【まとめ】旧ユーゴ戦犯者のクロアチア人スロボダン・プラリャク被告が服毒自殺


(上記画像の出典:https://www.b92.net/

2017年11月29日(水)オランダ政治都市ハーグにある旧ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷で衝撃的な出来事が起きました。

この日の朝10時より、ボスニア紛争中にクロアチア人単一民族国家「ヘルツェグ=ボスナ・クロアチア人共和国」建設を目指すために、同地域に居住するムスリム人に対して行われた人道に対する罪(虐殺やレイプによる民族浄化や迫害、強制退去など)、戦争犯罪で起訴されたボスニア系クロアチア人元政治家や元軍人6名に対する控訴審判決公判が行われていました。

その公判中に、訴追されていた元軍人であるスロボダン・プラリャク被告(Slobodan Praljak)が裁判官より禁固刑20年の宣告が言い渡された直後に、「スロボダン・プラリャクは戦争犯罪者ではない!軽蔑の気持ちを持って、この判決を拒絶する」と言い放ち、手に持っていた毒物を服用して裁判が中断、緊急搬送された病院で死亡するという事件が起きました。

 

実は、この最終判決を一般傍聴する目的でオランダに居住する日本人の中で裁判に関心のある人を集って旧ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷で最後となる公判を見届けようと企画していました。

【11月29日開廷】旧ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷を一緒に傍聴しませんか?

最終的には、この裁判を一般傍聴することはできなかったものの、これまで追ってきた裁判の最後に戦争犯罪者スロボダン・プラリャク被告が公判中に自殺するとは夢にも思っていなかったため、私にとって非常に衝撃的なニュースでした。

今回の記事では、このスロボダン・プラリャク被告を含む他5名のボスニア系クロアチア人被告の裁判の始まりから、事件が起きた当日の様子、そしてその後の反応をまとめたいと思います。

 

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事件が起きた日の朝、旧ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷の前にいた

事件が起きた日の朝、旧ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷の前にいた
11月29日(水)朝9時ごろの旧ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷の様子

11月29日(水)当日に10時から開廷される予定だった裁判の一般傍聴をするために、朝9時ごろに旧ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷の前に到着した。

これまでに3回ほど裁判を一般傍聴してきたものの、今までとは異なる様相が旧ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷の周りを覆っていた。

上記の画像は、ボスニア紛争中にボスニア系クロアチア軍によって多大な犠牲と被害を被った当時のモスタルの写真とともに、「モスタルに正義を」と書かれたスローガンが掲げられていた。

 

 

旧ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷前に集まる報道陣
旧ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷前に集まる報道陣

また、法廷を取り囲むようにしてバルカン諸国を中心に世界各国からのメディアが生中継でこの裁判の行方を報道していた。上記の画像はアルジャジーラ・バルカン支局のブースだ。

そして、今回の一般傍聴企画に参加希望していたライデン大学の学生4名と待ち合わせをして、法廷内に入館しようとしたところ、まさかの事態に陥った。

なんと、今回の裁判には大使館や被告の家族関係者、メディア関連の報道陣で一般傍聴席が満員となっているため、当日の一般人が入館できないと言われた。この事態は予測していなかったため、残念ながら我々は入館することができなかった。

※旧ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷の館内の様子については、以下の記事で詳細に触れている。
→「旧ユーゴ国際戦犯法廷の裁判を傍聴してみた感想とレポート(2017年5月3日)

 

開廷する10時に近づくにつれて、在蘭クロアチア大使やボスニア大使含む大使館関連者、被告の親族だと思われる人々が続々と入館していく光景が見受けられた。

 

裁判が始まって2時間が過ぎた頃に事件が起きる

裁判が始まってから2時間ほどが経過したころに、私のTwitterタイムラインがザワザワとし始めた。私のTwitter上でフォローしている人たちの多くはバルカン地域のジャーナリストやバルカン研究者が数多く、彼らの多くが今回の裁判の行方を追っていた。

すると、6名の被告のうちスロボダン・プラリャク被告が手に持っていた毒物のような飲料水を口に含み、裁判が中断されるという事態になっていると報道するジャーナリストが数多くいた。

 

 

そして、旧ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷に救急車が駆け付ける事態に発展していることから、現場で起きている事態の大きさが一気に信憑性を高めることとなった。

 

 

上記の文脈の正しい意図としては、毒物を服用したスロボダン・プラリャク被告がそのまま死亡してしまうと、「死亡したことにより民族の英雄視される傾向が更に強まる」ことを意味しています。

そもそも、旧ユーゴスラヴィア地域の戦犯者たちは母国民族を守るために闘った英雄たちであると認識されて、彼ら戦犯者たちの犯した戦争犯罪を正当化しようとする人々は数多くいます。それは、クロアチアだけでなく、ボスニアもセルビアもコソヴォもそうです。

そして、クロアチア人たちの中には同被告の自殺を「ボスニア系クロアチア人たちが同胞を守るために戦ったが故に問われた罪に真っ向から反対して、自らの命を絶つ方法を取ってでも世界にクロアチアの無実を訴えようとした」英雄と捉える可能性が高いと思ったからです。

