してしまえば学歴はそんなに大きな問題ではなくなるかもしれません。あれば積極的に活用してしまいましょう。ただし、親戚か近い間柄の人の会社に就職しようにも、そうした人が周囲にいてくれなければ不可能ですから、これもまた「特別な家庭」の人だけがとれる方法です。

(3)結婚する
結婚や出産がきっかけの場合には、中退を後悔する人はあまり多くありません。それは、中退後の生活が家庭や子育てで充実しているためだと思われます。ただし、これは、基本的に女性に限られたことですので注意が必要です。

自営業、再入学、身内のコネによる就職、結婚・出産――これ以外の「中退」は、はっきり言うと、あなたの人生を大きく悪い方向へ変えてしまう可能性があります。

まだ万人に可能性があるリスクを回避できるパターンは「(1)大学・専門学校などに再入学する」のみです。これは私が思いついた選択肢一覧の2,3,5,6,7にあたります。項「7 中退後の再受験背景」で後述しますが、(1)のパターンはある程度のリスクを回避できるようです。もちろん(1)を試みて失敗すれば更に時間と金と労力を溝に捨てた高齢の高卒無職にしかなりませんが。

1. 高卒で中途採用を目指す
2. 元の大学に再入学する
3. 専門学校に入学する
4. 職業訓練学校に入学する
5. 通信大学に入学する
6. 大学編入する
7. 大学再受験を目指す
8. 公務員試験を受ける
9. 業務独占資格取得を目指す
10. 起業・自営業を目指す
など

他で触れない選択肢についてはここで概観しておきます。4は専門学校と大差ない学校です。5は理系の通信大学は秋田大学の通信教育講座か放送大学の学位授与機構との連携かのほぼ二択です。7は夜間大学では電気通信大学の情報理工学域(夜間主課程)などがありますが自宅から通える立地にある場合に限られます。医学部受験では高齢でも可能ですが高学力と経済資本も必要です。8は普通に高卒として年齢制限があるものの受験できます。9は弁護士や税理士など専門職のため資格であり高学力が必要です。10は消極的中退しかできないような凡人未満には厳しく元手の経済資本も必要です。

個人的理由から1と7については一定量のデータを収集しまとめました。
また1については中途採用先をプログラマに限定した場合についてもまとめました。


1.1 中退後の就職状況

まず前提として、日本全体では
第4章 社会的自立|平成27年版子ども・若者白書(概要版) - 内閣府

就職率 中卒0.4% 高卒17.5% 大卒69.8%

正規雇用の」就職率と解釈すれば妥当な数値です。



日本中退予防研究所

中退後の就職状況を調べると、大学新卒の90%以上が「正社員」で就職しているのに対して、中退者が「正社員」になったのは約15%だけで、逆に約60%が「パート・アルバイト」や「派遣・契約社員」、約17%は「無職」であることが分かっています。

※これから提示する引用元2つの根拠は第3回ワークスタイル調査のデータ(pdf)です

大学における退学・ひきこもり・不登校 | SYNODOS -シノドス-

大学(高等教育)の進路・就労状況の調査がされている。中途退学離学をした後、正規雇用で働くのは7.5%に過ぎず、パートアルバイト・派遣といった非正規雇用が70.9%、失業・無業状態になる者は15.0%である
労働政策研究・研修機構 2012,「大都市の若者の就業行動と意識の展開 -「第 3 回 若者のワークスタイル調査」から- 」、高等教育退学者の男女計の平均値)。

大学中退者の7.5%しか初職で正社員になれません。

文科省が大学中退実態を本格調査非正規雇用増加の要因にも 無視できない社会的損失[教育](万年野党事務局) | 現代ビジネス | 講談社(1/3)

厚生労働省の外郭団体「労働政策研究・研修機構」が11年に東京都内在住の20代約2000人を対象にした「第3回ワークスタイル調査」では、
大学中退者(専門学校含む)の就職状況は「一貫して非正規雇用」が約5割で最多。「無職」も14%あった。「正社員に定着」はわずか1.7%にとどまった。

しかも初職で正社員になれた7.5%のうち、正社員として定着できたのは約1/5の1.7%だけです。
初職で非正規雇用になった70.9%のうち、約5割は非正規雇用で定着し正社員に上がれていないようです。残りの20%は正社員に階級上昇したのか、無職かNEET(求職活動していない者)に転落したのか、自殺または失踪(遺書が発見されない自殺者は失踪扱い)したのか不明です。

