裁判長が判決公判で読み上げた星島貴徳被告に対するわいせつ略取、殺人、死体損壊、死体遺棄事件の判決要旨は次の通り。<産経ニュース2009/02/18>
【主文】星島被告を無期懲役に処する。
【罪となるべき事実】
星島被告は東城瑠理香さんを拉致して強姦する目的で、平成20年4月18日午後7時30分過ぎごろ、東京都江東区内の当時の東城さん方居室内に玄関から押し入って侵入。東城さんの額をげん骨で殴り、タオルで両手首を縛った上、ジャージーを顔に巻いて目隠しをした。首に包丁を突きつけるなどして、2室となりの自分の部屋に連れ込み、わいせつの目的で略取した。
星島被告は東城さんを強姦しようとしたが、陰茎が勃起しなかった。そのため、アダルトビデオを見るなどしていたところ、午後10時20分ごろ、部屋のドアがノックされた。10時40分ごろ、様子をうかがうために共用通路に出ると、警察官が3人いた。星島被告は無関係を装って部屋に戻ったが、警察官らはすでに東城さんが拉致されたことを把握しており、星島被告が疑われて逮捕されるのは時間の問題で、もし逮捕された場合には、それまでの生活や体面を失うと考えた。そこで、東城さんの存在自体を消してしまうために、殺害し、死体を解体して投棄しようと企てた。
星島被告は午後11時ごろ、東城さん対し、右手で口を押さえた上、左手に持った包丁を首に突き刺した。包丁に体重をかけて深く突き刺したが、5分ほどたっても東城さんの呼吸が止まらなかった。できるだけ早く死に至らせようと考えた星島被告は左手で包丁を引き抜いて大量に出血させ、殺害した。
星島被告は東城さんの死体を解体して投棄しようと企て、4月18日午後11時50分ごろから23日までの間、のこぎり、洋包丁、ペティナイフなどを使って遺体の首、左右の太もも、左右の腕を切断。さらに、左右上肢、左右下肢、胴体部を細かく切断した。
19日から27日までの間、星島被告は自室で切断した遺体の部位などを水洗トイレから下水道管に流して投棄した。
切断した遺体の骨盤などの骨片を22日から5月1日までの間、前後4回にわたり、江東区内のマンションのごみ置き場のごみ箱に投棄。4月29日には同区内のコンビニエンスストアの北側に設置されたごみ箱に投棄した。
【犯行の経緯や動機】
星島被告は、幼いころにできたやけどのあとがあった。女性にやけどのあとを見られるとふられてしまうのではないかという思いから、普通に恋愛したり結婚したりすることはできないと考え、実際にも、女性と交際したことはなかったが、一緒に映画や食事に出かけたり、遊園地の帰りにホテルに寄って性行為をしたりする女性が欲しいと考えていた。
そして、星島被告の欲する女性は、自分のことをずっと好きであり続け、何でも自分の言うことを聞くような女性であった。ただ、現実にそのような女性が目の前に現れることは夢のまた夢と思っていた。
アニメやアダルトビデオの影響もあった星島被告は、女性を拉致し、強姦し続けることで性の快楽の虜(とりこ)にし、自分の言うことを聞かせようと考えた。また、女性に命令を繰り返し、女性の元の人格で自分に都合の悪いところは消去し、思い通りの人格を作り上げて、「性奴隷」にしようと考えた。
星島被告は、20年2月、江東区内のマンションの918号室に引っ越してきた。3月上旬か中旬ごろ、916号室の前で、東城さんの姉を見かけ、同室に1人幕らしの女性が引っ越してきたと思った。
同年4月12日ごろ、星島被告が自慰行為をしている際、仕事のいらいらや将来に対する閉塞感もあり、かねてから「性奴隷」にするのは若い女性であれば誰でもよいと思っていた。そこで、女性を拉致して、自分の部屋に連れ込み、強姦を繰り返して、「性奴隷」にしようと思いついた。
そして、金曜日に女性を拉致すれば、月曜日の朝まで拉致したことに気づかれず、2日以上かけて強姦を繰り返して快楽を与えることができると考え、次の金曜日の同月18日に拉致して強姦することを決意した。
この時、星島被告は女性を「性奴隷」にすることに失敗することはあまり考えていなかった。
仮に失敗した場合には女性の裸の写真を撮影するなどして脅迫すれば、警察に届け出ることはないだろうなどと考えていた。
星島被告は、それ以前から916号室の電気メーターを観察していた。その動きから、同室の女性は午後7時ごろから10時ごろまでに帰宅すると思っていた。
4月18日午後6時ごろ、勤務先から帰宅すると、同日午後6時30分ごろから、自室のドアを少し開けて、女性が帰宅して916号室の鍵を開ける音がするのを待ち構えていた。
この時、星島被告は、足音を立てずに916号室に駆け寄るため、靴は履かずに靴下のみを履いていた。
