親父が深圳や大連、上海など手広く進出していた中国事業を撤収して15年ぐらい経つだろうか、あの牧歌的な頃の深圳はもう戻らないけれども、この若い藤田祥平さんという書き手の感じていることは圧倒的に(肌感覚として)正しいと思うんですよ。

日本が中国に完敗した今、26歳の私が全てのオッサンに言いたいこと http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53545 

 で、中国の景気の良い深圳は金がどんどん集まり、景気のイマイチな大連は金も人も去っていくという、中国特有の「都市間経済戦争」に時代は突入していっていて、ある意味で文化大革命で銑鉄の生産を地方政府の重要課題としたころの中国の趣と変わらない部分はあります。単純に、先進的であれ、外貨を獲得せよ、と中国共産党の方針に従って、藤田さんのいう「ツメの甘い企画によるプロダクト」が乱立するのも、質が低く使い物にならない鉄が量産されたのも、ダイナミックな中国が描く超最先端と駄目すぎる人々とが描くコントラストであります。

 44歳のオッサンである私は、学生時代に日本のバブル経済を経験しています。そのころは、日本が最先端だということで、色んな国が視察に現れ、ジャパン・アズ・ナンバーワンと叫ばれ、誰もが日本のやり方に興味を持ち、良いところを取り入れようとしていました。しかし、時代を下って分かったことは、世の中にそんなバラ色なことはなく、くだらないものにカネがつく時代は長くは続かずに、一度リセッションに転じると失われた二十年が始まってしまい、大学卒業のタイミングが就職氷河期に被ってみんな大変な思いをしたという事実であります。

 おっさんの知恵は「調子のいいときに浮かれず、駄目になったときのために備える」ことであります。確かに中国からのファンド出資がなければ日本のアニメ産業は成り立たないし、ゲームも映画も企画の段階でいわゆる「中国市場ウケ」や「中国の偉い人たちに具体的な繋がりのある会社を通じてビジネスをする」ことがGPの必須チェックポイントになっています。DMMが虎の子のコンテンツを中国に譲渡したのも、日本を代表するIPの新作映画の出資が半分近く中華資本になったのも、それもこれも「いま中国の一部には投資先を探さなければならないカネが余っているから」であります。

 しかし、パチンコからの資金流入がアニメ産業を支える仕組みが20年もたなかったように、いずれバブルが弾けて大変なことになるかもしれない中国との付き合い方を「のめり込みすぎない程度に考える」ことはとても大事なことだと思うのです。もちろん、いずれ腹が減るからと言って食事をしないのは愚の骨頂ですから、中華系ファンドが出資してくることを止める必要は何もありません。お互い、良い面だけ見て仕事をすれば良いのです。でも、それは中国市場や経済がいつまでも続く伸張をするという有り得ない仮説のもとに仕事を組み立てることは危険なのであって、いま中国の景気の良い都市から出てくる「これからは日本のCGやVRだ」といって行ってくれる投資を受けることと、もしも中国からの資金がなくなったらどういうオプションが考えられるかということとをきちんと考えながら仕事をしていく必要がある、ということです。

 バブル経済というものは、弾けた後でないとバブルだったと分からないからこそいろんな人が踊り、あれは凄いと褒め称え、中国が勝った日本はもうダメだと言いたくなるのです。それは、ロックフェラーセンターを落札してアメリカの時代は終わり、これからは日本が世界経済の中心になるのだと純粋に信じた80年代当時の日本人の驕り、油断、緩みが、大きな反動として衰退と低迷の日本を作り上げてしまった反省を、おっさんは担う必要があります。

 一方で、若い人たちが「景気の良い地域の仕事」を見て、いいなあ、凄いなあと肌で感じて楽しんで羨ましく思い、魅力的だ、素晴らしいと感じるのは良いことだと思うのです。26歳なら、どんどんいろんな地域を見て、経済成長の良さを味わい、様々な人達と交流して、思ったこと感じたことを素直に記事にしてみんなに読まれ、共感されたり怖れられたりするのが必要だと思います。若くからしておっさんである必要はありません。

 その意味でも、とても良い記事を読ませてもらいました。藤田さん、ありがとうございました。


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