ジョン・レノンと日馬富士の共通点

2017年12月1日(金)

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 横綱日馬富士が引退の意向を表明した。

 私は、詳しい事情を知らない。
 引退を表明したというニュースの見出しを読んだだけだ。
 横綱を引退に追い込むことになった状況や、その背景に関しても、他人に向けて開陳するに足る情報は持っていない。

 ありていに言えば、私は、この騒動を、余儀なく知らされることになる断片的なウェブ情報として知っているだけで、きちんとした分析や背景を解説した記事は、ひとつも読んでいない。テレビも見ていない。なので、何も知らないと言ったほうが実態に近いだろう。

 にもかかわらず、今回は、大相撲の話を書くつもりでいる。

 まず、この半月ほどの間、世間を大いに騒がせていたこの日馬富士と貴ノ岩の間に生じた暴力事件について、当欄で取り上げなかった理由を説明しておく。

 私は、これまでに当欄において、大相撲関連の話題をテーマに4篇ほど(あるいは5つか6つぐらいあったかもしれない)の原稿を書いている。

 内容的には、朝青龍の引退騒動や、八百長疑惑問題や、暴力団との交際報道など、力士に関連する不祥事からわれわれの文化的な恥辱の部分を考察した記事だった。

 それらの原稿の出来に満足していないというのではない。
 というよりも、当欄にアップした大相撲関連の記事は、いずれも思うところを過不足なく表現することのできたそれはそれでまずまずの文章だったと思っている。

 ただ、それだけに、「大相撲と日本人」というテーマについては、ある程度書き尽くした自覚がある。だから、この先、大相撲の周辺で起こる出来事に関して何を書いたところで、重複は避けられないだろうとも思っている。

 とはいえ、書く書かない以前に、私自身が、この話題に関与すること自体を、当初の段階から明らかに忌避していたこともまた事実ではある。
 つまり、私は、大相撲から逃避していたわけだ。そうでなくても、情報を遮断していたことは間違いない。

 テレビはこの2週間ほど視聴していない。
 理由は、この話題を扱っているテレビの画面を見ると、ほんの10秒ほどで、画面の中にいる全員を嫌いになってしまうからで、無駄な敵意を燃やして体力を消費しないためにも、私は、この話題を扱ったテレビにはチャンネルを合わせなかったということだ。

 新聞の記事も、ウェブに流れてくるニュースも、見出しより先の部分は読んでいない。
 時系列に沿った主な記事は、習慣としてクリップ(エバーノートにコピペしています)しているのだが、まだ目を通していない。
 録画してあるニュースも再生していない。
 この記事を書くにあたって、20分ほど前から、クリップしてある記事にざっと目を通すことをはじめていたのだが、その作業も、さきほど投げ出した。

 というのも、このニュースに関しては、細かい情報を知れば知るほど、気持ちが沈んでくることをどうすることもできなかったからだ。

 なんというのか、大相撲への愛情が減退し、日本人と日本文化への忌避感が募り、われわれの社会を社会たらしめているものへの苛立ちが亢進することがはじめからわかりきっていたからこそ、私は、このニュースに触れることをためらい、この騒動を扱った論考へのアクセスを拒絶し、そもそも、日本に大相撲があることを思い出すことから逃れようとしていた次第なのだ。

「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「ジョン・レノンと日馬富士の共通点」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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