ところが、なかなか女性が帰宅しなかったため、午後7時ごろ、星島被告はいったん自室を出て1階に降り、郵便受けを確認。そのとき、若い女性とすれ違ったため、女性がエレベーターで6階に行ったことを確認。この女性を自室に連れ込んで強姦しようと考え、6階に向かったが、すでに女性の姿はなかったため断念した。
星島被告は自室に戻り、再びドアを少し関け、靴を脱いで916号室の様子をうかがうと、同日午後7時30分ごろ、鍵を鍵穴に差し込んで回す音が聞こえた。
星島貴徳被告は自室を出ると、916号室に向かい、部屋のドアを開けた。玄関に東城瑠理香さんがいたが、東城さんは星島被告を見ると声を上げて叫び、星島被告を外に押し出そうとしてもみ合いとなった。星島被告は東城さんの顔面を右こぶしで1回殴りつけた。東城さんは抵抗をやめ、フローリングの上にしゃがみ込んだ。
星島被告は東城さんをうつぶせに押し倒すと、その上に馬乗りになり、ブーツを脱がせたうえ、コートの襟首を背中辺りまで引き下げて両腕の自由を奪って立たせた。室内にあったタオルを縦に半分に切り裂いて両手首を後ろ手に縛り、ジャージーのズボンで目隠しをするなどした。
そして、星島被告は東城さんの黒いバッグを持ち出し、室内にあった包丁(刃渡り約17・5センチメートル)をその首かほおに突きつけ、「これから外に出る。おとなしくしろ」などと脅迫し、共用通路を経て自室の918号室に連れ込んだ。 星島被告は、この時、東城さんを以前、916号室の前で見かけた東城さんの姉だと思い込んでいた。
星島被告は、女性と実際に交際した経験がなかったが、女性と交際したり性交したりすることを望んでいた。そのための手段として女性を拉致して強姦し続けることで性の快楽の虜(とりこ)にし、自分の言うことを聞く「性奴隷」にしようと考えた。「性奴隷」にするのは若い女性であれば誰でもよかったので、東城さんを、その対象として、住居侵入、わいせつ略取を行っている。
その動機は、相手のことなど全く考えず、自己のゆがんだ性的欲望の充足のみを求めたもので、極めて自己中心的かつ卑劣であり、酌量の余地は皆無である。
犯行の態様も大胆かつ粗暴、凶悪で、非常に悪質である。星島被告は金曜日の夜に女性を拉致すれば、月曜日の朝まで発覚せず、2日以上かけて強姦を繰り返して快楽を与えることができると考え、金曜日を犯行日と定めた。住居侵入、わいせつ略取は計画的な犯行ということができる。
【殺人、遺体損壊・遣棄について】
星島被告は東城さんを918号室の洋室まで連れ込んだ後、ベッドマットの上にあおむけに寝かせた。声を上げないように口の中にタオルを押し込み、自由を完全に奪うため、ビニールのひもで、手首と足首をそれぞれ固く縛った。
星島被告は東城さんの左の額に傷があり、そこから血が出ていることに気づき、ハンカチを水にぬらして傷口にあてたが、血痕が残っているかもしれないと考え、タオルを持ち出して916号室に戻った。廊下の血痕や足跡をタオルでふき、指紋を消すために台所下の物入れの扉をふき、玄関ドアの内側やドアノブ、共用通路に落ちていた血痕もふくなどして、918号室に戻った。
星島被告は東城さんを強姦しようとしたが、東城さんがけがをしていて快感を感じないので、簡単には「性奴隷」にはできないのではないかなどと不安になった。
星島被告は、まずは自分が性的に興奮しなければ強姦できないと考えたが、緊張していたことや、東城さんが叫んだり暴れたりするかもしれないと思うと怖くなり、陰茎が勃起せず、自分が強姦している場面を想像しようとしたが、できなかった。そこで、星島被告は東城さんを「性奴隷」にできなかった場合の脅迫方法を考えたりしたが、やはり「性奴隷」にするのが一番良いとも思い、性的に興奮しようとして音声を消したままアダルトビデオを見た。
保身のためには「存在消すしかない」
東城さんの姉は平成20年4月18日午後8時43分ごろ、916号室に帰宅し、異変に気づいて警察に通報した。警察官が駆けつけた。警察官は午後10時20分ごろ、918号室のドアをノックした。
星島被告はこの時、アダルトビデオを見ていたが、ノックの音を聞いて驚き、すぐには玄関に出なかったが、警察が来たのかもしれないと不安になり、午後10時40分ごろ、コンビニエンスストアに行くふりをして外に出た。916号室の前に警察官が3人立っており、事件とは無関係を装い、再び918号室に戻った。
星島被告は東城さん方のすぐ近くに住んでいる自分が真っ先に疑われ、警察官らが部屋の中を確認しに来れば東城さんが見つかり、逮捕されてしまうと考えた。もし逮捕されてしまえば、月に50万円を稼げる仕事や、それなりにぜいたくな暮らし、自己の体面などを失うと憂慮した。そして、逮捕されずに東城さんを帰す方法がないか考えを巡らせたが、そのような方法は思いつかず、結局、東城さんを殺害し、その遺体を解体して投棄し、東城さんの存在そのものを消し去るしかないとの結論に至った。
