黒羽転生   作:NANSAN
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 感想欄でこのような批判がありました

「なんで人食い虎がダークミーティア避けれるの? 紫音無能?」


 なるほど。
 ですが私は反論しましょう。

 馬鹿め!
 呂剛虎が優秀なんですよ!
 あの人ってかませ虎とか言われてますけど、白兵戦闘においては世界最高峰の魔法師(かつ戦士)の一人ですよ。知ってました?

 正直、今回の批判は、安易に考察しているという体で気に入らない展開に不満をぶつけているようにしか思えません。
 九校戦のときのように、私が適当に辻褄合わせで書いた内容に批判するならともかく、今回はしっかり考察して原作設定に沿ったシミュレーションの上で書かれたものです。
 私からしてみれば

「批判している人たち……ちゃんと読んだの?」

 と思わされました。
 ロジックがあることを理解してください。

 そもそも何度も言いますが、呂剛虎は白兵戦闘の達人です。
 当然ながら自己加速術式を利用できます。そして自己加速術式はちょっと早くなれるみたい軽い認識をしている人が多いみたいですけど、あれってかなりヤバい魔法ですよ?
 認識可能な限りで自分自身を高速移動させることが出来る。
 つまり、これは百メートル走の世界記録保持者を遥かに上回る速度で動けるということです。
 紫音が調律する光の軌跡を設定し、魔法を発動するのに0.1秒かかるとしましょう。
 自己加速術式状態で0.1秒もあれば、呂剛虎は数メートルは動けます。
 紫音が魔法を使うと「野性的な勘で」気付いた瞬間に逃げれば、数本程度のラインから逃れることは難しくないのです。

 発動直後に回避は不可能ですが、発動前に回避することは可能というわけです。
 わざわざ「勘で避けた」と記述しているのを読まなかったのですか?

 感想欄を見る限り、理解されていたのはわずかに一人(これを書いている段階では)だけでした。


 展開が気に入らないだけなら、素直にそう書いてください。(内容の要望は禁止されているので、それにはご注意を)私は批判自体は良いものだと思っていますから。
 本当におかしいと感じたならば、自分自身の考察を述べた上で尋ねる、という形にするべきだと思います。私も、しっかりと考察してくださっている方には、可能な限り丁寧な返信を心がけていますから。
 それに、読者の方の考察が正しいと判断すれば、そちらの意見を取り入れるようにもしています(勿論、全部ではありませんが)

 しかし、安直な考えで「この展開は有り得ない」と決めつけるのは、愚かであり、自分自身の『無能』を晒す結果になると思いますよ?





横浜騒乱編7

 翌日、月曜日の放課後。
 今日は珍しく千代田花音委員長が書類仕事をしていた。前委員長である摩利も付き添いで忙しそうにしている。論文コンペの直前ということもあって、仕事が溜まっているのだ。
 紫音も風紀委員会本部でいつも通りの書類仕事をしていると、達也がやってきた。久しぶりにこちらの手伝いをしてくれる――本当はこちらが本職だが――のかと思ったが、そうではないらしい。
 花音の前に立ち、関本勲(せきもといさお)との面会を求めた。
 機密漏洩という大きな犯罪の未遂とはいえ、彼も希少な魔法師の卵だ。現在は八王子特殊鑑別所に拘留されており、反省と改心が見られ次第、一高に復帰することになっている。そのため、面会に関しては問題ないことだ。
 だが……


「ダメ」


 花音は一言でバッサリと切り捨てた。
 勿論、達也は納得しない。


「何故です?」
「ダメなものはダメよ」
「いえ、ダメなのはわかりましたから、理由を教えてください。風紀委員長、または生徒会長を通して鑑別所の面会申請が受付されるのは分かっていますが、最終的な判断は学校側にあります。理由も教えてもらえずに門前払いでは納得できませんよ」


 正論で言い返した達也に対し、花音は非常に不機嫌そうな表情を浮かべた。
 元から気の強さが目立つ顔立ちなので、そういう表情をされると怒らせてしまったのではないかと思ってしまう。花音としては、達也を引きさがらせるために、敢えてそのような雰囲気を出していたのだが、生憎と達也にそんな感性はなかった。
 達也が首を傾げていると、花音は諦めたように答え始めた。


