米政府、ティラーソン国務長官交代の報道を否定

レックス・ティラーソン米国務長官(写真左)の後任候補に中央情報局(CIA)のマイク・ポンペイオ長官の名前が挙がっている Image copyright AFP
Image caption レックス・ティラーソン米国務長官(写真左)の後任候補に中央情報局(CIA)のマイク・ポンペイオ長官の名前が挙がっている

米政府は30日、レックス・ティラーソン国務長官(65)が近く交代させられるという一部報道について、内容を否定した。

ホワイトハウスのサラ・サンダース大統領報道官は、ティラーソン氏は「引き続き国務省を指揮している」と述べた。国務省のヘザー・ナウアート報道官も、報道は「事実と異なる」と否定した。

これに先立ち米紙ニューヨーク・タイムズと米誌バニティ・フェアは、複数の匿名政府筋の話として、政府はティラーソン氏を退任させて、中央情報局(CIA)のマイク・ポンペイオ長官に交代させる計画だと伝えていた。さらにこの後、AP通信とロイター通信が複数の匿名ホワイトハウス関係者の話として、交代の方針を伝えている。

これに対してサンダース報道官は、「大統領が言ったばかりだが、『レックスはここにいる』」と定例会見で述べた。「現時点で人事の発表はない」と報道官は言い、「ティラーソン長官は引き続き国務省を指揮している。全閣僚は、すばらしく成功したトランプ政権1年目を最後まで見届けることに注力している」と団結を強調した。

一方で、報道によると、国務長官交代はジョン・ケリー大統領首席補佐官による国家安全保障担当の大幅な人事刷新の一環で、早ければ12月中か1月中に行われる見通し。ポンペイオCIA長官の後任には、共和党のトム・コットン上院議員(アーカンソー州選出)が予定されているという。

ポンペイオ長官は国家安全保障上の問題でティラーソン氏より大統領の立場に近く、コットン議員はイラン核合意についてトランプ氏と同じように批判的な姿勢を示してきた。陸軍士官としてイラクとアフガニスタンで戦闘を経験し表彰されているコットン議員は、国防費拡大を目指すタカ派だとされている。

ただし、ニューヨーク・タイムズ紙は、ドナルド・トランプ米大統領が最終承認をしたかは明確ではないと伝えている。

トランプ氏とティラーソン長官は過去に外交政策について対立し、関係も良くないと報道されている。

サンダース氏は同日に別の記者会見で、「大統領が誰かに信頼をなくせば、その人はここで勤務しなくなる」と述べた。

White House spokeswoman Sarah Sanders, 30 November 2017 Image copyright Getty Images
Image caption 「現時点で人事の発表はない」とサンダース報道官’(30日)

国務省のナウアート報道官は、確かにティラーソン長官とトランプ大統領が外交政策で食い違ったこともあると認めながら、交代報道を受けてケリー首席補佐官が「うわさは事実ではない」と電話をかけてきたと話した。

近く欧州歴訪が予定されている国務長官について、ホワイトハウス関係者が近く解任されると報道陣に話している状態で、いったい長官はどうやって職務を継続できるというのかと質問されると、ナウアート氏は、「国務長官はちょっとやそっとのことで動揺などしない人だ」と答えた。

上院外交委員会のボブ・コーカー委員長は報道について、ティラーソン長官は「何か変化があるとはまったく認識していない」と話した。

ジェイムズ・マティス国防長官も国防総省で記者団に対して、一連の報道には「何も中身がない」と述べた。

なぜ解任報道が出るのか

大統領と国務長官の関係にあつれきが生じているという報道は、これまで繰り返されてきた。

エネルギー大手エクソン・モービルの会長だったティラーソン氏は、イランや北朝鮮について、大統領と方針が食い違ったと言われている。

国務長官は、制裁緩和と引き換えにイランの核開発を制限すると多国間で決めたイラン核合意の有効性を支持したが、トランプ大統領はこの合意を批判し罵倒してきた。

北朝鮮の核開発についても、交渉継続を重視するティラーソン氏に対して、トランプ氏が「時間の無駄」だとツイートしたこともある。

トランプ大統領は10月1日、北朝鮮の最高指導者、金正恩・朝鮮労働党委員長を「リトル・ロケットマン」と呼び、「素晴らしい国務長官のレックス・ティラーソンに、リトル・ロケットマンと交渉しようとしているのは時間の無駄だと伝えた」とツイートした。

さらに、報道によるとティラーソン氏は内々に、トランプ氏を「間抜け」と呼んだとされている。

6月にも、サウジアラビアとカタールの対立について、大統領と国務長官の発言は食い違っていた。国務長官はサウジアラビア主導のカタール封鎖が、過激主義との戦いに悪影響を与え、人道危機をもたらしていると警告した。一方のトランプ氏は、カタール政府が過激主義組織を資金援助しているという疑惑を念頭に、経済封鎖は「テロの恐怖の終わりの始まりをもたらすかもしれない」と発言し、サウジアラビアの政策を支持するような態度を示した。

さらにティラーソン長官に対しては、大胆な国務省改革の計画が一部から強く非難されている。民主党だけでなく一部の共和党関係者からも、大幅な職員・予算削減は国外での米国益を損なうおそれがあると批判している。


<解説>ワシントン政界で立ち回れず――バーバラ・プレットBBC国務省担当編集委員

トランプ氏とティラーソン氏のあつれきは、幅広く報道されてきた。一部には個人的な問題もあるようだ。両者は気質といい、仕事の仕方といい、まったくの対極にある。しかしトランプ氏は国務長官が「エスタブリッシュメント(主流派)」過ぎると、不満を漏らしていたとも言われている。

大統領は、主だった外交分野においてティラーソン氏の立場を自分の激しいツイートでたびたび損なった。しかしその一方で、北朝鮮などについては国務長官の外交戦略を静かに受け入れてきた。これは、両者の関係が報道されてきたよりも複雑な色合いのものだという表れかもしれない。

大統領との関係とは別に、ティラーソン氏の組織運営スタイルは、国務省内と議会と外交政策関係者の間で多くの敵を作ってきた。トランプ大統領の提案する予算削減案をすんなり受け入れ、時には方向性や詳細の説明のないまま大幅な組織改革を断行してきたからだ。

さらに、多くの国務省幹部が解任されたり、現状に幻滅して辞任している。この全てが長官の責任ではないが、ワシントン政界の様々な駆け引きの中で十分に立ち回ることができていないのは確かだ。


(英語記事 Rex Tillerson: White House dismisses reports of replacement

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