東城さんを確実に殺害する方法として、首を刺してできるだけ多く出血させて殺害することを決意した。
星島被告は午後11時ごろ、タオルを1枚持ち出し、916号室から持ち出した包丁を左手に持って、ベッドマットの上にあおむけに横たわっている東城さんに近づくと、その左脇辺りのところで中腰になった。タオルを首の左横に置いて右手でその口を押さえ、左手で包丁を強く握り、いきなり首に突き刺し、さらに、体重をかけて奥まで突き刺した。5分ほど経過しても東城さんの呼吸が止まらなかったため、星島被告は東城さんをできるだけ早く殺そうと、左手で包丁を抜き取って大量に出血させた。さらに、5分ほどして東城さんの呼吸、鼓動、脈を確かめ死亡を確認した。
星島貴徳被告は、引き続き、東城瑠理香さんの遺体を解体しようと考え、ベッドマットに流れた血をバスタオルで吸い取るなどした後、浴室に運んだ。遺体の衣服をはさみで切り、平成20年4月18日午後11時50分ごろから、遺体の解体を始めた。
ペティナイフやのこぎりを使って、遺体から頭部を切り落としてから、両足と両腕を付け根から切り落とした。切り落とした足と腕はゴミ袋に入れて冷蔵庫に、頭部はゴミ袋に入れてクローゼット内の段ボール箱に、胴体はゴミ袋に入れてベッドの下の段ボール箱にそれぞれ隠した。
星島被告は、19日午後9時ごろから20日午前4時ごろにかけて、ペティナイフや洋包丁を使って、遺体の両腕や両足を細かく切り刻み、のこぎりを用いて指を切り落とし、水洗トイレから下水道管に流した。骨も細かく切断した。
星島被告は、午後8時ごろから翌21日午前7時ごろにかけ、のこぎりなどを用いて、遺体の胴体から、内臓を取り出して細かく切り刻み、胴体を小さく解体し、骨を細かく切断し、水洗トイレから下水道管に流した。
星島被告は、午後9時ごろから翌22日午前1時ごろにかけ、のこぎりや安全かみそりを用いて、死体の頭部から、髪の毛をそり落とすなどし、頭蓋骨(ずがいこつ)を切断して水洗トイレから下水道管に流すなどした。
その後、星島被告は23日にかけて、遺体の骨をさらに細かく切り刻み、計3回にわたり、骨の一部を手提げかばんに入れて外に持ち出し、マンションのごみ置き場のごみ箱の中に投棄した。
25日から27日にかけて、腐臭を放つ骨片を鍋で煮て細かくして、それらの骨や肉片、歯などを水洗トイレから下水道管に流した。
さらに同月29日、コンビニエンスストア北側のごみ箱に骨の一部を投棄し、5月1日、自宅の最寄り駅のごみ箱に残りのすべての骨を投棄した。
星島被告は東城さんを強姦しようと自室に連れ込んだが、思いのほか早く警察官が捜査を開始していたことから、自分が逮捕されてしまうのではないかと思った。もし逮捕されれば、月額50万円を稼げる仕事や、それなりにぜいたくな暮らしなどを失うと考え、東城さんの存在自体を消してしまうしかなく、そのため東城さんを殺害し、死体を解体して投棄しようと考え、殺人、死体損壊、死体遺棄を実行した。
その動機は、事件が発覚して逮捕されることを恐れるあまり、東城さんの生命や未来、心情、東城さんを取り巻く人たちの気持ちなどに思いを巡らせることなく、ただひたすらに自己の身勝手な保身のみを求めた。東城さんをあたかも廃棄すべき物のごとく扱ったもので、自己中心的で卑劣であるというほかない。
そして、殺人の様子は、目隠しをされたままあおむけに横たわり、抵抗できない状態にあった東城さんに近づくと、右手でその口を押さえ、殺意に基づいて、左手に持った包丁を何の前触れもなく、いきなりその首に突き刺し、さらに体重をかけて奥まで突き刺した。
5分ほど経過しても被害者が死亡しなかったことから、できるだけ早く死亡させるため、左手で包丁を抜き取って大量に出血させたというもので、残虐かつ冷酷である。
遺体損壊や遺棄の犯行は戦慄(せんりつ)すら覚えるものであり、さらに遺体の細片を汚物同様に水洗トイレから下水道管に流したり、他のマンションやコンビニエンスストアのごみ箱に投棄したりしており、死者の名誉や人格や遺族の心情を踏みにじるきわめて卑劣なものである。
星島被告のこれらの殺人、遺体損壊、遺棄の各犯行が、遺族らが東城さんの安否を憂慮し、警察官らが捜査を行っているすぐ問近で行われていたことも、見逃すことはできない。
東城さんは、3人姉妹の二女として出生し、いとこ姉妹とも姉妹同然に育てられた。長野市内の小学校、中学校を経て、県立高校を卒業後、平成15年4月、神奈川県内の女子大学に進学した。
東城さんは、高校時代から海外留学を志して英語を熱心に勉強していた。大学の1学年10人の留学枠に入り、16年3月から1年間、カナダの州立大学に留学し、留学中には、英語教員資格を取得した。