大学中退をした者がその後どのようなキャリアパターンを描くかについて詳細な研究はまだ存在しないが、85パーセントが非正規・無業からキャリアをスタートするため、大学卒業者に比べてその後の職業生活が困難になるのは想像に難くない

大学中退者の85%が非正規雇用者と無職者「プレカリアート」階級になります。このデータでは非正規雇用内の「契約社員派遣社員」と「フリーター」の区別がつかないため配分は不明です。

この数字は、卒業者の就職率・正規雇用率よりもかなり低い。高卒者の正社員比率は61.5%、大学・大学院卒は76.2%である。
大学退学者が大学卒者に及ばないのは容易に想像がつくが、高卒者のそれにも大きく劣っている。
これは学校を離れる前に満足な就職活動ができない、もしくは、できる状態ではなかったことが大きいだろう。
大学進学をせずに高卒で就職をした方が生活は安定する。
大学進学という投資をしたにもかかわらず、高卒の就労状況の方が良いというのは皮肉である。

※以下の引用三ヶ所の出典元を紛失しました。すみません。

高等教育中退者(卒業無)が正規雇用率 9.4%であるのに対し,中等教育卒業者の正規雇用率は53.7%であるため,高校を卒業して高等教育に進んだ後に中退して働くよりも,高校を卒業した後にそのまま就職したほうが、正規雇用率が高いということになる

大学中退者は大学在籍期間は無職期間と同等して扱われるようです。ただの年寄り高卒です。

「中退経験が個人のキャリアに長期に渡って負の影響を及ぼしている」可能性が高く,初職で非正規だった場合,その後も非正規雇用が継続する者が一定以上存在する

高等教育中退者(卒業無)は,「サービス職」がもっとも多く 32.7%であることが示された。そして,高等教育を卒業者は,中退経験の有無による違いは見られず,「専門職・技術職」がもっとも多かった。

大学中退者の最多35%が「サービス業」、すなわち飲食や販売などで対人業務に就きます。要するにコンビニ店員のフリーターなどです。



基礎資料 東京の大学の定員の抑制に関する 基本的な方向性・論点(pdf) p4

○ 学校数及び学生数に関して、私立大学の占める割合は7割を超えている。
○ 東京圏の学生数は、全国の4割を占めている。また、東京都は全国の26%を占めており、東京23区だけで全国の18%を占めている。

厚生労働省の外郭団体「労働政策研究・研修機構」が11年に在住の20代約2000人を対象にした「第3回ワークスタイル調査」の調査場所である東京都内の非正規雇用率は全国平均に比べ低めです。
都道府県別の非正規雇用率

総務省の就業構造基本調査から2012年度の非正規雇用率ランキング。同調査の「会社などの役員を除く雇用者」に占める「非正規の職員・従業員」の割合を比較している。
非正規雇用率の全国平均は38.15%。企業で雇用されている労働者のうち40%弱が非正規労働者ということになる

順位 都道府県 非正規雇用 偏差値
1 沖縄県 44.52% 78.82
2 北海道 42.82% 71.82
3 京都府 41.75% 67.41
4 大阪府 41.30% 65.56
全国平均 38.15% 50.00
36 東京都 35.68% 42.41
47 福井県 32.73% 30.26

よって東京以外での大学中退者の非正規雇用率はもっと高いと推測します。



※(大学中退→)非正規雇用ワーキングプア→生涯未婚→パラサイトシングル→...(→自殺)の高頻出コンボは間接的話題なので書きません。


1.2 情報系学科中退者はプログラマになれるか

注:私は情報系学科に在籍していましたが、プログラマのアルバイトを経験したことがない(そもそも東京以外には求人がない)しプログラマとして就職したこともないので情報系業界についての見識が乏しく、この項での私的解釈の信憑性は怪しいです。

IT人材白書(バックナンバー):IPA 独立行政法人 情報処理推進機構 IT人材白書2016 (調査年:2015年度)
「図表4-4-3 IT企業IT技術者の最終学歴【年代別】」によると、

20代: 高卒2.5%・専門卒14.5%・高専卒0.5%・大卒62.0%・院卒18.5%
30代: 高卒4.0%・専門卒16.9%・高専卒3.4%・大卒56.5%・院卒15.3%

「図表4-5-3 ユーザー企業IT技術者の最終学歴【年代別】」によると、

20代: 高卒8.7%・専門卒8.7%・高専4.1%・大卒59.7%・院卒16.3%
30代: 高卒7.1%・専門卒13.7%・高専3.8%・大卒61.5%・院卒12.1%

