PDCAサイクル:実態と致命的欠点

PDCAサイクルとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)の段階を繰り返し回転させることによって、業務を継続的に改善する方法です。

日本で60年以上にわたり生産技術における品質統制のために使われてきました。これ以外に適用領域が拡大してきたことから、限界が露見しだしています。


PDCAが日本を壊す

日本企業の偽装が後を絶ちません。品質に関係する形式化した検査の不正と検査データの改ざんが横行しています。偽装は会計不正による利益数値の操作にまで及んでいます。

本質を見極める力が、PDCAを回せという上司の指示でそがれています。

現場の多くの人が、PDCAが回らないと感じているのです。

・計画倒れで実行に移されていません。

・実行した後のチェックが疎かになっています。

この原因はPDCAを理解していないためだといわれます。この回さなくてはならないが回せないストレスから、上司は部下にPDCAの勉強を迫ります。そして成果なきPDCA信奉が無理強いされていきます。

ところが、PDCAが回らない理由は、自分の至らなさではありませんでした。PDCAに問題がありました。PDCAを回すこと自体に問題があったのです。


仮説検証の方法論

PDCAは、設定した仮説や理論を実験で確かめる科学の方法に起源があると考えられています。経験主義の科学的方法論です。(PDCAの歴史については次に紹介します。)

しかし、PDCAでは形成された仮説を実際に実行してチェックするプロセスが定められていますが、肝心の仮説形成をどうするか示されていません。

仮説検証の方法は、まず観察とアイデアや理論の想像があり仮説が形成され、その後仮説を実証実験により検証します。この包括的な仮説検証の方法論を示してくれるのがOODAです。OODAは人間の思考の仕方を気づかせてくれる方法です。

仮説検証の方法論」の詳細については、こちらを参照してください。


PDCAの背景と歴史

PDCAの本質を理解するためには、その背景と歴史を知ることが有効です。実験や実証を重んじた経験主義の科学的方法論の歴史です。

ガリレオ ガリレイ
1610年にイタリアの科学者ガリレオ ガリレイ(Galileo Galilei)が実験の実施と数学により科学と科学的手法の礎を作りました。

フランシス ベーコン
1620年にイギリスの哲学者フランシス ベーコン(Francis Bacon)が、それまでの科学が演繹論理(Deductive Logic)で自然を解釈していたものを、現実の観察や実験を通した帰納推論(Inductive Reasoning)によるべきだと主張しました。彼の貢献により、演繹と帰納の論理的関係が明確になりました。

クラレンス ルイス
1929年にアメリカの哲学者クラレンス ルイス(Clarence Irving Lewis)は著書「精神と世界の秩序(Mind and the World Order)」で、経験してみる事によって初めて感覚できる質感をクオリア(Qualia)として提言しました。科学的な方法論を主張しました。

ウォルター シュワート
1939年にアメリカ ベル研究所の物理学者ウォルター シュワート(Walter Andrew Shewhart)はルイスの影響を多大に受け「仕様(Specification)→生産(Production)→ 検査(Inspection)」というシュワートサイクル(Shewhart Cycle)を提言しました。

エドワーズ デミング
1950年にシュワートの弟子の統計学者エドワーズ デミング(William Edwards Deming)が日本の日本科学技術連盟で統計的品質統制(Statiscal Quality Control, SQC)の講演を行いました。
その際にシュワートサイクルを変更して「設計(Design)→生産(Produce)→販売(Sell)→再設計(Redesign)」のサイクルを説明しました。これをデミング サークル(Deming Circle)と言う人もいます。
彼はこのサイクルを継続して回すことが重要と主張しました。

日本科学技術連盟
1951年に日本科学技術連盟でデミングの講演を聞いた名前が特定されていない日本人の幹部が、PDCAサイクル(Plan, Do, Check, Action Cycle) (ActではなくAction)に作り直したと言われています。
太平洋戦争後のアメリカによる自虐史観WGIPの教育とあいまって、PDCAサイクルがアメリカの経営手法として紹介され日本で普及しました。

エドワーズ デミング
1986年にデミングは1950年版のシュワートサイクルを再度紹介します。1980年代に行ったセミナーでデミングは何度もPDCAは正しくないと注意を促しています。英語ではチェック(Check)食い止める(Hold Back)という意味であり不正確であると主張しています。
1993年にデミングは再度シュワートサイクルを修正し「学習改善のためのPDSAサイクル(Plan, Do, Study, Act Cycle)」と呼びました。彼は、製品あるいはプロセスの改善と学習のためのフロー図(Flow Diagram)だと述べました。

現在
日本では、統計的品質統制の導入コンプライアンスのためのPDCAが、そのまま60年以上にわたって使われてます。
その後、日本においてPDCAの適用領域が経営にまで拡大しています。