19年3月に大学を首席で卒業した後は、美術やファッションなどに関する職に就くことを目標にしながら、美術関連の会社でアルバイトをするなどし、20年1月上旬から、本件当時勤めていた会社に勤務し、熱心に職務に励んでおり、将来に大きな希望を抱いていた。
東城さんは、たまたま星島被告の住む918号室の2つ隣の部屋に住んでおり、何らの落ち度がないにもかかわらず、勤務先から帰宅して玄関にいるところを凶悪な犯行の犠牲になったものである。 東城さんは、防犯設備を備えて安全であるはずのマンションの安心できる場所であるはずの自宅で、突如として星島被告に襲いかかられて、拉致され、目隠しをされるなどして星島被告の部屋に連れ込まれた。
体の自由が利かない状態に手足を縛られ、いいようのない恐怖を味わったばかりか、突然何の前触れもなくその首に包丁を突き刺され、23歳という若さで、その尊い命と未来と希望とをすべて奪われた。東城さんの苦痛、絶望、無念の思いは察するに余りある。
東城さんの両親、姉妹らは、東城さんと親愛の情で結ばれて穏やかな生活をしていて、東城さんが行方不明になった後も、生存を信じ捜査にも協力してその帰りを待ち続けた。
にもかかわらず、その願いはかなうことなく、骨片になった東城さんと対面せざるを得なかった。東城さんの遺体は、細かく切り刻まれ、水洗トイレから下水道管に流されたり、ごみ捨て場に捨てられたりした。
本件後、わずかに骨組織49片、組織片172片となって発見された。それ以外は、いまなお下水道管などに留まっているとみられる。遺族らの悲嘆と苦痛はあまりにも大きく、これら骨組織や組織片のDNAの型が東城さんのものと一致していることが明らかになった後、遺族らは東城さんが死亡したことを現実として受け入れることができないままでいる。
東城さんの母は、公判に出廷し「何にも悪いことをしていないのに殺され、下水道や生ごみと一緒にばらばらにされて流されてしまった。何で犯人の星島がこの世に生きていなきゃいけないんでしょうか。生きる価値のない人間だと私は思っているから、死刑が当然だと思っています。それも味わった以上の恐怖、痛み以上のものを負った死刑です」などと述べた。
東城さんの姉は、公判に出廷し、星島被告に対して望む刑罰を尋ねられ、「死刑だと思います。(星島被告が)死んでも許せません。きっと、お墓ができたら、ハンマーを持って殴りに行きたいと思います」などと述べた。
東城さんの父も検察官に対し、極刑に処せられるのは当然で、公開処刑になることを望むなどと述べるなど、処罰感情はいずれも強い。
また、東城さんの友人らも、厳しい処罰感情を述べている。にもかかわらず、星島被告は遺族らに対し、公判で謝罪したほかは何もしていない。
本件は何ら落ち度もない東城瑠理香さんが安全対策のされたマンションの部屋に帰宅直後に拉致されて殺害され、その死体が解体されてトイレに流されるなどしたもので、マンションの居住者らに強い恐怖感を与えたほか、そのことが広く報道されたことで、社会に与えた衝撃も大きい。
【犯行後の隠滅行為など】
星島貴徳被告は918号室に東城さんを拉致した後、916号室に戻って、血痕や指紋などの痕跡を消すため床や台所、玄関ドアなどをふき取っている。
そもそも殺人、遺体損壊、遺棄そのものが罪証隠滅行為といえるものである。さらに、星島被告は東城さんの衣服や所持品を徹底的に切り刻んで水洗トイレから下水道管に流すなどしている。そのほか、東城さんの携帯電話から所在が判明しないよう東城さんのバッグの中にあった携帯電話を取り出し、裏ぶたを開け、電池パックを取り出したり、足跡が検出されることを恐れ、靴を買い替えたり、業務用の強力な洗浄剤で遺体の一部を流した配水管を洗うなどしている。
平成20年4月18日午後10時40分ごろ、東城さんの部屋の前に警察官が立っているのを見た際には「不審な物音は聞こえなかった」と言って対応した。
19日午前2時ごろ、浴室で被害者の遺体の損壊作業を行っていた際、部屋を訪ねてきた警察官には入浴中を装い、正午ごろに訪ねてきた警察官には自ら進んで部屋に招き入れるなどして怪しまれないように対応した。
同日タ方や、同月20日タ方に訪ねてきた警察官は部屋に入れ、捜査に協力するかのような態度を取るなど、一貫して事件とは無関係を装い警察官を欺き続けている。
同月19日には、外出先から帰宅した際、東城さんの姉を見かけ、以前、916号室の前で見かけて、今回、自室に連れ込んで「性奴隷」にしようとしていたのは、東城さんではなく、東城さんの姉であると気づいた際も、謝罪したいという気持ちになったが、やはり罪を免れたい気持ちから、警察に出頭するようなことはせず、引き続き部屋で遺体の損壊作業を進めている。