「……面倒なことになるから」
「面倒……とは?」
「惚けないで! この際だからハッキリ言うけどね、あなたはトラブル体質なのよ! 例え望んでいなくても、あなたに落ち度がなかったとしても、トラブルの方からやって来るの。鑑別所に行きたいですって? 絶対に面倒事が起こるに決まっているじゃない! この忙しい時期に仕事を増やさないで! ただでさえ四葉君もオーバーワーク気味なのよ!?」
「あ、それは同意です」
「ほら、四葉君も言っているじゃない!」


 花音に言われたことは、非常に心当たりのあることだ。
 紫音のフォローがあっても尚、かなりの頻度でトラブルに巻き込まれている自覚がある。故に言い返しにくかった。例え理不尽な理由だったとしてもだ。
 しかし、そこで助けを出したのは意外にも摩利だった。


「まぁ待て花音。達也くんにそこまで言うのは酷というものだろう? それに関本から直接被害を受けたのは彼なんだ。事情を聞きに行きたいと思うのは自然なことだと思うけどね」
「でも摩利さん……!」
「そう言うな。お前の気持ちはあたしもよく分かる」
「分かるんですね……」


 紫音の小さなツッコミを摩利はスルーしつつ、言葉を続けた。


「実は明日、あたしと真由美で関本の様子を見に行くことにしていたからな。その付き添いという形なら構わないだろう。ああ、ついでに四葉も連れて行こう」
「はい? 自分もですか?」
「そうだ。達也くんはトラブルメイカーとして有名だが、同時に四葉はトラブルシューターとして有名だからな。二人いれば相殺できるさ」
「あの、渡辺先輩。自分は便利屋ではないのですが?」
「先輩命令だ。一緒に行こうじゃないか」
「まぁ、摩利さんと四葉君が一緒にいるなら……」
「いやいや、千代田先輩もなに許可出そうとしているんですか?」


 結局、紫音の言葉は受け入れられず、明日の放課後に特殊鑑別所に行くことになった。小春の護衛という仕事もあるのだが、そちらは何故か真由美が手を回して部活連に代理を頼んでいたという。
 どうやら、本気で達也のトラブル体質と相殺させるつもりらしかった。
 それを聞いて紫音が呆れたのは言うまでもない。








 ◆◆◆








 火曜日の放課後、紫音たち四人は八王子特殊鑑別所にやってきていた。論文コンペまで五日という時期であるため、出場者三名は最後の詰めを行っている。達也は結局のところお手伝いなので、ここで抜けたところで問題にはならない。
 寧ろ、風紀委員としてこちらの問題を解決する方が優先されることだろう。
 今回はその名目でやって来ていた。
 だが、紫音はかなり嫌そうにしていたが。


「はぁ~」
「どうした四葉? 溜息なんかしていると幸せが逃げて行くぞ?」
「いえ、面倒事が起こる予感がいたしましてね」


 予感というより確信である。
 『八咫烏』によって送られている情報によると、現地協力者である関本勲を処分するべく大亜連合が手を出してくるらしい。その手配情報を昨晩知ったのだ。
 やはり達也はトラブル体質なのではないかと疑う。
 しかも、今回は平河千秋の暗殺失敗から反省し、かなり大きな部隊を動かしているらしい。昨日の今日なので、部隊の用意に手間がかかり、丁度放課後の時間帯に襲撃があると予想された。
 だから溜息を吐いていたのである。


「ごめんね四葉君。達也君のトラブル体質を相殺するなら、やっぱり四葉君が一番だから」
「あの、それって理由になってませんよ」
「あらごめんなさい」


 真由美と摩利の認識も、紫音=達也のフォロー役らしい。
 本質的に間違っていないので、否定もしにくいが。
 ともかく、特殊鑑別所の入口で少し面倒な手続きを行った後、四人は案内用デバイスだけ渡されて自由行動を許される。職員の一人もつかないのは、四葉と七草の名前があったおかげである。
 本当のところは、このために紫音を連れてきたというのが真相だ。
 これから行うのは、あまり合法とは言えない手段故に、誰も見ていないのが望ましいのである。