PDCAの実態

PDCAが現場ではどのような弊害をもたらしているか、PDCAの実態を見ていきます。


石橋をたたいて渡る

日本人
日本人の慎重な行動の仕方が、PDCAの考え方と通じており、PDCAの普及によりますますスピードを遅くさせています。

日本人は、事前に十二分に検討して、根回しをし、関係者の合意を得て、再三検討してからモノゴトを進めようとします。このため動きが遅くなり動きだした時にはすでに状況が変わってしまっています。

欧米人
欧米人は、理想とする目標を決め、すぐに活動を始め、途中で問題が発生すれば軌道修正し方向転換しながら目標に向かって作業を進め目標を達成してしまいます。

川がありその川を渡る場合で説明します:

石橋をたたいて渡る
日本人は、川を渡る目的を決めどの石橋をどのようにいつ渡るか時間をかけて決めます(Plan)。そして決めた計画に従いみんなで一斉に石橋を渡り始めます(Do)。渡りだしてから実際に石橋が頑丈か石橋をたたいてみます(Check)。そして石橋が絶対大丈夫だと確認できてからから石橋を渡ります(Action)。
まさに、PDCAの進め方と同じです。

石橋をさっさと渡る
欧米人は、目的地を決め(Orient)、川を渡る石橋をみつけて(Observe)、石橋をたたくことなく渡ると即断し(Decide)、川を渡ります(Act)。渡りだして石橋をみて(Observe)崩れそうなのが分かったら(Orient)、崩れる前に渡ろうと決め(Decide)、渡ってしまいます(Act)。
こちらは、OODAの進め方に通じます。


命令統制の実態

日本企業では、PDCAを命令統制(Command & Control)とともに適用してしているケースが多くあります。計画を現場から離れたマネジメントが作り現場に命令します。現場では命令に従い計画を実行した後、マネジメントがその結果を評価し統制します。

このような場合に上記のPDCAの問題点が顕在化してきます。経営の計画と現場の実行が乖離して機能不全になります。


日本独自の手法:PDCA

PDCAは、日本で特に生産技術の領域で使われて来た継続的改善の手法の一つです。

日本では世界的にも独自に、PDCAが適用された品質管理が経営品質として拡大して適用されてきました。

そもそも、デミングが提唱し後年に彼がPDSA(Plan, Do, Study, Act)と変更したPDCAは、製品やプロセスの継続的な改善のステップです。

これを一般的な思考や発想方法として演繹適用することに限界があると思われます。


日本企業の現場の実態

日本企業の現場では、以下のように部下が準備して上司が突き返す仕事が延々と続いてモノゴトが前に進みません。

P(計画を現場から離れた会議室で作る)→D(部下:資料作成)→C(上司:これじゃダメだ)→PDC(上司:やっぱりダメ)→PDC(あの案件はどうなった?誰の責任だ?と責任追及)

最悪の場合、スピードが遅いと責任追及されて、PDCAを高速で回せと言われています。

PDCAを高速で回せという上司からのプレッシャーをしのぐ場合に、こちらが使われているそうです。

PDCAでは、形式化、形骸化、そして硬直化した悪習を増長させます。中には、経営破綻に至った企業もあります。


トヨタのPDCAの実態

一般にPDCAはトヨタだと喧伝されています。「トヨタのPDCA」が理想とされているといった論調もあります。

しかしPDCAがトヨタ生産方式TPSであるということはできません。Checkの検査確認は、TPSでは無駄であり無くすべき業務です。

トヨタ内部においても経営の実態はOODAだといわれています。モノゴトの真実とその根本原因を現場で見極める現地現物などトヨタウェイの思想が徹底されています。

ジョンボイドは広範で深遠な原理トヨタウェイ、トヨタ開発方式TDSを研究してOODAの有効性を検証しています。


日本の政治の実態

PDCAによる政治では、以下のように事業評価から予算編成、事業計画と議会承認された後は、計画がうまくいっているかのチェックに止まっています。

P(予算を議会で承認される)→D(議会はさておき行政側で勝手に進めよう)→C(後になって議会がチェックできない)→A(選挙民の意見は反映されない)

環境や情況が変わってしまい計画自体の見直しをしなくてはならないことになった段階で、時すでに遅しという事態になってから大騒ぎになります。行政が前例主義で従来の狭い考えに凝り固まっていることが多く計画自体に問題があることもありえます。


シン・ゴジラ:日本政治の実態

日本映画の「シン・ゴジラ

登場する想定外の巨大未確認生物、ゴジラに対して日本が総力戦で挑みます。しかし、日本の政治統治機構の問題点を露呈し甚大な被害を被ります。まさに、政治と行政システムの実態を赤裸々に描くことを通してPDCAの限界を明らかにしています。


世界で日本だけ

欧米企業で経営にPDCAは使われていません。PDCAは日本特有のものです。

欧米では、例外的に一部適用されているのはリーン生産方式を導入している生産技術領域です。経営でPDCAを回していません。次から次に最新の情況に適応してチャレンジを続けています。

PDCAは、「食い止める、せき止める、ふさぎ止める」意味の英語「Check」を使っています。デミングは「Check」を「学習する」の「Study」にすべきだと主張していました。