同月20日に東城さんの父とエレベーターで乗り合わせた際も、思わず土下座しそうになりながらも、「大変なことになりましたね。お役に立てず、すみません」などといい、事件とは無関係を装っている。
また、星島被告は日中は何事もなかったように勤務先に出勤し、その親ぼく会の席で事件について東城さんの自作自演ではないかといったことを話した。
マンションの周りに集まっていたマスコミに対しても事件と無関係を装い、あえて笑ってみせたりしながらインタビューに応じている。さらには、マンションの管理会社に対し、監視カメラが足りないなどと言ってクレームの電話までかけている。
このように、星島被告は徹底した罪証隠滅行為を行い、事件のことを問われると一貫して無関係を装う態度をとり続けているが、このような星島被告の振る舞いからは、人を拉致して殺害し、その遺体を細かく刻んで投棄するという凶悪犯罪を行ったことに対する自責の念や後悔の念をみてとることはできない。
罪を免れたいという自己の都合のみを優先させた態度は強い非難に値する。
【星島被告の生活歴、逮捕後の態度など】
星島被告は昭和50年1月、4人兄弟の長男として生まれ、岡山県内の小学校、中学校で学んだ。1歳11カ月の時に浴槽のふたに乗ったところ、ふたが落ちて熱湯の入った浴槽に落ち、一命はとりとめたものの両足にやけどを負い、赤くケロイド状にあとが残った。
やけどのあとのことで小学生のころからいじめにあうようになり、小学校の低学年のころ、そのことで泣きながら父親に相談すると、「そんなことで泣くな」と怒鳴ってしかられ、それ以来いじめにあっていることを誰にも相談できないと思うようになった。
厳しくしつけられて次第に父親を避けるようになり、母親に相談してもすぐに父親に伝わってしまうので母親も信用できなくなった。父親の転勤のため小学校4年以降、2度転校したが、そこでもやけどのためにいじめにあった。
頼る人がいないと考えていた星島被告は人と接するのを避けるようになるとともに、次第に自分がやけどをしたのは両親のせいだと強く思うようになった。中学校に入り、思春期になったこともあって、やけどのために女性や恋愛は自分には無縁だと考えるようになり、両親に対する恨みを深めていった。
星島被告は岡山県内の高校を卒業後、とにかく両親の元から離れたいと考え、東京都内のゲーム会社に就職したが、4年あまり勤務したところでゲームの仕事に飽きたこともあり会社を辞めた。その後、コンピューターの技術を生かし、コンピューターソフトの開発会社で働くようになった。
会社を替わるなどした後、技術が認められ、引き抜きを受け、月額50万円の個人契約社員として働くようになった。この点に関し、星島被告に仕事を請け負わせていた会社の関係者が公判に出廷し、星島被告の仕事ぶりは速くて正確で、後輩の指導もしていたこと、勤務先での人間関係に特に問題はなかったことなどを述べている。
高校卒業後も両親に対する恨みを募らせていた。「殺してしまいたい」とまで思うようになり、初めに勤めたゲーム会社に勤務しているころに2回ほど両親と会ったものの、それ以降は10年以上、音信不通の状態となった。
星島貴徳被告に前科前歴は全くなく、コンピューターソフト開発の専門知識を生かして比較的高額の収入を得て安定した生活を送っていた。両親に対しては尋常でない感情を抱いていたが、実際に殺害しようとしたことはない。
女性に対してゆがんだ妄想を抱くようになっていたものの、1週間ほど前に犯行を決意するまでは、あくまで妄想の次元にとどまっていた。その心の内はともかく、生活歴や生活状況に、問題となる点は見られない。この点は量刑にあたって考慮すべき事情として、本件の罪質、動機、態様、結果などに比べれば、過大に強調することは相当でないが、相応の意味がある事実といえる。
星島被告は、ごく普通の家庭に生まれたが、1歳11カ月の時に熱湯の入った浴槽に落ちて両足に大きなやけどを負った。やけどのあとが残ったことで、小学生のころから継続的にいじめに遭った。しかし、両親に相談に乗ってもらえなかったと感じ、やけどを負ったのは両親のせいだと恨みを募らせ、やがて殺害したいと思うまでに両親を憎むようになっていった。だからといって星島被告が劣悪な環境の中で育ったとまではいえないし、なぜ見ず知らずの者に対して、このような犯行に及んだかは十分に説明されていない。
しかし、人を殺害することを決意した背景には、このような感情が多かれ少なかれ影響しているとみられる。また、屈折した感情を持つようになった経緯には、自分勝手な思い込みが入り込んでいるものの、両足に残ったやけどのあとへのコンプレックスや両親との葛藤が影響していることがうかがえる。このような屈折した感情を持って、人生のほとんどを過ごしてきたこと自体には同情すべき点もあり、量刑を考える際には、心に留めるべき事情といえる。
