蒼樹うめ×シギサワカヤ×位置原光Z×幾花にいろ
座談会
- 位置原光Z
- 主にコミティアで同人活動していたところを週刊ヤングジャンプ増刊アオハル(集英社)でデビュー。楽園には2011年のWeb増刊より参加。単行本は「アナーキー・イン・ザ・JK」(集英社)、「お尻触りたがる人何なの」「正しいスカートの使い方」(白泉社)。
- シギサワカヤ
- 2009年の楽園創刊号より参加。これまでの全号の表紙イラストも担当している。双子姉妹とデザイナー男性のヒリヒリする恋愛関係を描く「お前は俺を殺す気か」が発売中の第25号で完結し、最終5巻は11月30日に刊行。
- 幾花にいろ
- comicアンスリウム(ジーオーティー)、快楽天(ワニマガジン社)にて成人向けマンガを連載中。楽園第26号より、新連載「イマジナリー(仮)」をスタートさせる。
- 蒼樹うめ
- 代表作は4コママンガ「ひだまりスケッチ」 、キャラクター原案を手がけた「魔法少女まどか☆マギカ」など。楽園には2014年刊行の第14号より参加し、「微熱空間」を連載中。焼きビーフンが好き。
話を描く、というよりはアイデアを生のままぶつける(幾花)
──今日は創刊8年目を迎えた楽園 Le Paradis [ル パラディ]の作家さんたちに集まっていただいて、“恋愛系コミック最先端”と銘打たれている楽園の魅力を紐解いていければと思っています。
位置原光Z 僕は畏れ多いので、「ほかの先生方の話を聞いていよう」と思いながら今日やって来ました。
シギサワカヤ 私も聞くしかない。
蒼樹うめ 私、楽園ではまだ新米なので……。
幾花にいろ 今日は位置原さん、シギサワさん、蒼樹さんの講演会だと思っています。
──そんな(笑)。では一番ニューフェイスの幾花さんからお話ししていただこうかと。最新号の第25号の総扉をお描きになって、楽園デビューを飾りましたね。その号に、来年2月発売の次号から楽園に連載を持たれる、という予告が掲載されましたが、どんなお話になるんですか?
幾花 今のところ、話を描くつもりがあんまりないんです。
シギサワ えっ。
位置原 おー。
蒼樹 ほー。
幾花 話を描く、というよりはアイデアを生のままぶつけるというイメージです。ただ現時点ではまだ形が定まってないので、今あれこれ話すよりも読者の方には「想像を膨らましておいてください」とお伝えするのが誠実なのかなと思っています。
恋愛ではなく戦争をね、描いてるんですよ(シギサワ)
──新連載の「イマジナリー(仮)」、楽しみにしています。では楽園が毎号帯に掲げているワード“恋愛系コミック最先端”についてお伺いできれば。「どういう意味なんだろう」と考えている読者もいると思うんですが、皆さんはどんなマンガが“恋愛系コミック最先端”だと考えていますか?
シギサワ うーん。私、創刊号から楽園で描いているんですが。実は恋愛系と言われても、恋愛を描いているつもりがあんまりなくって……。
一同 えー!
──例えば完結したばかりの「お前は俺を殺す気か」は、デザイナーの男と美人双子のこじれにこじれた恋愛を描いているのかと……。
シギサワ 戦争をね、描いてるんですよ。
位置原 ……どういうことですか?
シギサワ もともと中二病だった頃は、現実の戦争の中で繰り広げられるヒューマンドラマを描きたくって。でも戦争ものを具体的に描こうとすると、人とか兵器とかたくさん描かなきゃいけないじゃないですか。最小の単位で戦争してるのが、人と人との戦い……つまり恋愛かなって。
幾花 じゃあ「お前は俺を殺す気か」は最終回で、講和条約が結ばれた感じなんですね? でもまだ戦火がくすぶってますよね。
シギサワ ええ、くすぶってます。とりあえずお互いをメッタ斬りにして、「よし!」って相打ちになったところですかね……まあ、こういう物騒な話は置いておいて!