 

 

その後セルビア系メディアN1の報道によれば、毒物を服用して病院に緊急搬送されたスロボダン・プラリャク被告は存命で容態が安定していると報じました。が・・・

 

その直後に、オランダ人ジャーナリストのツイートが流れてきました。

クロアチア系メディアによれば、スロボダン・プラリャク被告が搬送先の病院で死亡したと報じたとのこと。

この時点では、どの公的機関もこの情報を確定して発表していなかったため信憑性はまだ分からず、中には「まさか、プラリャク被告が死ぬわけないだろう」と楽観視していた人も数多くいました。

 

 

冗談で「スロボダン・プラリャク被告が飲んでいたのは毒物ではなく、ただのラキヤ(バルカン地域の伝統酒でアルコール度数40℃くらい)を飲んだだけだろう」などと笑いのネタにする人も見受けられました。

 

 

その後、セルビア系メディアN1の報道が報じるところによれば、スロボダン・プラリャク被告に近い親族の話では、同被告が服用した毒物により死亡が確認されたというニュースを流していました。

 

 

スロボダン・プラリャク被告が毒物を服用していた可能性があったことは確認されたものの、ここで一つの疑問が浮かびます。

同被告はどのようにして毒物を受け取り、法廷内に持ち込むことができたのか?

現在、この点に関してオランダ警察や旧ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷内で捜査が行われていますが、スロボダン・プラリャク被告の担当弁護士などの関係者が外部から持ち込んで、法廷内外で手渡した可能性が一番高いと思われます。

どんな方法で同被告が毒物を受け取り、法廷内に持ち込んだにせよ、セキュリティチェックが甘いことが露呈されたことは間違いありません。

 

 

その後に、現在アイスランドを訪問しているクロアチア大統領コリンダがスロボダン・プラリャク被告による毒物服用で病院に搬送されて死亡したという情報を受けて、クロアチア本国に緊急帰国し、その晩に公式会見を開くと報じられました。

この時点で、クロアチア大統領までもが公的職務を放棄して本国に帰国する決断したことから、事態の深刻さをより一層感じられました。

 

 

そして数分後に、クロアチア国営放送HRTがスロボダン・プラリャク被告が搬送先の病院で死亡したと報じたことにより、同被告が死亡した可能性が99%にまで高昇りました。

 

 

クロアチア国営放送がスロボダン・プラリャク被告の死亡ニュースを発表した直後に、ボスニア共和国クロアチア共同体代表ドラガン・チョビチ氏(ボスニア系クロアチア人の事実上トップ)は公式声明を発表しました。

この政府関係者による公式声明は、同被告の死亡を裏付けるものでした。

 

 

それから1時間後が経ったころに、クロアチア首相アンドレイ・プレンコヴィチ氏が今回の裁判の判決に不満を持っていること、そしてスロボダン・プラリャク被告が自殺を図ったことは、クロアチア民族に対する「Deep moral injustice」を指し示すものだと述べました。

つまり、ここで意味することは「クロアチア民族にとって倫理的に受け入れることのできない不正があった判決」だったために、スロボダン・プラリャク被告は自殺してそのメッセージを世界中に伝えたと表現しています。

そして、スロボダン・プラリャク被告の親族に対してクロアチア政府側から公式に哀悼の意が捧げられたことから、スロボダン・プラリャク被告が搬送された病院で死亡したことが間違いのない事態になっていることが明らかとなりました。

 

 

それから10分後ほどに、旧ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷のスポークスマンからも公式声明で、スロボダン・プラリャク被告が死亡したことが発表されました。

 

※スロボダン・プラリャク被告が毒物を服用する瞬間の映像

 

 

旧ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷がスロボダン・プラリャク被告の死亡を公式声明で発表した後に、オランダ警察当局が本格的に今回の出来事を捜査し始めました。

 

 

上記のツイートは、セルビアに居住するオランダ人男性の意見です。実は、この彼の意見と私は全く同じ意見を持っています。

EU加盟国のクロアチア政府が旧ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷の判決を疑問視し、戦争犯罪者をサポートしている事態はおかしい。セルビアに居住するEU諸国民として、EUがクロアチアに対する制裁を開始することを強く望む」

 

 

これまでにも、第二次世界大戦中のナチス傀儡政権が存在したクロアチアで政治の主導権を握っていたウスタシャ政党が使用していたファシズム的スローガン「Za dom Spremni」を現代のクロアチア人若者が一般に使用していることをクロアチア政府は問題視していないことや、民族主義的意味合いが強い曲をクロアチア政府首脳陣が一緒になって歌ったりしていることにドイツを中心とするEU諸国が何も注意していない。

こうした事態がクロアチアで当たり前のようになってきてしまっていることを国際社会は誰も追及しないことに対して、EU諸国への疑念は深まる一方です。

 

 

 

最新情報があり次第、更新していきます。

 


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こーたろー
「オランダ在住×セルビアへの強い関心」という変わった組み合わせを生かしながら、オランダとセルビア(旧ユーゴ諸国)の文化・社会に特化した記事を主に執筆する社会派ブロガー。