星島被告は平成20年5月25日、東城瑠理香さん宅への住居侵入容疑で逮捕された。この前日、取り調べを担当した警察官から「お前は本当に、(東城さんの)家族に対して少しも悪いとは思っていないのか」といわれたことから、星島被告は犯行後に見かけた東城さんの姉や父の姿を思い浮かべ、罪悪感を募らせた。翌日からは犯行の詳細について自供を始め、28日には両親に対しても、罪を認めて謝罪する内容の手紙を送っている。
そして、その後も一貫して各犯行を認め、法廷でも自分の行った犯罪に向き合うようになった。遺族ら多数が傍聴する前で、犯行の詳細を述べたうえで「死刑になって地獄でおわびするつもりです。本当にすみません。謝っても何もならないと思いますが、本当にすみません」(被告人質問)「被害者の方に、ご遺族のみなさんに、友人、知人の方に、何度申し訳ございませんでしたと、すみませんと謝っても謝っても、気持ちが収まりません。弁護士と面接しても、何度も説得されましたが、やはり死刑でおわびさせていただくしかないと思っています。東城さんの無念さ、恐怖と苦しさを思うと、思い返すたびに体が硬直して何も手につきません。どうしてこんなにひどいことをしてきたのだと。一日も早く死刑にしてください。皆さんの気が少しでも晴れるように。お願いします。申し訳ありません」(最終陳述)-などと述べている。
拘置所の中では東城さんの冥福(めいふく)を祈り、せめて来世は幸せに暮らせるよう祈るため、般若心経を2000通以上写経している。拘置所内の本棚を仏壇のように見立て、花を飾ったり菓子などを供えているという。
このような星島被告の謝罪を遺族が受け入れるとは考えられない。また、星島被告自身もおそらく感じているように、改心は遅きに失しているが、自らの非を悔い、その罪のあまりの重さに苛(さいな)まれ、受け入れられるはずもない謝罪をしようとしているのを、うわべだけのものと切って捨てることはできない。
星島被告は法廷でも、いまだに両親を恨む気持ちがあると述べる一方、逮捕後に両親へ送った手紙の中で、事件を認めて謝罪するとともに、弁護人が面会に来てくれたのは父親が依頼したものであると思うとして、感謝の言葉を記している。家族とは依然として微妙な緊張関係にあるものの、変化する兆しを見せているともいえる。
これらの点は、星島被告の量刑を考えるにあたって過大に強調すべき点とはいえないが、相応には考慮すべき事情である。
【量刑の検討】
検察官は星島被告に対して死刑を求刑した。
死刑は、人間存在の根元である生命そのものを永遠に奪い去る冷厳な極刑であり、誠にやむを得ない場合における究極の刑罰であることを考えれば、慎重に適用されなければならない。
しかし、死刑制度を残す現行法制では、犯行の罪質、動機、態様、そして特に殺害の手段・方法の執拗(しつよう)性と残虐性、結果の重大性、特に殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状などをあわせて考察し、その罪責が非常に重大であり、罪刑の均衡の見地からも、一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合には、死刑の選択が許されている。
殺害されたのが1人という事案であっても、さまざまな情状を考慮した上で、極刑がやむを得ないと認められる場合があることはいうまでもない。
しかし、昭和58年の最高裁判例でも、殺害された被害者の数が重要であることが示されている。罪刑均衡の観点から考えれば、多人数が殺害された事案とは状況を異にするというべきであり、被害者が1人という事案で死刑を選択するためには、他の量刑要素で相当強度の悪質性が認められることが必要となる。
本件で第1に、星島被告は強姦目的でマンションに押し入って東城さんを拉致した上、犯行の発覚を恐れて殺害し、遺体を細かく切断して遺棄しており、非常に悪質である。
第2に犯行動機は、住居侵入、わいせつ略取については女性を「性奴隷」にしようというゆがんだ性的欲望にあった。また、殺人、死体損壊、遺棄については、わいせつ略取などの発覚を恐れたためであって、いずれも極めて身勝手で自己中心的である。そのうえ、住居侵入、わいせつ略取については計画性が認められる。
第3に犯行態様は、住居侵入、わいせつ略取については、マンションに押し入って東城さんを無理やり拉致し、自室に連れ込むという凶悪かつ非常に悪質なものである。殺人については、包丁で東城さんの頸部を突き刺すなど、残虐かつ冷酷である。
遺体損壊、遺棄については、死体を細かく切断して遺棄したという、戦慄(せんりつ)すら覚えるものであり、死者の名誉や人格、遺族の心情を踏みにじる極めて卑劣なものである。
