俺たちは全員、石油王の夢女子なのだ
日本人は、石油王が好きだ。おそらく身近にいないせいだろう。
どんなマウンティング激戦区でも、「庭から石油が出すぎて困ってるから、おすそわけ」とタッパーに石油を入れて持ってくる女はそうそういないはずだ。つまり、伝説の生き物に対する憧れに似ている。
しかし、憧れているといっても「自分が石油王になりたい」と言っている者は少数派である。
では、どういう憧れ方をしているかというと、まず日本へやって来た石油王が何か困っているところに出くわし、いつもは電車で128歳くらいの老婆が立っていても寝たフリか地蔵の形態模写をするのに、なぜかその時は見ず知らずのアラブ系を助ける気になる。
さらに、平素は日本人とすらまともに話せないのに、石油王とはなぜか気どらないフランクな会話ができる。「ドゥフゥッ」とか言わない。
そして、石油王は「お前みたいなのは初めてだ」「おもしれえ奴だな」と、おもむろに大金を非課税でくれるのである。
俺たちは全員、石油王の夢女子なのだ。
だが、「石油王と結婚したい」と言っている女もそんなにはいない。大体が「石油王から特に理由のない二兆円(非課税)を施されたい」と言っている。
「ハイスペ婚がしたい」と言っても、やはり石油王の妻はなんか大変そうだからかもしれない。
そう、我々、卑小な島国の原住民でも「石油王の妻は大変そう」もしくは「石油王になったらなったで苦労がありそう」というのは何となくわかるのだ。
それに対して、「美人も大変そう」という想像に関しては、あまりにも欠けているのではないだろうか。
「世界で最も美しい顔の悩み」=世界で最もブスに関係ない悩み
これは危険である。よく都会出身者が「田舎は空気が美味くて牧歌的で人も優しい」と憧れだけを胸に、地方へ引っ越してしまうことがある。
そういう良い点だけを見て「思ったのと違った」ぐらいならまだ良いが、田舎特有の陰湿さで、村9.8分を食らい、病み、最終的に村ひとつ三国無双してしまうという、リアル八つ墓村が起こりかねない。
よって、美人を目指すなら、まず美人の利点ではなく欠点を見るべきだろう。「美人になったらこんな悪いことがある。しかし、それを乗り越えてでも美人になりたい」そんな強い覚悟がないと、何度消しても出てくる、ケータイ漫画広告に頻出の〝整形したのにもっと不幸になる女〟みたいな末路になるに決まっている。
そんなわけで、担当から「世界で最も美しい顔の悩み」という記事が送られてきた。
つまり、世界で最もブスに関係ない悩みなのだが、何せこれから美人になるのだ。近い将来、必ず悩むことになるだろう。今のうちに覚悟しておくべきだ。
ちなみに、この悩みを語ってくれたのは「キューバ出身のラテン系女優、アナ・デ・アルマス(29)」であり、「世界で最も美しい顔」第9位だそうだ。
もうこの時点で、「9位って、言うほどすごい?」「29歳てBBAじゃん?」と言っているブスの顔が31種類店頭に並ぶ。
さらに、アナ・デ・アルマスでググって「言うほど美人か?」「むしろブス寄りじゃね?」「もう劣化が始まっている」と言っているブスも続々、ワゴンに補充され、早速「ドブス堂本舗『絶対他人を認めない支店』」は大賑わいだ。もうこの時点で、美人には大変さがあるとわかる。
やはり、美人は大なり小なり嫉妬を受ける。さらに女優のように「美人」の立場として物を言うというのは大変だ。特に日本には、いくら美人でも「自分を美人と思っている女は全員ブス、むしろ性格も悪いのでブスよりブス」というブスが考えたルールがある。
よって、少しでもボロを出したり、加齢で容貌に陰りがでると、獲物が弱るのを待っていた獰猛なブスや女は、若さがすべてと思っている男に一斉に襲い掛かられる。何せ、それらの目に美人とは「調子に乗っている性格の悪い女」にしか見えないのだ。
ゆえに「いじめられる側にも理由はある」理論で、全く手加減がない。むしろ勧善懲悪感覚で叩くのである。
オチはいつもブスに掻っ攫われ、引き立て役にされる美人?
話が大暴投されてしまったが、アナ・デ・アルマスの語る美人ゆえの悩みとはなにか。
彼女は苦笑しながら「逆に演じる役を狭める場合もある」と言った、とのことである。つまり、絶世の美女ゆえに絶世の美女役しかこず、役者としての広がりがなくなってしまう、ということだろう。
阿部寛も若い頃、二枚目役しか来なかったため役者として伸びず、仕事がなくなり、借金を抱えるまでになった、と言っていた。
確かに、役者でなく普段の生活でも、美人は美人としての役しか与えられないということはあるかもしれない。いくら自分が「会話のオチに使われたい!」と思っていても、オチはいつもブスに掻っ攫われ、むしろ〝ブスオチ〟を引き立てるための前フリとして美人である自分が、体よく使われてしまっている、と苦々しく感じている美人もいるかもしれない。自分だって、もっとドッカンドッカンいけるのに、と。
だが、それよりも「苦笑しながら答えた」にすべてがある気がする。
アナ・デ・アルマスも自分が「世界で一番美しい顔9位です」と言ったわけではなく、ただ勝手に選ばれ、このインタビューも聞かれたから答えたのだ。
それをドブス堂本舗が「こいつは忙しくなってきやがったぞ」と、「世界で一番美しい顔の女優が語る、美しすぎるゆえの悩み」のような、騒然とする見出しにしてしまっているのである。
いくら調子に乗ってなくても、美人はそこにいるだけで「ドヤ顔ダブルピース」だと他人に思われてしまう。そういった悩みがあるような、ないような気がしないでもない錯覚を覚える。
——美人になったことがないから、やはりわからん。
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