「IT企業」の方が「ユーザー企業」より学歴が高いことから推測するに、【SE】IT業界総合ランキングvol.51【SIer】 >>2のように「自社内の情報システム構築・運用を主目的に作られた会社」を「ユーザー企業」、「IT企業」はSIer上流を指していると私的には想像しています。
「IT企業」「ユーザー企業」の集計範囲は不明です。集計されない範囲(登録派遣で独立系SIerなど)で、中卒プログラママ男のようにIT土方をやっている可能性を私では捨てきれません。最終項で後述していますが、大学か高専を中退してプログラマとして働いている高卒をTwitterでそれなりに観測するからです。よって高卒プログラマは集計されていない職場に多くいるのではと疑っています。
IT人材白書に非正規雇用率の調査欄が存在しないのは、単に公表する気がないからなのか、そもそも調査対象を正社員に絞っているからなのかは不明です。

高専卒の割合が低く見えるのは学生数が少ないからです(高専は57校中51校が国立であり偏差値が高い入学受験を通過しており専門卒より高等な専門性を持っています)

プログラマ非正規雇用率を示す「データ」は調べられていません。募集中です。

※大学中退者は高卒なので専門性を持ちません。「情報系学科中退」はプログラマというプロ職業の基礎教養を修了する能力がなかったと判断されるので情報系専攻を名乗れません。よってプログラマを目指すのを諦めるのも選択肢のうちの一つです。プログラマを目指した経験を無駄にして他に何か残る能力がある人がどれだけ居るのかは分かりませんが、覚悟があるなら志望就職先をプログラマに限定する必要はありません。もちろんプログラミングが得意か好きならプログラマを今後も目指しましょう。プログラマを志望し続けるのは他の選択肢よりは経験がある分だけマシでしょう。しかしプログラミングが苦手か好きでないなら辞める良い機会です。別に趣味プログラマに留まって構いません。では次に何者になることを目指せばいいのか?各位やっていきましょう。


7 中退後の再受験背景

「大学中退の理由はミスマッチです」 - 大学中退者が選んだ未来とは? - | マイナビニュース

文部科学省が2014年9月25日に発表した報道資料「学生の中途退学や休学等の状況について」によると、国・公・私立大学、公・私立短期大学高等専門学校の1,191校(回答校1,163校・回答率約97.6%)の全学生数299万1,573人のうち、7万9,311人が中途退学をしている。その一方で、退学者の15.4%が転学しているとのこと。

「退学後に転学している」15.4%は、おそらく大学編入試験に合格し、元の大学から編入先の大学へ移るときに、元の大学は退学扱いになるので、それに該当すると私的には想像します。上位国立大学では高専生に限定していますが、他の大学では大学編入試験には大学生・短大生・専門学校生にも受験資格があります。しかし、おそらく高専生による国公立大学への編入がほとんどと思われます。また、前で示した大学中退者が退学した大学で半分以上の単位を取得しており、「6. 大学編入する」を採って成功した場合はこの範疇に含まれます。



大学中退後のキャリアに影響する大学入学以前の経験(pdf)
p12 Ⅳ-2.退学後のキャリアを説明する入学前の要因1 先行モデルとの対応

まず,Tinto(1975)がモデル内で示した変数と,本調査で聞いた項目との対応関係を記す。先行研究で示された変数は,3つあった。家庭環境と個人属性と大学入学前の経験である。
第1の家庭環境は,両親の最終学歴を用いた。
第2の個人属性は,例として性別・能力が挙げられており,本調査では,性別と中学3年生時の成績,在籍した高校の進学率を能力の代理変数として用いた。
第3の大学入学前の経験とは,Tinto(1975)によると,学業達成と社会性の獲得である。本調査では、社会性の獲得として,高校時代の経験で現在役立っている経験を尋ねた。

p13 2 中退後の卒業を説明する入学前の変数

結果からは,父親の学歴が大卒,男性である,中学 3 年生時の成績が高い場合は,退学後の卒業に有意な正の影響力をもち,高校時代のアルバイト経験がある場合は,退学後の卒業に有意な負の影響力をもつことが示された。

中学3年生時の成績が高い大学中退者は再受験して大卒する人が多いようです。
父親が大卒であることが正、高校時代にアルバイト経験があることが負の影響力を持っていることは、家庭の社会階級について示唆しています。前者は比較的裕福、後者は比較的貧乏であることが予想されます。学歴資本という文化資本の一部形態への親和性や、再受験するために必要な家庭の経済資本を有無が再受験を選択できるか左右していると解釈できます。