位置原 ご自分でしておいて(笑)。
シギサワ ふふふ(笑)。“恋愛系コミック最先端”でしたよね? 恋愛って、本当に日常的なところにあるものだと思うんです。「私は恋愛でこんなことがあってこんなに悲しいのに」というときも日常は続いていて、端からするとマヌケみたいに見えることがあると思うんですが、そういうのを描くのが面白いのかな、恋愛の最先端は日常のちょっとしたことにあるのかなと思っています。
幾花 僕、正直自分の答えが出なくて、先にお三方の意見を聞いて、「なるほど!」と思った意見を僕の意見にしようと思っていたんです(笑)。さっそく拝借します。ほかのおふたりのお話も聞きたいです。
軍艦やロケットへのドロドロした思いをぶつける雑誌(位置原)
位置原 (笑)。楽園には一見恋愛要素がない作品を描く作家さんもいらっしゃるじゃないですか。例えば軍艦の話を描いている黒井緑さんとか。
──そうですね。「赤城と比叡」や「ユトラント沖海戦」など、近現代の海戦・艦船史を描いていらっしゃいます。
位置原 あとあさりよしとおさんの「進め!なつのロケット団」とかも。ただそれって、軍艦やロケットに対する恋なんだなって思ったんですよ。で、「これは確かに恋愛最先端だな」って。軍艦やロケットへの情熱というか熱い、ドロドロした思いをぶつける雑誌という側面が楽園にはあるんだろうと。
シギサワ ああ、その考え方いいですね。飾りではない“恋愛系コミック最先端”だ。位置原さんの熱い思いは、やっぱり……?
位置原 僕はやっぱり恋愛に対する熱い思いです(笑)。でも僕、恋愛ものとギャグの間で揺れてて、中途半端になっちゃうのがコンプレックスなんですよね。ギャグを描いてても恋愛を描きたくなっちゃって。どっちかに振り切った作家さん、カッコいいなって思うんですけど……。
幾花 その振り切ってなさが好きです。位置原さんの「アナーキー・イン・ザ・JK」を書店で見て一目惚れして買って、「これすげえ!」って思ったんですよ。それから好きになって。いろいろな要素が詰まっているのが位置原さんの作品の素敵なところなのかなって思います。
位置原 おお、そう言っていただけるとありがたいです。描いてて「振り切れない……」という思いはやっぱりあるんですけど、そこが僕の個性でもあるから。
──位置原さんの作品に共通する、ちょっと面倒くさい男女の会話劇は、最初からオチを決めて描いているんですか?
位置原 いえ、考えてないですね。視野が狭いタイプなんで、全体を見通して話を描けないんです。考えて描き始めるときもあるんですけど、だいたいは途中で違う方向に行っちゃう。前のコマを見て、こういう会話でこんな流れかなって次のコマを描くんです。だから「描いていて楽しい」という思いはありますね。どういう展開になるか自分でもわかんないから。
幾花 作り方、一緒ですね。僕も前のコマを見て、次のコマを考えます。だから編集さんに見せるときも、「3ページ目の2コマ目までできたんで、見てもらっていいですか」とか、「もう1ページ進んだんですけど、この前見せたセリフなくなりました」とか。ちょっとずつ変わる途中経過を、編集さんに送り続ける。
蒼樹 私も最初にプロットを作れないタイプで、ネームからです。「微熱空間」も成り行きの中で形になっていく感じです。
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「ターゲットは人間」みたいな(蒼樹)
- 楽園 Le Paradis [ル パラディ]第25号
- 発売中 / 白泉社
中村明日美子、蒼樹うめ、木尾士目、久米田康治、シギサワカヤ、水谷フーカ、かずまこを、鶴田謙二、宇仁田ゆみ、沙村広明、kashmir、位置原光Z、黒咲練導、志摩時緒、迂闊、犬上すくね、あさりよしとお、panpanya、鬼龍駿河、竹田昼、平方イコルスン、黒井緑、武田春人、幾花にいろら豪華執筆陣が揃って描き下ろし!
- 蒼樹うめ(アオキウメ)
- 8月3日に兵庫県で生まれ、福岡県で育つ。代表作は4コママンガ「ひだまりスケッチ」 、キャラクター原案を手がけた「魔法少女まどか☆マギカ」など。焼きビーフンが好き。
- シギサワカヤ
- 冬の関東生まれ。2004年、スニーカー文庫(角川書店)の「憐 Ren」挿絵イラストにてデビュー。2006年に白泉社より単行本「箱舟の行方」を上梓、以降数誌で連載。2009年に楽園創刊より参加、現在に至る。
- 位置原光Z(イチハラヒカリゼット)
- 1986年生まれ。主にコミティアで同人活動していたところを週刊ヤングジャンプ増刊アオハル(集英社)でデビュー。単行本は「アナーキー・イン・ザ・JK」(集英社)、「お尻触りたがる人何なの」「正しいスカートの使い方」(白泉社)。現在は楽園にて連載しているほか、快楽天(ワニマガジン社)にて「青春リビドー山」を不定期連載中。ウルトラジャンプ(集英社)のセクシー読み切り企画にも参加予定。
- 幾花にいろ(イクハナニイロ)
- ペンネームでおわかりの通り、1987年2月16日生まれ。三重県出身。comicアンスリウム(ジーオーティー)、快楽天(ワニマガジン社)にて成人向けマンガを連載中。楽園 Le Paradis [ル パラディ]第26号(白泉社)より、新連載スタート予定。