「達也君と四葉君はこっちにきて!」


 真由美に連れられて、紫音と達也は別室に行く。
 そして摩利だけが関本が拘留されている部屋に入った。
 拘留部屋といっても、牢屋のような場所ではない。生活に不自由のない、かなり充実した設備になっているのが()()()()()()()()()()()
 紫音たちが入った部屋は、関本の部屋の様子を観察できる隠し部屋だったのである。


「渡辺……何の用だ」


 特に拘束もされていない関本は、部屋に入ってきた摩利を見て力なく問いかける。
 彼は元風紀委員であり、摩利のことをよく知っている。
 だからこそ、無意識のうちに震えていた。


「勿論、事情を聞きに来た」
「い、いくらお前でも、ここで魔法は使えないぞ!」


 叫びながらも後ずさる関本に、摩利は不敵な笑みを浮かべる。
 魔法などなくても、相手を自白させることぐらいわけない。魔法を使う者であるがゆえに、魔法だけが特別だと錯覚しがちだが、魔法技能以外にも奇跡を起こせる方法は存在する。
 一瞬だけ風が吹き、甘いような不思議な匂いがした。
 関本は慌てて口と鼻を抑えるが、既に遅い。
 両腕を力なくダラリと下げて、意識を朦朧とさせる。
 摩利は薬を吸い込ませるためにだけ魔法を利用したが、調合自体は自分で行っている。隠された彼女の特技だった。
 アロマテラピーのように嗅覚を刺激する薬品を調合することで、自白剤に似た効果を生み出すのである。風紀委員ならば皆が知っている摩利の悪い趣味だった。


「へぇ。初めて見た」
「奇遇だな。俺もだ」


 一年生の紫音と達也は、聞いてはいても見たことはない。
 初めて見る彼女の技術に対し、特に紫音が驚く。
 摩利の質問に対し、関本が順調に答えていく様を見て、黒羽でも使えないかと考えたほどだった。


「質問だ。司波達也を催眠ガスで眠らせた後、何をするつもりだった?」
「……デモ機のデータを吸い上げた後、司波の私物を調べる予定だった……」
「理由は?」
聖遺物(レリック)


 これには達也も面倒だと思った。
 まさかそんなルートでレリックを狙われるとは思わなかったからだ。あれから特に音沙汰無かったので、諦めたのかと思っていたが、どうやら虎視眈々と狙っていたらしい。
 正確には、紫音が動いたことで大亜連合が放っているスパイが全て捕まり、レリックどころではなかったのが理由だ。関本についても運がよければ、程度でレリック強奪を命じられていたのである。
 そして、これに驚いたのは真由美だった。


「達也君、レリックなんか持っているの?」
「さぁ? 確かに少し前からレリックについて文献を調べていましたから、それで勘違いしたのではないでしょうか」


 真顔で嘘を吐くのは流石である。
 あまりに突拍子もないことだったので、真由美も特に追求しなかった。
 それに、どちらにせよ追求できなくなった。
 突如として非常警報が鳴り響いたのである。
 四人は一度部屋を出て廊下で合流し、状況を確かめることにした。


「侵入者のようですね」


 答えを知っている紫音は、白々しくも警報情報を見ながら呟く。


「侵入だと? どこの馬鹿だ?」


 摩利がそう言ったのも無理はない。
 先々日、病院で襲撃事件があったところであり、警察も捜査を強化していた。勿論、その時、病院で襲撃者を撃退したのが紫音である。
 真由美が持っていた案内用デバイスにも、すぐに避難ルートが提示された。
 そこから逆算すると、どうやら相手は屋上から侵入してきたらしい。流石に正面突破はないだろと思っていたが、これはまた予想外だ。
 マルチスコープを持つ真由美が状況確認すると、二十人以上の襲撃者が武装して暴れているのが見える。


「警備員が応戦しているわね。鎮圧には時間がかかりそうよ」
「そのようですね。それに、そちらは時間稼ぎで、本命はこちらのようです」


 達也の知覚が、もう一人の襲撃者を捉えた。
 廊下の少し先にいる大柄の男。
 紫音が二度も戦った相手である。


「出たな。呂剛虎(リゥカンフゥ)
「なにっ!?」
「……?」


 驚く摩利に対し、真由美はキョトンとしている。
 千葉(ちば)修次(なおつぐ)の恋人である摩利は、その関係で呂剛虎(リゥカンフゥ)のことも認知していた。より正確には、この前の病院事件で呂剛虎(リゥカンフゥ)が襲撃してきたからこそ知っているのである。
 あの日の夕方、摩利は修次と共に千秋に事情を聞きに行こうとしていた。ところが、その日は午前に襲撃者がいたことで、面会を完全に謝絶されていたのである。
 警察関係者と縁が深い千葉家の伝手を辿り、襲撃者の正体を知った。
 それが呂剛虎(リゥカンフゥ)
 その恐ろしさは修次から聞いている。


