薬の飲み忘れは誰にでもある。
だが、抗生物質や抗菌剤には処方通りに数日間続けないと効果がでないものもある。さらには、高血圧や糖尿病の薬では定期的に飲まないと病状が悪化することもある。
ある試算では、飲み忘れで病気が悪化したり入院したりすることで毎年十兆円以上の社会的損失が生じているともいう。
それを防ぐ切り札として研究開発されたのが「デジタル錠剤」である。
2017年11月13日に米国で初めて医薬品として承認された「エビリファイ・マイサイト」は、大塚製薬がカリフォルニアのプロテウス・デジタル・ヘルス社と共同開発したものだ(販売価格は未定)。
どういう仕組みか解説しよう。
統合失調症の薬・エビリファイの錠剤に数ミリ角の極小センサーを組み込んであり、胃の中で胃酸に触れると電池となって電波信号を出す。その信号を、事前に左脇に貼っておいた絆創膏型の信号受け取りセンサーが察知するとスマホやPCを通じて何月何日の何時に服用したかのデータベースが作られる。
患者さんの許可を得て医療関係者はそのデータベースにアクセスして服薬をチェックできるので、一種の「電子おくすり手帳」と思ってもらえば良い。さらに患者さんはそのときの体調を付け加えて入力しておくこともできる。
錠剤に組み込まれたセンサーは銅とマグネシウムとシリコンでできており、消化されることなく便と一緒に排泄される。絆創膏型センサーは使い捨てで1週間ごとの張り替えだ。
薬を飲んだかどうかが遠隔から監視されるのは気持ち悪いと感じる人も多いだろう。私も、医師としては患者さんの病状を管理する上で便利な気もするが、自分が服用することを考えればいい気分はしない。
さらに、医療社会学という視点から「デジタル医薬品」を見れば、現代社会での医療制度や医療産業の抱える問題点が見えてくる。
エビリファイは大塚製薬によって1988年に発見された日本発の抗精神病薬だ。
2002年に統合失調症の治療薬として米国で承認され、その後に世界各国で広く使われるようになった。
日本では2006年から承認されている。なお、米国など日本国外では、ブリストル・マイヤーズ・スクイブ社が販売している。
統合失調症だけでなく、双極性障害(いわゆる躁うつ病)、うつ病(ただし、ほかの薬と併用)、さらには自閉症の子どものいらいら感などにも使われる薬だ。
では、なぜ精神疾患の薬がデジタル医薬品の承認第一号になったのだろうか。