大学中退後のキャリアに影響する大学入学以前の経験(pdf)
p7 Ⅱ-1.大学中退後のキャリア

国内研究において大学中退後のキャリアを確認したものは,ほとんど存在していないものの,これら「退学者調査」と「JILPT 調査」の結果からは,中退理由には「経済的な理由」と,「学校不適応」といった要因が見られること,中退者には,中途退学後に再入学をして卒業した「転学」と,そのまま大学を離れた「離学」が存在していることが確認された。
そして,「転学」は,高等教育を中退した者のうち,7 人に 1 人の割合で存在し,無視できない人数に上ることが示されている。
また,就職場面においては,新卒採用の仕組みにのれなかった大学中退者が働く場合,初職での正規就労は難しいことが明らかになっている。(退学者の正規就労率は7.5%)
そして,中退理由や転学・離学の別は,同じ中退という事象であってもその後のキャリアの違いが予測される

p11 Ⅳ-1 高等教育機関中退者の現状

学校間移動者の内訳を確認してみると(図表3),もっとも多いのが,「大学中退&大学卒業」パターンであり,233 名中,約42%の 97 名にあたる。
さらに,大学中退者のうち,大学の卒業年と初職入職年が一致している者は69.2%であることが示された(図表4)。
これは,大学中退者の約7割が,後に大学を卒業し,卒業と同時に就職していると考えられる。
次に多いのが「大学中退&専門学校卒業」であった。こちらも内訳をみてみたところ,25 名中,専門学校を卒業してから初職入職までの期間が0年の者が20 名であるため,多くは,卒業後すぐに就職しているものと考えられる。
これらのデータから読みとれるのは,高等教育機関の「退学経験あり&卒業経験あり」のパターンの者は,高等教育機関を退学した後の転学により,卒業後すぐに就職しているということである。
つまり,JIL(2012)で指摘されたところの「新卒採用の仕組みにのっている者」が,「大学退学経験あり&卒業経験あり」のうち,約 7 割であり,高等教育全体でも約6割強が該当することが示された。

「大学中退&大学卒業」、つまり「2. 元の大学に再入学する」、「7. 大学再受験を目指す」のいずれか(区別はつきません。「6. 大学編入する」も含むかもしれません)採った者は初職を得られていることがわかりました。数値は中退経験がない新卒就職率と似ている69.2%ですが、正社員就職であるかは分かりません。
「3. 専門学校に入学する」の場合も20/25=0.8、8割は初職を得られていることがわかりました。

p14 V. 考察

近年,退学者数は増加傾向にあるものの,そのうち約半数は退学後に卒業している

退学者の多くがその後転学し,卒業しているという事実は,問題の所在が,退学者数の増加にあるのではなく,学校選択や進路選択の方法にある

第2の発見は、これまでに JILPT(2012)で示されていた,「新卒一括採用の仕組みにのりさえすれば,中退問題は解消される」という「幻想」は特に若年層において,現実的な数字をもって否定されたことだ。
この背景にあるのは,新卒一括採用になじんだ日本的雇用環境であり,ある一定の年齢幅にないと同じスタートラインに立てないという企業側の事情も大きく影響しているのではないかと推察される。
一斉にスタートラインに立たせようとする日本の新卒一括採用の仕組みでは,大学退学歴がある場合に,大学を退学してまでもやりたかったことは何か,他の人よりも1年遅れた意味は何かを問われても不思議はない。

大学中退後にやり直しをしても,現在の日本の雇用慣行の中では,中退していない学生との差を埋めることは難しい。しかし,卒業しなければ,初職において,その後のスキル獲得のための職場での学習機会を得ることも困難だ。

