型染めの図案は、京都で行われる図案展に出している作家に交渉してから、モチーフを伝えてオリジナルを制作。その後、染めたものを呉服屋が買い付け着物になる。しかし、それだけ苦労しても呉服屋から注文が入らず、日の目を見ないこともあるのだとか
―― 修業を挫折していたら、そんな喜びにも気づけなかったですよね。
「『石の上にも3年』って言葉がありますが、あれは本当にそうですね。私も修業をはじめた当初は嫌なことばっかりでしたけど、人間って不思議なもので3年過ぎると意外に慣れちゃうんですよね。だから、それまでは我慢ですよね。
なんとなく過ごした3年間と、どんなことでもいいから頭と身体にたたき込もうと踏ん張った3年間、それは先々の差になってくるのかなと思います」
―― 我慢の時を経て、仕事の楽しさを覚え、その後独立に至るわけですよね。独立しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
「修
業して5年ほど経ったときに、ある程度自分でもできるかなと思ようになったんです。婿入りしないかと口説かれたこともあったんですけど、そういうのは嫌で
ね。思い切ったことができないし、自由がなくなる気がして。それで、やっぱり独立しかないと、親方に話を切り出しました」
―― その時の親方の反応は?
「優
しかったですよ。当時は退職金があったんですけど、私が『退職金はいらないです』って言ったら、『それなら型紙を持っていけ』って貴重な型紙を少しわけて
くれたんです。型紙は職人の命なので、とてもありがたかったですね。しばらくはそれを使って仕事をさせてもらっていました。それから何年かして、自分の型
紙を作るようになりました」