2017年 是非読むべき香港ミステリ 陳 浩基「13・67」

13・67 (文春e-book)

華文(中国語)ミステリーの到達点を示す記念碑的傑作が、ついに日本上陸!
現在(2013年)から1967年へ、1人の名刑事の警察人生を遡りながら、香港社会の変化(アイデンティティ、生活・風景、警察=権力)をたどる逆年代記(リバース・クロノロジー)形式の本格ミステリー。どの作品も結末に意外性があり、犯人との論戦やアクションもスピーディで迫力満点。
本格ミステリーとしても傑作だが、雨傘革命(2014年)を経た今、67年の左派勢力(中国側)による反英暴動から中国返還など、香港社会の節目ごとに物語を配する構成により、市民と権力のあいだで揺れ動く香港警察のアイデンティティを問う社会派ミステリーとしても読み応え十分。

毎年年末になるとミステリーのランキング本が発売される。

そんなランキング本を買って正月休みを使い順番に読む方もよく見受けるが、そういう読み方をされる方がいるなら先にこの「13・67」を読んでおくことをオススメしたい。
間違いなくベスト20に入るクオリティかつ*1、そもそも華文(中国語、今作は香港)ミステリは残念ながら日本で紹介されることが少ない。

ちなみに先日発表された「ミステリが読みたい!」ランキングでは選外だったが(対象期間じゃなかったのかなー?)
www.hayakawa-online.co.jp



【スポンサーリンク】



クワン

何もかも見通す「天眼」とまで呼ばれた推理力を誇る元上級警視クワンは病床にあった。
現役時代は香港警察の中でも特出した存在だった彼も年齢には勝てず、今や意識は混濁し余命幾ばくもない。

そんなクワンの病室に、香港警察のロー警部が強盗事件の関係者らを連れてくる。
ベッドのクワンには、用途の分からない幾本ものケーブルが取り付けられ、その先はPCとモニターに繋げられている。

「簡単に言うと、この計測器は、その人が脳を動かすことから、思考の切り替えを感知するのです」

クワンに取り付けられた装置は、クワンの脳波を感知して「YES」「NO」を示す。
ローは関係者らを前に病床のクワンに事件の全容を話し、ベッドの上で動けないクワンに事件の解決をさせようというのだった。

逆クロニクル

連作短編。
冒頭を飾る「黒と白のあいだの真実」は2013年の香港が舞台。

シリーズの探偵役となるクワンはいきなり老衰で死にそうになっているんだからすごい。
いきなり死にそうな老人だなんて、こんな探偵今までにない。
しかもベッドの上で瀕死だからって、脳波でYES/NO判定して事件を解決しようと言うんだから。
死にかけでも休めない探偵の宿命。
トンデモない機械だな―科学スゲーと思って、どんな風に展開していくのか(このまま安楽椅子探偵ならぬ昏睡探偵で進んで行くのか?)と思ったら、いきなり……。

2話目「任侠のジレンマ」では舞台が2002年に戻る。
既にクワンは警察を去り嘱託の特別捜査顧問として活躍。
ローはチームを任されるが任務にしくじり、2つの闇組織の抗争に踏み込んでいくことになる。

3話目「クワンの一番長い日」では1997年が舞台。
4話目「テミスの天秤」は1989年。
ここまで遡るとまだクワンは警視、ローは新人警官として犯人が立てこもるビルを見張る現場勤務の時代。
次の5話目「借りた場所に」は1977年。
最終話「借りた時間に」が1967年。

2013年から1967年まで、97年の中国返還からイギリスの統治時代までをときどきの風俗や時代背景を描きながら遡る構成はとても面白い。
しかも各話、殺人事件や誘拐事件があったかと思えば、通り魔事件、脱獄犯の追跡、爆弾テロなど幅も広い。

感想

そもそもこれが発表された2015年当時、香港でも高評価された作品。
面白くないわけもなく。

ちなみに新本格第一世代のお歴々らが感想をツイートしてたので貼っておきますね。




綾辻、我孫子、池上氏もオススメ。
華文と言っても中身はがっつりとした新本格ミステリ。
香港の歴史背景も興味深い。
「ミステリが読みたい!」にランクインしなかったのは何故なのか謎が……まぁ、ランクインしなくても面白いのは間違いない。


「見た目ばかりで中身がない(viaおすぎ)」で知られる王家衛監督が映画化するそうなので、雰囲気がよさ気なバディ映画(で、未公開部分が山ほど撮影されて、ストーリーがブツ切れの断片的な映画が上映されるのは間違いないが)が上映されて「あれ?これってどういうストーリーなんだろう?」と原作が売れるのは間違いない(予言)。
せめてクリストファー・ドイルと組んでほしい……。

見えないX

「でもいきなり連作短編をいくつも読むのはキツイなぁ……」という方は、同じ陳浩基の短編「見えないX」でどういう作品を書く作家なのか確認してからでもいいかもしれない。

大学を舞台に「X」を探るロジカルなやり取りが楽しい掌編。
サクッと読めて小気味いい。

見えないX
見えないX
posted with amazlet at 17.11.29
(2015-10-21)
売り上げランキング: 2,724



13・67 (文春e-book)
13・67 (文春e-book)
posted with amazlet at 17.11.29
文藝春秋 (2017-09-30)
売り上げランキング: 2,001

*1:作品は確かだが、ランキング対象期間に含まれていない可能性もある