週末は家めしクッキング。今週は、誰でも食べたがってるくせにちょっと作りにくい酢豚について紹介しよう。オフィス街のランチやデパ地下のデリでは大人気の酢豚だが、家庭で作るには少々ハードルが高い。材料をそろえるのが面倒、甘酢あんの作り方がわからない、そして何より「家では揚げ物をしたくない」という大きな壁が立ちはだかってしまうからだ。
なので今日の酢豚は
・揚げない
・材料ひとつ
・甘酢の配合シンプル
と、ハードルを思いきり下げ、思わず作ってみたくなるレシピにした。ぜひチャレンジしてほしい。
【材料(2人前)】
豚肩ロース肉500グラム / 黒酢 大さじ3 / 砂糖 大さじ3 / しょうゆ 大さじ2 / 水 大さじ2 / 片栗粉 小さじ1 / 塩 適宜 / お好みでショウガ、ニンニク、豆苗、ごま油 少々
まず肉は豚肩ロース一択である。バラ肉は脂が多すぎるし、もも肉ではパサつく。ヒレやロースは別の料理に向いている。酢豚には脂身と赤身のバランスがちょうどよい肩ロースがぴったりだ。これを塊で買ってこよう。
そして肉の量だが、500グラムで間違いではない。むしろお腹と財布が許せば、もっと増やしてもいいくらいだ。「酢豚とは肉を食べる料理」が私の持論である。ゴリゴリとかたいニンジンや、生っぽいタマネギ、ピーマン、いわんやパイナップルなど、酢豚に入れる意味など見いだせない。肉と甘酢があればそれでいい。たっぷり大きな肉塊を、たっぷりの甘酢あんでからめ、熱々のうちにほお張る。そういう酢豚が私は好きだ。
さらに酢豚とは、黒酢で真っ黒であるべきだ。なぜか。黒い方がかっこいいからだ。より黒くするために、砂糖は黒砂糖にしてもいい。漆黒のベールをまとった巨大な敵に果敢に立ち向かい、心の中の中学2年生を大暴れさせる。そういう酢豚が私は好きだ。
では作っていこう。
最初に、普通の酢豚ではまずありえない作業から始まる。それは「豚肉をゆでる」ことである。
500グラムの肉塊がすっぽり入る鍋を用意し、肉がかぶるくらいまで塩水を入れる。あらかじめ1リットルの水に小さじ1の塩を溶かしておくといいだろう。嫌いでなければ、ここでショウガやニンニクを包丁で軽くつぶして入れると、よりおいしくなる。
火は最初は強火。沸騰したらアクをとり、弱火にして40分から1時間ほどコトコト煮ていく。40分くらいだと、箸では切れないがかむのは容易といった固さになっているはず。豚の角煮ほど柔らかくする必要はないが、少し火が強かったりして柔らかくなってしまっても大丈夫。ぷるぷるやわやわの酢豚も、ちゃんとおいしい。
煮上がったら肉を取り出し、粗熱が取れるまで放っておく。
冷ましている間に、甘酢あんを作ろう。
黒酢と砂糖、しょうゆ、水をすべて混ぜ合わせる。砂糖が溶けにくいので、よく混ぜること。砂糖が溶けたら、片栗粉も入れ、さらによく混ぜる。あんの準備はこれで終わり。簡単なものだ。
甘酢の配合はシンプルだ。黒酢と砂糖が同量。しょうゆと水がそれより少なめ。これで作ってみて「自分には塩分が足りない」と思えば、しょうゆを酢や砂糖と同量にすればいいし「もっと甘めがいい」のなら砂糖を増やせばいい。本当は覚えやすいように「すべて同量」の配合にしたかったが、私の舌には「しょうゆと水が少なめ」が合っていた。みなさんも、自分がもっともおいしいと思える方向へ調整してほしい。レシピなんてひとつの指針にすぎないのだから。
さて肉が冷めたら、半分にカットしよう。この大きなひと切れが一人前だ。全体に片栗粉をたっぷりまぶしつけておく。付け合わせはなくてもいいが、ごま油を入れた熱湯でサッと湯がいた豆苗などを添えてもいい。湯がくならこのタイミングだ。