大学中退は問題なのか<br>辰巳哲子 | 研究所員の鳥瞰虫瞰 Vol.2

退学者は、大学や専門学校など、他の教育機関に再入学するコストを払っても、高等教育機関にとどまるべきなのだろうか。
リクルートワークス研究所が実施したワーキングパーソン調査2014では、高等教育機関を中退した後に卒業した者は退学者の半数強に上ることが明らかになっている。
そして、高等教育機関を中退した後に転学して卒業した場合、退学後に離学した者に比べると初職の正規雇用率は高くなることが示された。
しかし、注目すべきは、ストレートに大学を卒業した者との初職の雇用形態の違いである。中退経験者の場合、ストレートに大学を卒業した者と比べると、初職の正規雇用率は低い。
特に、18~39歳の層ではストレート卒業者と中退経験者との正規雇用率の差は大きく、29歳までの初職正規雇用率は、ストレート卒業者77.5%に対して、中退経験卒業者47.9%、30~39歳ではストレート卒業者81.3%に対して、中退経験卒業者の初職正規雇用率は57.9%である。
つまり、再入学にかかる金銭や時間のコストを払っても、その対価として得られる「高等教育のやり直し効果」は限定的であり、むしろ退学リスクを下げられる大学選びに注力したほうがよいという結果となっている。

「中退経験者の場合、ストレートに大学を卒業した者と比べると、初職の正規雇用率は低い」ので、一度中退してしまうと再入学しても正規雇用率はレールに乗り続けてこれた人に比べると下がってしまうようです。しかし、1.1項によると大学中退者20代の正規雇用率は7.5%ですが、この直前の記述によると20代の正規雇用率は47.9%までは回復しています。大学再入学で正規雇用率をある程度まで取り戻すことは可能なようです。

入学して初手退学して即再受験成功し「浪人・留年は+2年までを第一新卒とする」という通説(噂だけが流布しており根拠となるデータを発見したことがないので募集中)に抵触しない場合は問題なさそうですが、退学後に実質多浪で大卒した場合との区分がないため、年齢に関わらず(ここが重要)再入学し大卒できたら、初職の正規雇用率を47.9%まで回復させることが可能できるとは言えません。日本の25歳以上での大学進学率はOECD諸国中で最低水準ですから実質多浪で大学に入学する人が少ないので日本企業は多浪に厳しいはずです。同年齢で職歴がある高卒と全く職歴がない大卒の価値が入れ替わってしまう年齢は何歳からなのか分かりません。この疑問に答えてくれるデータがないので募集しています。


結び

あなたが「優秀な」プログラマ志望者なら、退学しても1.1項によると大学中退者の正規雇用率は7.5%、1.2項によると20代高卒プログラマが5%前後しかいなくても正社員プログラマに「多分」なれるのでやっていきましょう(人生の失敗をプログラミングで取り戻した成功談は比較的インターネット上や書籍でよく見ますし、そういった人が本当に一定数いるのも確かです)。たとえ確率が酷いとしても、他にもっと良い道を選べる人は少数派なので、やっていくしかありません。
それ以外の私自身を含む中退者に対しては、選択肢のどれを選べば正解なのか匙を投げるしかないので各位やっていきましょう。


後書き

情報系界隈はTwitterに密着しています。Twitterの情報系界隈を観察していると退学者をそれなりに観測できます。退学 Advent Calendarも4年目を迎えました。
この記事を公開した動機は、「難関大学や大学院を中退してすぐにプログラマとして就職できて良かった話」みたいな記事を見飽きたからです。
Adventarに大学のサークルや学部のカテゴリ名でカレンダーを作成しているのは、MARCH以上または工科大学の情報系の活動が盛んな特定の大学の出身者がほとんどです(数えました)。Twitterでも同様です。大学生のうちMARCH以上の偏差値は学生数比の上位1割です。スクリーニング理論ないしはシグナリング理論(大学入試によってもともと潜在能力の高い者が選抜されており、学歴はそれを示す指標である)によって日本労働市場は選抜するとした見方では中退しても支障がないかもしれない最上位1%である投稿者による記事も散見されます。
退学した事実を半匿名のTwitterで公言する行為はアカウントを公言後も継続的に運用するには不利益になりそうに思えますが、Twitterヘビーユーザーの優秀なプログラマは事実を隠すことで齟齬が生じTwitter活動に支障をきたすことを嫌うのか、退学をネタとして消化できてしまうことが多いようです。高学力(と長く在籍している場合は大学の教育能力またはITサークル活動経験、または所属集団の文化資本が高いことによる中高時代からのプログラミング独学経験)に裏打ちされた技術力がある彼らはscreen nameありで退学エントリを書き可視化されているので、Twitterを見ていると情報系にとって退学が些事であるように見えがちです。しかしブログに苦労話を書ける生き残りだけを見て、Twitterでは観測できない無数の沈黙する死者たちを見過ごしているだけかもしれません。死者たちは無知による死体蹴りの憂き目に遭ってしまうかもしれません。よって下位9割である匿名の死体をAdvent Calendarという公道に磔にして晒します。