第4に、東城さんは落ち度がないにもかかわらず拉致され、尊い命を奪われた。この結果は非常に重大で、遺族らの処罰感情は峻烈を極め、社会に与えた衝撃も大きい。
第5に、星島被告は徹底した証拠隠滅を行い、事件と無関係であるかのように装っていた。これらの事情を考えれば、一般予防の観点からも、検察官が死刑を求めるのも理解できないことではない。 星島貴徳被告の刑事責任を検討するにあたっては、以下の事情も指摘されなければならない。
殺害は、抵抗できない東城瑠理香さんに対し、包丁で首を1回突き刺し、その後、包丁を抜いて大量に出血させたというものだ。残虐であって、目的を遂げるために確実に東城さんを死に至らしめる冷酷さは背筋を凍らせるものがある。だが、他方で、執拗(しつよう)な攻撃を加えたものではないし、星島被告が東城さんに気づかれないように振る舞った結果とはいえ、東城さんに対してことさらに死の恐怖を与えるようなことはしておらず、このような様子が残虐極まりないとまではいえない。 昭和58年の最高裁判例は死刑を選択する基準の1つとして、犯行の態様を挙げており、殺害の手段方法の執拗性や残虐性が重要であることを示している。本件を執拗でより残虐な方法で殺害した事案と比較した場合、非難の程度に差が認められるのはやむを得ない。
この点に関連して検察官は、星島被告が東城さんの遺体を徹底的に切り刻み、汚物やごみと同様の方法で投棄した行為も、殺人の情状を検討する上で、最も悪質な情状として十分に考慮すべきと主張する。
確かに、遺体損壊、遺棄の具体的なありさまに接するとき、心に戦慄(せんりつ)を覚えない者はない。
そのことが遺族のただでさえ深い傷をどれだけ深くしたのか計り知れない。星島被告にとっては、東城さんの殺害、その遺体の損壊、遺棄というのは一連の隠滅行為であって、量刑を考える際、考慮すべきも当然である。
しかしながら死刑の選択が問題となるのは、星島被告が法定刑の中に死刑を含んでいる殺人罪を犯したからである。
殺人罪という規定を設けて、保護しようとしている法益は人の生命である。死刑を選ぶ基準としての犯行態様という観点から、東城さんが存命中である殺害前や殺害行為自体に比べ、東城さんが命を落とした後である遺体損壊、遺棄を過大に評価することはできない。
仮に星島被告に遺体損壊や遺棄について何らかの心理的愛着があり、それが殺人につながったというのであれば、動機の悪質性や星島被告の犯罪的傾向という点でさらに情状が悪くなるということも考えられる。
星島被告が、住居侵入などの時点から、殺人、遺体損壊、遺棄を計画していたというのであれば、犯行の計画性という点でさらに情状が悪くなるということもありえるが、本件においては証拠上そのような事情は認められない。
そうすると本件は、犯行態様という点で、遺体損壊、遺棄については極めて悪質な事案であるといえる。だが、殺害行為は執拗なものではなく、残虐極まりないとまで言うことはできないから、罪刑を選択するか否かという点においては、このような事情を星島被告の刑事責任を特に重くするものとは評価できない。
【わいせつ行為などの有無について】
星島被告は、強姦目的で東城さんを拉致したが、東城さんが額にけがを負って血を流しているのを見て動揺した。性的に興奮しようと試みたが、東城さんを強姦する場面すら想像できなかった。
2時問以上にわたって、東城さんを「性奴隷」にできなかった場合の脅迫方法を考えたり、アダルトビデオを見て陰茎を勃起させるよう試みたりするなどしていた。結局、強姦はおろか、わいせつ行為にすら至らなかった。
この点に関し検察官は、星島被告が強姦行為に至らなかったのは、星島被告の陰茎が勃起する前に警察の捜査が開始されたからにすぎないとし主張する。
しかしながら、いかなる事情があるにせよ、性的自由や貞操が実際に害された事案とそうでない事案とでは、非難の程度には差がある。
逡巡しながら2時間以上過ぎたという経緯も考えると、拉致した時点ですぐわいせつ行為を始めたり乱暴したりした事案とも、非難の程度には差があるというべきである。したがってこのような事情も、本件の量刑を考えるにあたって考慮されるべきである。
【犯行の計画性】
本件のうち、住居侵入、わいせつ略取については、計画的な犯行であることが認められる。
だが、殺人、死体損壊、死体遺棄についてみると、星島被告は東城さんを拉致した後、思いのほか早く警察が捜査を開始したことを知り、逮捕を免れるため、東城さんを殺してその遺体を解体することを決意したのである。
東城さんを拉致した時点では、東城さんを殺害したり遺体を解体したりすることは意図していない。あらかじめ殺害のための凶器や遺体の解体のための道具を準備していたわけでもないから、事前に計画されていたとは認められない。
