日馬富士が貴ノ岩を殴ってケガをさせたとされる事件が、発覚してから2週間。とうとう、日馬富士が引退するところまで追い込まれた。
引退会見では、冒頭「貴ノ岩関にケガを負わせたことに対し、おわびをさせていただきます」と述べたものの、その後「国民の皆様、相撲ファンの皆様に大変ご迷惑をお掛けしたことを心から深くおわび申し上げます」と謝罪し、そこに貴ノ岩の名前はなかった。
このような大事な場面で、謝罪の対象に被害者の名前をうっかり忘れるということは普通考えにくいから、これは意図的なことなのだろう。
また、暴行に至った原因としては、「先輩の横綱として、礼儀と礼節がなっていないときにそれを教えるのが義務だと思っている」と語った。
同席した伊勢ケ浜親方は、「やった事実はあるわけなので、横綱として責任は取らなければいけない」と述べたが、会見を通して「横綱という名前を汚してはならない」という信念が貫かれていた。
また、記者の質問に気色ばんだり、質問を遮ったりする場面も見られ、当初の反省の色がどこかに行ってしまったような様子だった。
端的に言えば、不快な会見だった。
最初のほうは、残念なことになったものだと同情しながら聞いていたが、途中からそんな気持ちは吹き飛んでしまった。
まだ捜査中ではあるが、自らの暴行で相手に大怪我をさせておきながら、まるで「横綱を辞めさせられた自分のほうが被害者だ」と言いたげな態度が滲み出ており、「相手のことを思う一心だったのに」「相手のほうが悪かった」との言い訳に至っては甚だ聞き苦しい。
さらに、「一件の後、貴ノ岩から謝罪があって握手して別れたから、事がこれほど大きくなるとは思っていなかった」と平気で言ってのけるあたり、まったく共感性というものが欠如しているのではないかと疑ってしまう。
親方の態度は、弟子を庇うことは美しい姿なのかもしれないが、なぜこのような事態になったのかという肝心のところが抜け落ちている。
「横綱としての品位」に傷をつけたから引退ではなく、人に暴力を振るってケガをさせたから引退だということがわかっていない。
こんな親方だから、弟子がこんなことになってしまったのだ。親方の責任はとても大きい。