2017-11-30

クリスマスバイトした時の話

大学生の時、クリスマスに単発のバイトをやった。シャンパンの試飲販売デパ地下でお客さんにシャンパンを配る仕事だった。男女2名でペアを組み、男性ディレクター女性コンパニオンという立場で働く。シャンパンを配るのはコンパニオンの役目で、ディレクター現場全体の指揮・管理を行う。僕はディレクターという名目だったが、そんな立派なことは何もしなかった。コンパニオンの後ろに立って、カップを補充したり、ゴミを捨てたりする。基本的にはそれだけだった。

その日にペアを組んだコンパニオンは、髪の短い小柄な女性で、年齢は僕と同い年だった。気さくで明るい子だった。仕事中、コンパニオンは真っ赤なサンタコスチュームを着るのだが、明らかにサイズが大きめだった。帽子はぶかぶかで、上着の袖も長過ぎた。しかたなく彼女は腕まくりをしていた。

その点を除けば、仕事スムーズに運んだ。終業の30分前にはノルマを達成してしまった。彼女はお客さんのウケがすごく良かった。セールストークははきはきしていたし、笑顔も好印象だった。僕はひたすらカップを補充していればよかった。

その日の夜、彼女ふたりで飲んだ。どういう経緯でそうなったのか、まるで覚えていない。いったんは現場解散したのだが、地下鉄ホームでばったり再会して、そのまま飲みに行くことになった。僕の方から積極的に誘ったわけではない。ディレクターコンパニオンを誘うようなことは、事前に会社から厳しく禁じられていた。万が一、コンパニオンからセクハラ等の抗議が入った場合ディレクターは即時解雇で、給料も支払われなくなる。そういう契約になっていた。

にもかかわらず、ふたりで飲みに行くことになった。どういう流れだったのだろう。彼女の方が積極的だったという記憶もないので、本当に不思議しかたない。クリスマスバイトをしている者同士、妙な連帯感が働いたのかもしれない。

目についた居酒屋に入って、カウンターに並んで座り、ビール乾杯した。シャンパンは見飽きていたので、ビールサワーばかり頼んだ。クリスマス気分はゼロだった。

彼女大学を休学中で、たまに単発のバイトだけやって暮らしていた。バイトを始める前はしばらくひきこもりだったらしい。休学の理由は聞かなかった。あとは下らない話ばかりしていた。仕事中、彼女がずっと腕まくりしていたことをネタにして笑った。サンタが腕まくりをしているのは、なんだか前のめりすぎてイヤだとか、サンタにはあまりギラついて欲しくないとか、そんなことを話した。どうでもいい話だった。

それからふたりで向かいゲームセンターに入った。彼女はかなり酔っていた。さっきまで着ていたサンタコスチュームを出して、上着を着てゲームセンターの中をうろついた。ふたりUFOキャッチャーをやった。彼女はこれみよがしに腕まくりをした。合計二千円近く使って、グーフィーぬいぐるみをゲットした。店を出ると、自然と手を繋いだ。彼女サンタの上着を着たままで、僕はグーフィーぬいぐるみを抱いていた。ふたりで手を繋ぎながら駅まで歩いた。来年から大学に戻る、と彼女が言った。ふたりで同じ電車に乗って帰った。僕が先に降りた。そこでお別れ。グーフィーぬいぐるみ彼女が受け取った。

それだけだ。後に繋がるようなことはなにもなかった。でもこの話にはオチがあって、それは翌年のクリスマスに訪れる。

その年の冬、僕はどん底だった。夏に出来た彼女が実は二股をかけていたことがわかり、しかももうひとりの男は僕が所属しているサークルの先輩だった。結局、僕は彼女と別れて、サークルをやめた。講義休みがちになった。クリスマスは何の予定もなかった。

こうなったら最低のクリスマスを過ごしてやろうと思い、TSUTAYAAVを借りた。帰宅すると、すぐに缶ビールを空けて、DVD再生した。素人ナンパ物の作品だった。聖夜にひとり淋しく歩いている女性ナンパして、ホテルに連れ込むという内容だ。

冒頭、二人組のナンパ師が街を徘徊していた。ひとりはスキンヘッド中年男で、もうひとりは茶髪ガタイの良い青年だった。二人はしばらく商店街をうろついたあと、ゲームセンターの前で足を止めた。すると入口からサンタコスチュームを着た女性が出てきた。顔にはモザイクがかかっていた。

「あの子どうかな?」ナンパ師の二人組が彼女を値踏みし始めた。するとまた入口から、今度は男性が出てきた。ダッフルコートを着た猫背のひょろ長い男で、グーフィーぬいぐるみを抱えていた。やはり顔にはモザイクがかかっていたが、僕はそれが自分であることが直感にわかった。見慣れたダッフルコートグーフィーぬいぐるみ。間違いなかった。サンタコスチュームを着た女性が振り返って、僕と手を繋いだ。すごく自然な手の繋ぎ方だった。「なんだ、男連れかよ」とスキンヘッドが言った。僕と彼女はあっという間に画面から消えた。

  • anond:20171130110206

    再投稿は甘え http://b.hatena.ne.jp/entry/s/anond.hatelabo.jp/20171129132255

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