ではいよいよ「揚げない」の工程に移ろう。揚げないとは言ったが、家庭で揚げ物をするのがいやではない人や、いつでもフライヤーが手元にあるご家庭はもちろん揚げてもいい。早く均一に火が入るディープフライは、時短にもなる。
だが揚げ油がもったいないとか、あとの掃除が好きではない人は、やはり「揚げない」を選択しよう。圧倒的にあとが楽だ。使う油は、目玉焼きをするにはちょっと多め、フライパン全体に行き渡るくらいの量でいい。油を熱したら、先ほどの片栗粉まぶし肉塊を入れ、強めの中火ですべての面をこんがりと焼いていく。
全体にいい焼き色がついたら火を止め、もうひとつのフライパンを取り出そう。さあ、ここからは忙しい。別のフライパンにあらかじめ合わせておいた甘酢を入れ、火をつける。すでに片栗粉が入っているため、温まったらとろみがつき始めるはずだ。
フライパンを揺すりつつ、ヘラでかき回し、ふつふつと「あん状態」になったら、すかさずそこへ先ほどの豚肉を移し、肉全体に甘酢あんをからめたら出来上がり。甘酢を火にかけてから、1~2分が勝負だ。
この「先ゆで方式」の最大のメリットは、一度ゆでてあるので、火が通ったかどうかを気にする必要がないことだ。肉は意外と火が入りにくく、生から揚げていくのは実は難しい。半ナマの唐揚げを大量に作ってしまい、泣いた経験をお持ちの方も多いだろう。
逆に火を通すことに慎重になりすぎて、揚げすぎのパサパサになってしまう悲劇も多い。酢豚によく使われる豚もも肉やヒレ肉などはそもそも脂が少ないため、中まで火を通しながらジューシーに仕上げるのはプロでも難しいものだ。先ゆでして、フライパンで焼くだけなら生の心配はないし、手間もかからない。
「先ゆで方式」のメリットはそれだけではない。ゆでて、揚げないことにより、カロリーダウンも期待できる。さらに家にお年寄りや歯の悪い人がいても、これなら一緒に酢豚が楽しめる。
そしてゆでた状態でいったん置いておけるので、前日にゆでるところまでやっておいて冷蔵庫に入れておけば、次の夜クタクタで帰ってきても即、酢豚を作ることができるのである。甘酢あんの材料も混ぜておけば「玄関開けたら10分で酢豚」も夢ではない。
たとえ次の日に「ちょっと酢豚じゃないなあ」という気分になっていたとしても、おいしいゆで豚が冷蔵庫にあるしあわせは、何ものにも代え難い。シンプルに塩味しかつけてないから、どんな味つけでもどんとこい。
バジルペーストをのせればイタリアンだし、ゴマだれにラー油をかければ中華の前菜、キムチをのせて韓国風に食べるのもうまい。ラーメンにのせたり、ご飯にのせて豚丼にしたり、そうだ、溶き卵をつけて焼いてピカタという手もある。
またゆでたときのゆで汁も捨ててはいけない。豚のうま味がとけたおいしいスープだ、使い道なんていくらでもある。すでに薄く塩味がついているので、菜っ葉でも放り込んでしょうゆをちろりと垂らすだけで、冬の夜にはありがたい汁物だ。
今回は大きな塊でドーンと作ったが、もう少し小さく切っても良い。また肉だけでは地味だ、どうしても野菜を入れたいということであれば、山芋とプチトマトがオススメだ。山芋は一口大にカットし、豚肉を焼くとき一緒にフライパンで焼く。
トマトは甘酢あんに肉を入れるタイミングで入れるだけ。肉同様、どちらも火の通り具合を気にしなくていいのがうれしい。それに紅白の彩りがなんともめでたいではないか。まだ少し早いけれど、クリスマスやお正月などにもぴったり、持ち寄りパーティーにも持ってこいなのだ。ナイフとフォークでうやうやしくいただこう。
(食ライター じろまるいずみ)
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