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宇都宮徹壱ウェブマガジン

【限定無料公開】いわきFCが「Jリーグに入らなくてもいい」と考える理由 安田秀一(株式会社ドーム代表取締役CEO)インタビュー<1/2>

 今週は月の5週目ということで、過去の記事を無料公開する。通常であれば、メルマガ時代のものを蔵出ししてくるのだが、今回お届けするのは今年10月26日と27日に掲載したばかり。株式会社ドームの安田秀一代表取締役CEOのインタビューである。

 ドームといえば、アンダーアーマーの日本における総代理店であり、いわきFCのメインスポンサーとして知られている。その創業者でもある安田さんについては、いわきFCを取材する中で「いつかじっくり話を聞きたい」と思っていたのだが、現在発売中の『フットボール批評』の取材でようやく実現した。

 今回、安田さんのインタビューを無料公開とした理由は3つ。まず、有料コンテンツでありながら、掲載と同時にSNS上で大きな反響があったこと。次に、『フットボール批評』のプロモーションに少しでも寄与したいとの思いがあったこと。そして安田さんご自身が、この記事が広く読まれることを熱望されていたこと。編集部で検討した結果、12月6日(水)23時59分までの1週間限定で、無料公開とすることにした次第である。

 サブタイトルについて説明しておく。いわきFCについては、福島県リーグ1部(J1から数えると7部)所属ながら、今年の天皇杯で北海道コンサドーレ札幌を延長戦の末に打ち破り、一大センセーションを巻き起こしたことは記憶に新しい。また、フィジカル重視の独特のトレーニングメニューも、サッカーファンの間で話題になった。だが、このクラブを「ジャイキリ」や「フィジカル」だけで語ると、その実体を見誤ることになる。

 いわきFCを理解するには、Jリーグとの関係性で捉えるべきであろう。というのも、このクラブは「Jリーグを目指すこと」を目的に作られたわけではないからだ。むしろJリーグに対する「強烈なアンチテーゼを体現しているクラブ」と言ってよい。ならば「強烈なアンチテーゼ」とは、具体的にはどのようなものなのか。その答えは、安田さんの発言から随所に確認することができる。『フットボール批評』での拙稿と併せてお読みいただければ幸いである。(取材日:2017年10月10日@東京)

<目次>

*今の大学生はアスリートとしても優秀

*いわきFCを始めた理由は「物流センターの雇用」

*「同世代のヒーロー」大倉智との再会

*スクールや育成年代で儲けようとは思わない

*海外から謙虚に学ぼうとしない今の日本人

*「日本のスタジアム改革の雛形」をいわきに作る!

■今の大学生はアスリートとしても優秀

――今回、いわきFCの取材を続ける中で、どうしても安田さんにお話を伺う必要性を感じておりました。自分の中では、これまでの取材の「答え合わせ」というのが今回のインタビューの位置づけなんですが、よろしくお願いします。

安田 宇都宮さんのいわきFCについて書かれたものは、僕もよく読ませていただいています。非常にポイントを突いているというか、宇都宮さんが外側から見ていることって、僕の中では「正解」だと思っています。僕自身、「これが正解」みたいな確信があるわけではなくて、何事も仮説から入っているんですけど、宇都宮さんが外側から見て客観的に書いたものに正解はあるのかなと思っています。

――恐縮です。昨年1月の有明コロシアムでの「いわきFC事業構想発表」には、私も出席してコラムにも書いています(参照)。あれが私といわきFC、そして安田さんや大倉さん(智=いわきFC社長)とのファーストコンタクトとなったわけですが、率直に言うと雲をつかむようなお話ばかりで(笑)。でもその後、いろいろ調べていくうちに、単に「大企業が莫大なお金を投資してJリーグを目指す」というストーリーではないことに気づきました。

安田 ウチの会社は、創業して3年目に「社会価値の創造」という理念を作りました。僕が会社を始める時にすごく考えたのが「ミズノもアシックスもナイキもある中で、なぜ自分がこれをやっているのか」ということだったんです。会社を作った初年度から利益を出していて、僕が最初に勤めていた三菱商事よりも収入を得ることができた。何となく自営業という感じだったら、それで十分だったんだけど、そうすると自分の中でのモチベーションのギャップが生まれてくる。じゃあ、もっと社会にとって役立つこと、価値のあることをやろうよ、と。それが「社会価値の創造」という社是を作った背景です。

――その「社会価値の創造」という理念を作ってから20年くらい経つわけですが、当時と比べて日本の経済もスポーツを取り巻く環境もかなり変化しています。安田さんは現状をどう捉えていますでしょうか?

安田 大きく言うと時代の変換期だと思っています。ミレニアル世代とその下にいるジェネレーションZ(参照)。ここのパワーを活用しているところは勝っているし、いまだに団塊世代の影響が強い業界や組織は負けていますよね。3週間前にアメリカに行ってきたんですが、人口のマジョリティが25歳から35歳のミレニアル世代。一番人口が多いところに政府の政策が集中するし、企業もそこにお金を突っ込む。そこの部分に、きめ細やかなマーケティングをしていかないと、生き残れないというのは向こうの企業は本能的にわかっています。

――それに対して日本は、やっぱり団塊の世代が人口のマジョリティですから、政策も経済もそっちのほうに向かざるを得ないですよね。安田さんは今の日本の若い世代に、大きな可能性を感じていらっしゃいますか?

安田 ええ。僕は今、母校である法政大のアメフト部も指導しているので、最近の18歳から22歳の若者と接することが多いんですが、彼らのすごさというか優秀さは肌身に感じていますね。僕らの世代は40人以上のクラスの中で、机の下で漫画を読んでいてもバレなかったですよね。部員が100人いる部活だったら、端っこでサボっているやつが10%くらいはいました。でも今の法政アメフト部は、100人いれば100人が頑張る。誰もサボらないんですよね。これはすごいことですよ!

――まあ、確かに。とはいえ100人もいたら、試合に出られない選手も多いですよね。

安田 もちろん、試合に出られない選手のほうが圧倒的に多い。それでも頑張るし、周りの足を引っ張らない。しかもこの世代は、(アスリートとしての)能力も高いんです。一番わかりやすいのが高校野球。清原・桑田の時代と比べると、今は大会のホームランの数は違うし、150キロの球を投げるピッチャーもごろごろいる。食べ物やトレーニング方法はもちろん違うんだけど、それ以上にみんな努力していますよ。そこがすごい。

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