この点について、検察官は、星島被告が当初から東城さんの殺害を意図したのではないとしても、星島被告が東城さんを殺害したのは偶発的なものではなく、拉致した時点ですでに必然的なものとなっていた、として星島被告に有利にくみ取るべきではないとする。
確かに、東城さんが星島被告の考えるような「性奴隷」になるとは到底考えられず、仮に東城さんが1人暮らしであったとしても、東城さんが失踪(しっそう)したことが週末のいずれかの段階で発覚することは十分考えられる。星島被告の当初の思惑は、遅かれ早かれ破綻(はたん)することは避けられなかったといえる。
星島被告は自分の生活を失うと考えて、短時間のうちに殺害する決意を固めて実行していることからすれば、殺害が偶発的であったとは言い難い。また一般に量刑を判断するにあたり、計画的犯行であった場合は、そのことをより悪質と評価して考慮することはあるが、計画的犯行でないといって、そのことを星島被告に有利な事情とみて、刑事責任を減らす方向で考慮することは相当ではない。
東城さんの殺害について計画性がないからといって、そのことのみで死刑を回避すべき事情にはならないことも明らかだ。
しかし、そうであったとしても、当初の段階から被害者を殺害して遺体を解体することを意図して計画的に犯行を遂行した者と、そうでない者に対する非難の程度には差があることも当然である。
犯行の計画性という点で、星島貴徳被告に特に有利な事情があるとはいえない。だが、死刑を選択するか否かという場面で、星島被告の刑事責任を特に重くするものとも評価できない。
そうすると、諸事情に基づく罪責の重大性や一般予防の観点を十分に考慮したとしても、第1に殺人は執拗(しつよう)なものではなく、冷酷ではあるが残虐極まりないとまではいえない。さらに、死刑選択の当否では、死体損壊、死体遺棄の状況の悪質さを殺害状況の悪質さに比べて過大に評価することはできないと考えるべきである。
第2に星島被告は東城瑠理香さんを拉致した後も、2時間以上、当初意図していた強姦はもとより、わいせつ行為にすら至らなかった。
第3に、殺人、死体損壊、死体遺棄には計画性は認められず、殺害が偶発的であったとは言い難いとしても、計画性の有無で非難の程度に差異があるのは当然である。
罪刑均衡の観点から量刑の傾向をも踏まえて検討した場合、死刑の選択も考慮すべきだが、特に酌量すべき事情がない限り死刑を選択すべき事案とまではいえない。
星島被告の生活歴、逮捕後の態度などの主観的事情についても検討を加える。
星島被告は逮捕後、警察官の言葉に心を動かされ、罪悪感を募らせて、各犯行の詳細を自供している。その後も一貫して事実を認め、公判でも、自己の行った犯罪に向き合い、各犯行の詳細を述べるほか、東城さんの冥福を祈るなど、自らの罪を悔い、謝罪の態度を示している。
星島被告は前科前歴がなく、職に就いて一定の収入を得るなど犯罪とは無縁の生活を送ってきている。幼少時に負った大きなやけどのあとにコンプレックスを感じて生きてきたことには同情すべき点もみられ、家族との間の関係には変化の兆しもみられる。
こうした点は、過大に強調することは適当ではないが、特に酌量すべき事情がない限りは死刑を選択すべきとまではいえない以上、それ相応の意味を持つというべきである。
検察官は星島被告には凶悪犯罪に対する根深い犯罪性向があり、もはや矯正不可能であると主張する。
確かに、住居侵入、わいせつ略取については、計画的に犯行を遂行している。殺人、死体損壊、死体遺棄については、東城さんの殺害を決意した後は、その時点で何が最も有効なことであるのかを常に冷静に計算している。その上で、犯行を冷徹かつ着実、迅速に実行し、犯行後も徹底的に隠蔽(いんぺい)し、平然と事件との無関係を装って行動している。
このような一連の態度からは、相応の犯罪的傾向がうかがわれる。
しかし、住居侵入、わいせつ略取の計画は、星島被告の現実離れした妄想の所産であり、そもそもがずさんなものである。陰茎が勃起しなかった事情はあるが、東城さんへのわいせつ行為にすら及んでいない。また、逮捕後は謝罪の態度を示していることなどから、矯正の可能性がいまだ残されているというべきである。
本件は死刑の選択も考慮すべき事案ではあるが、特に酌量すべき事情がない限り死刑を選択すべき事案とまではいうことはできない。星島被告にとって有利に斟酌(しんしゃく)すべき主観的な事情も考慮すれば、死刑をもって臨むのは重きにすぎるというべきである。
したがって、星島被告に対しては、無期懲役刑に処することとする。その終生の間、生命の尊さと自己の罪責の重さを真摯(しんし)に考えさせるとともに、東城さんの冥福を祈らせ、贖罪(しょくざい)にあたらせることが相当と判断した。
=(完)