テンボスコインの価値を裏付ける純金などを展示する「黄金の館」のイメージ=ハウステンボス提供 大手旅行会社エイチ・アイ・エス(HIS)やハウステンボス(長崎県佐世保市)を率いる沢田秀雄氏は、ジャスダックに上場する沢田ホールディングス(HD、東京・新宿)という持ち株会社の会長でもあります。その傘下や関連会社には、モンゴルのハーン銀行や外国為替証拠金(FX)取引を手掛ける外為どっとコムなどがあり、沢田氏は金融分野でさらに手を広げる構えです。今回はハウステンボスで実証実験を始める独自の仮想通貨「テンボスコイン」と、それを足がかりにした旅行と金融の融合ビジネスへの挑戦について聞きました。
■モンゴル、キルギス、ミャンマーの銀行に投融資
7月にキルギスの銀行に出資するため、出張してきました。私が会長を務める沢田HDとして、3カ国目の銀行出資案件です。事業基盤がしっかりしているので、うまくテコ入れすれば、おそらく5年ぐらいでキルギス有数の銀行になると思いますよ。
キルギスというのは中国と国境を接する中央アジアの小国です。多くの男性がモスクワに出稼ぎに行き、ロシアと経済的なつながりが大きい国ですが、日系企業の投資熱も高まっています。だから現地の人も、日本人をそれほど珍しがらなくなったようですが、それでも「日本から銀行への投資で来たのは初めて」と驚かれました。
沢田ホールディングスが出資するモンゴルのハーン銀行の店舗(ウランバートル市) 沢田HDはハーン銀行というモンゴル最大の商業銀行の株式の過半を持っているほか、ロシアの民間銀行にも投資しています。ミャンマーの銀行には融資しています。経済成長が著しいミャンマーは人口が5千万人を超えており、これからの成長市場です。キルギスも期待が持てます。
日本でも(銀行買収を)考えています。インターネットの時代だから、日本ではスマートフォン(スマホ)で全てが完結するようなネット銀行、「スマホ銀行」がほしいですね。HISの本業である旅行と金融業はとても相性がいいんです。旅行はお金が動くからです。
旅行と金融を結びつけた先駆者といえば、19世紀のトーマス・クックがいます。世界最初の旅行代理店をつくり、旅行者のためにホテルや乗り物の予約代行や団体列車を運行しました。19世紀後半には、海外に現金を持っていかなくて済むトラベラーズチェックを発明し、旅の大衆化を進めました。HISグループとしては、そこに領域を広げたいのです。
■「仮想通貨」、ハウステンボスで実験
金融進出の一環として、ハウステンボスで、昨今話題の仮想通貨、電子マネーの実験をします。園内だけで使える「テンボスコイン」です。もちろん金融法制の許す範囲でという前提ですが、将来は消費者の視点で、便利で新しい金融サービスに挑戦したいですね。今の日本の銀行より金利の面で有利だとか。
初めは1テンボスコイン=1円に価値を固定します。テンボスコインはハウステンボスの中でしか使えません。園内で消費していただいて、残ったら、銀行のように弊社に預けてもらうような仕組みを考えています。預かっている間は金利がきちんと付くようにします。
これがうまく動いたら、今度は全世界のHIS店舗で使えるようにしたい。それがうまくいったら、今度はコンビニエンスストアでも使えるような決済手段を目指します。そのころには、銀行免許を取得していることでしょう。
セブン銀行やイオン銀行のようなビジネスモデルと受け取られるかもしれませんが、彼らと競合することは考えていません。目指すのは、世界で使える電子マネーなんです。我々の銀行には店舗がないし、決済手段であるテンボスコインは、スマホがあれば誰でも使えるから低コストで運用できます。オペレーションのコストが低いから、通常の銀行よりも金利を高くできるはずです。競争力の高い銀行になれると思いますよ。
現金に換えたいときはHISグループの店舗に置いたATMを使ってもらいます。これでインバウンドやアウトバウンドで発生する消費者の金融ニーズをサポートしていきたい。拠点は、世界70カ国の156都市に270以上あります。本当に世界で使えるようにしたいのです。
最近、イオンやセブン&アイ・ホールディングスなど流通大手はどんどん金融事業にシフトしています。丸井グループもクレジットカードなどの「フィンテック事業」の債権が、店舗の固定資産額を上回り、金融で稼ぐ会社に変貌しつつあります。銀行を自社で持てば、外にお金が流出することもなくなる。HISが旅行と金融の融合を目指すのもこうした自前の生態系をつくりたいからなのです。
テンボスコインの話に戻しましょう。実験は1300人のハウステンボスのスタッフを対象に社員食堂や園内の飲食・物販店40店以上で、3カ月間行います。通常の電子マネーのようにあらかじめ現金を入金し、店舗のQRコードをスマホのカメラで読み取って決済する仕組みです。最初は電子マネーからスタートし、徐々に仮想通貨的な機能に変えていきます。全世界で安いコストで使えるよう、ビットコインで用いられている革新的なデータベース技術「ブロックチェーン」を入出金管理に使って使い勝手などを確かめます。
パノラマ写真で見たハウステンボス。まず、会社のスタッフを対象に仮想通貨の実験を始める=ハウステンボス提供■純金1トン購入、公開も準備
究極的には、日本政府が価値を保証する「円」より値打ちがある資産になったら素敵ですね(笑)。日本円は「日銀の金融緩和が続けば、いつかはインフレーションを招いて価値が大きく下がる可能性がある」という専門家もいますよね。テンボスコインは暴落しない仕掛けをつくります。
金を担保に使うんです。テンボスコインには金の裏付けを確保します。そのために1トンの純金(約50億円)を購入しました。その価値の範囲でしか、テンボスコインを発行しないから、価値は下落しないはずです。いわば、世界初めての「金本位制の仮想通貨」です。日本の紙幣(日銀券)は輪転機でじゃんじゃん印刷し市中に流している。インフレで価値が目減りするかもしれませんが、テンボスコインなら価値は落ちません。面白いでしょう? 裏付けがあるから消費者にも安心感があるし。
12月中旬から、「黄金の館(やかた)」という建物を園内で展示公開します。そこでテンボスコインの価値の源である純金を来場者におみせします。多くの方に見にきてほしいですね。
沢田秀雄
1951年大阪府生まれ。73年、西ドイツのマインツ大学に留学。日本に戻り、毛皮製品の輸入販売などを手掛ける会社を設立。80年にインターナショナルツアーズ(現HIS)を設立し社長に。96年、スカイマークエアラインズ(現スカイマーク)を設立。2010年、ハウステンボス社長に就任。
(シニア・エディター 木ノ内敏久)
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