日本で普及しているPDCAは、Plan(動詞) Do(動詞) Check(動詞) Action(名詞)のように動詞と名詞が混在して使われ和製英語になっています。


PDCAの限界

次にPDCAの限界について見ていきましょう。


感知の限界

昨今のグローバルでの大型案件が新興国に敗退するケースが増えて来ています。例えば、国をあげて取り組んだ親日国トルコの「世界最長橋建設プロジェクト」受注競争では韓国に敗れました。これらの受注競争をみると、日本は品質さえよければ勝てると高を括っていたのが敗因と考えられます。

すでに品質以外の様々な要因が競争要因になっています。これまでの想定を打破するためにも、PDCAから脱却する必要性がでてきています。


想定外への対処の限界

PDCAのもう一つのリスクは「想定外の予期せぬこと(Unexpected)」を見逃すことです。PDCAは計画が前提にあり内外の環境感知と情勢判断の過程がおろそかになっています。

人間は潮目の変化に気づいても、それが何か納得しないと行動に移れない側面があります。行動の後のチェックで変化を気づいても手遅れです。変化が何かを見極め、直観も含めて決定(Decide)することをプロセスとして定めておかないと組織として対応するのは難しいのではないでしょうか。

計画の限界

計画の妥当性

PDCAサイクルでは、まず最初に計画(Plan)を策定することが前提となっています。計画策定後に計画策定の前提が変化することがあります。前提が変わってしまっては計画は妥当でなくなっています。

また、計画策定自体が困難であっても計画策定を強要しているために、不完全な計画を作ったり、結果的に無駄になる計画策定に時間を要したりしています。

加えて、計画策定の時に過去の経験や合意した想定しか考慮できません。

計画の必要性

PDCA信者のなかには、計画策定時にそれまでの行動のフィードバックしか考慮しないから悪いのであって、変化する内外環境を洞察して計画すればPDCAでいけるという意見もあります。そのとおりで環境を観察することが重要です。

しかし、そのあとに計画を作ることが必ずしも要るのかは場合によります。計画を策定することが目的ではありません。方針を決めるだけで実行することが効果的な場合もあります。


評価チェックの限界

評価つまりチェック(Check)の段階に至って現場からのフィードバックを聞きアクションを取りますが、それは計画を実行(Do)した後のことです。

最初の計画の段階で現場と乖離した方針が決められてしまうと、方針転換をするには余計な労力が必要となります。このPDCAサイクルで取り決めたサイクルを回している間に、致命的な事態に至るリスクがあります。計画を前提としたサイクルを高速回転しても根本的な問題を解決できません。


組織文化・風土の課題

また、PDCAでは評価(Check)をして改善(Act)をするとしていますが、特に多くの日本企業にある失敗を責任追及、犯人探しに結びつける文化では、評価、改善は実態として機能するのが難しいのです。

組織的に学ぶ環境(これを私どもはナレッジマネジメントと呼びます)を明示的に内包する必要があります。


PDCAの致命的欠点

PDCA見直しの限界

激変環境の今日、旧来から特に日本で重用されてきたPDCAでは生き残れません。PDCA信奉者は、PDCAの一部見直し強化で凌ごうとしています。

しかしPDCAに振り回され、PDCAの世界から脱却できないでいます。変化する環境ではPDCAのコンセプト自体が限界にきています。

戦略の柔軟性

戦略の計画を立てても、実際にそれが成功するかは結果を見ないとわかりません。環境との相互作用で戦略を柔軟に見直す必要があります。

スピードの必要性

加えて、PDCAは、環境変化に対応するため、あるいは、計画の妥当性を検証するため、高速で回せば PDCAでいけるという意見もあります。しかし「戦時」の先取必勝の勝負では、その速度の高速化いわば「光速化」が勝敗を決します。

PDCAでは生き残れません。


OODAループ

致命的な欠点を抱えるPDCAサイクルに替えて、OODAループを回せるように思考を変えなければなりません。

OODAは人間が本来持っている判断の方法と判断力の身につけ方を教えてくれます。

OODAは単なる作業プロセスや思考の転換ではありません。組織、文化、制度などを包括的に転換することです。

OODAループ」の詳細については、こちらを参照ください。


PDCAとOODAの比較

PDCAが日本で使われているのに対して、アメリカではOODAが使われています。OODAは命をかけてオペレーションをしている軍隊で採用されている判断・学習モデルです。

目的が異なり代替関係にあるものではありません。しかし、PDCAをOODAと対比するとその特徴と優劣が明らかになります。

PDCAとOODAとは、制度、価値観、風土、役割分担からリーダーシップまであらゆる側面で異なります。

PDCAとOODAの比較」の詳細については、こちらを参照ください。


OODA 本の出版

私どもの10年以上にわたるOODA導入適用の経験を、広く社会のために共有したいと考え、数年をかけOODA本の構想を練って参りました。現在、出版内容の企画をしております。本の内容についてご要望ご意見などをお伺いできれば幸いです。

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