「先輩方は後ろへ」
「いや、四葉こそ下がれ」


 紫音と摩利が同時に前に出る。
 そして先に紫音が右手を翳し、問答無用で『闇』を使った。数本からなる漆黒のラインが空中で閃き、呂剛虎(リゥカンフゥ)の足を穿とうとする。しかし彼は、発動を勘だけで感じ取り、それを回避して見せた。
 壁や天井を走るという荒業で無理やり回避した呂剛虎(リゥカンフゥ)は、紫音と摩利まで一瞬で接近する。
 しかしあと数メートルといったところで足を止めた。
 そして次の瞬間、慣性操作で無理やり停止した呂剛虎(リゥカンフゥ)の目の前を、摩利の斬撃が霞めた。


「ほぅ。避けるのか」


 摩利が手に持つのは二十センチの短冊が二枚繋がれた、三節構造の小型剣。かなり特殊な構造の武器らしい。
 そして動きを止めたところを真由美の『ドライ・ミーティア』が襲う。二酸化炭素を凝縮させ、その時の熱を運動エネルギーに変換して飛ばす魔法。嵐のようなドライアイスの弾丸が呂剛虎(リゥカンフゥ)に襲いかかった。
 鋼よりも硬い鋼気功(ガンシゴン)がそれを防ぎつつ、下がる隙を与える。
 しかし、紫音は追撃の瞬間を逃さない。


「なら、これは防げるか?」


 再び連射される『闇』の一つが脇腹を貫通する。
 完全に一方向へと『調律』された光を防ぐには、紫音の干渉力を上回る必要がある。だが、波動の事象改変に特化している紫音の干渉力を上回るのは簡単ではない。鋼気功も容易く貫かれた。
 一瞬だけ止まった呂剛虎(リゥカンフゥ)に対し、今度は摩利が攻撃を仕掛ける。
 二枚の短冊を飛ばして呂剛虎(リゥカンフゥ)の上でクルクルと回転させる。そして柄として残っている部分と二枚の短冊に斥力場を発生させ、三方向から魔法斬撃『圧斬り』を実行しようとしていた。


「四葉、足止めを!」
「了解」


 再び『闇』を放ち、両足を穿って呂剛虎(リゥカンフゥ)に膝を着かせる。
 動けなくなった呂剛虎(リゥカンフゥ)は、それでも戦士としての意地から立ち上がろうとした。だが既に遅い。
 摩利の『圧斬り』は未熟故に、三つ同時となると発動に時間がかかる。
 しかし、今の時間稼ぎで十分な猶予を確保できた。
 三方向からの斬撃が呂剛虎(リゥカンフゥ)に襲いかかる。
 ここで問題なのは、あらゆる物理攻撃を弾く鋼気功だ。摩利の『圧斬り』など容易くはじいてしまうことだろう。そこで、紫音が密かに右手を伸ばし、魔法を発動させた。


(『術式強奪(グラム・ディバージョン)』)


 精神波長を調律し、魔法演算領域を乗っ取る。これによって魔法を強制キャンセルした。
 鋼気功を失った呂剛虎(リゥカンフゥ)は摩利の『ドウジ斬り』によって容易く切り裂かれた。
 胸、両肩を同時に切り裂かれたことで、力なく倒れる。
 このままでは出血多量で死に至るのではないかと思うほど、流血していた。


「終わったな」
「そうですね先輩」


 その後やってきた警備員によって無事に呂剛虎(リゥカンフゥ)は確保されたのだった。











 摩利と共闘させてみたかった。
 ただそれだけです。

 理由は私が摩利好きだから。
 普段と恋人の前で全然態度が違う、あのギャップが好き。ああいう女性は憧れますよねぇ。






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