🔻前編はコチラ
深夜23時を過ぎた頃。
私とちーちゃんは
『◯◯ホール』なーんて名前の
よくある公共施設に来ていました。
サチさんはここで
社会人サークルの集まりをしている。
・・・と聞いています。
施設の電気は消えている。真っ暗。
もうここにはいないのだろうか?
幼いちーちゃんはもう眠そうだ、
下を向いたまま動かない。
20時頃までは
「ママ・・・ママ・・」
と泣いていたのに・・・
喋りかけても、
もう何も喋ってくれません。
深夜に連れ回すのは可哀想ですが、
一人で家には置いてはおけません。
私も眠い。
明日は早朝から現場仕事がある。
だから泊めるワケにもいきません。
サチさんをどうにか見つけなければ・・
しかしどこにいるんだろうか・・・?
時刻はもう0時。
サチさんから連絡はありません。
他にアテも無いので、
施設の前でジッと待機していると・・
突然!
ちーちゃんが大きな声で叫びました。
「ママだ!」
(えっ!?)
ちーちゃんが指す方を見る。
確かに人影がある・・・・・
(サチさんがいるのか?!)
施設の裏?から人がゾロゾロ出てきている。
身を乗り出して凝視・・・・・
しかし・・サチさんは見当たりません。
「ママはどこにいるの?」
とちーちゃんに聞こうとした瞬間。
隣で妙な音が聞こえました。
ガチャガチャッ
バタン。
ちーちゃんが車のドアを開けて、
外に飛び出したのです。
「ちーちゃん!!待って!!」
私は叫びながら外に飛び出します。
ちーちゃんは大声で叫びます。
「ママー!!」
階段の上にいた集団の目線が、
一斉にちーちゃんに集まります。
ちーちゃんは短い階段を
ダダダッと駆け上がります。
しかし私は・・・
階段の下で立ち止まりました。
そして集団を見つめます・・が・・
サチさんがいるようには見えません。
(どういう事だ??)
ちーちゃんは走り続けます。
そして・・・
「ママー!」と言いながら、
一人の女性に抱きつきました。
サチさん・・・?
サチさん・・・だ。
まるで『別人』
間近で見てもわからない程。
音楽やダンスのサークルだから?
髪型も化粧も服装も
まるで違う。
普段から可愛らしい人でしたが、
しかし・・これは・・・美しい。
ちーちゃんは
「ママ!ママ!」と甘え続けます。
よほど寂しかったのでしょう。
まぁとにかく!
サチさんが見つかってよかった・・
そう思っていたのですが・・・
「えっ!?サチちゃん子供いたの?」
周囲にいた金髪の女性が声をあげます。
・・場がシーンと静まり返ります。
(えっ?!サチさん?!子供がいる事・・・
みんなに言ってなかったのか・・?)
私も驚きましたが・・いや・・しかし・・
子供の存在を周りに伝える義務は無い。
・・・・そうですよね?
サチさんは何も言わず、
薄い笑みを浮かべながら、
ちーちゃん頭をなでています。
・・・・・・・
金髪の女性はさらに
みんなに聞こえる大きな声で言います。
「えっ子供いるの?マジーでーッ!?
ショック受けた人は多いと思うよ~?」
そう言いながら・・・・
金髪は男性陣をチラッと見つめます。
なぜそんな大声で言うんだ・・・?
ライバルを蹴落としたいのか?
この金髪女性の事はさて置き。
いや・・・私が驚いたのは・・・
周囲にいた男性陣全員が、
黙って下を向いてしまった事です。
全員ですよ・・・全員・・・・・
サチさんは魅力的だった・・
そういう事でしょうね。
そして一瞬うつむいた男性陣は・・・
今度は顔を上げて・・・・
揃って私をジッと見つめるのです。
(あっ・・・こ・この状況は・・・)
走ってきたサチさんの娘・・・・
それを後ろから追いかけてくる私。
これではまるで・・・
私が旦那さんや
彼氏のように誤解されてしまう。
私は振り返って、
車に向かって全速力で走り出しました。
しかしもう手遅れでしょう。
(やってしまった・・・)
サチさんの居場所を
私が壊してしまった。
急いで車に戻ると
私はダンゴムシになりました。
そして思い出しました・・・・・
むかーしむかーし
ある日の朝の台所。
パンが空を飛んだ時の事・・・
フワァ~
わ~
パン・・・・・
すると今度はお皿が飛んできました。
ビューン
・・・・・・・
そしてポスンと小さな音がする。
・・・パンが床に着地したのです。
パンは着地が上手・・・
音も静かでカラダも崩れていない。
でも・・・お皿は・・・・・
着地がヘタだから粉々。
かわいそうに。
ハッと気がついて・・・
台所を見渡すと・・・・・・・
先程まで台所に居た
母の姿がありません。
代わりに真っ赤な鬼がそこにいました。
お母さんはどこ・・・・?
鬼は私を引きずって、
お風呂場へ向かいます。
鬼はブツブツと呪文を唱えます。
クチデイッテモワカラナイカラ
クチデイッテモワカラナイカラ
お風呂場に着くと・・・・・
鬼は熱湯で私を洗ってくれます。
「熱い!」
「止めて!」
と私が必死にお願いしても、
鬼は止めてくれません。
こんな時です。
だんだん『自分の意識』が、
自分から分離していくんです・・・
むくむく
むくむくむくむく
むくむくむくむく・・・・・・
むむっ!?
これは一体・・・・・?
子供が熱湯をかけられているぞ。
「こりゃぁヒドイ・・・」
・・こうやって私は辛い時に、
『別の自分』を作り出して、
自分の心を守ってきたのです。
そうするとツライ出来事の全てが
まるで他人事。
いや・・・良く言えば
客観的に物事を捉えられるのです。
思い返せば私の人生は『自分だけ』では
抱えきれない事ばかりでした。
『色んな自分』が必要だったんです。
サチさんもそうだったんでしょう。
『母である自分』とは違う『自分』
『家族とは別の居場所』
心の安定のために、
それが必要だったんでしょう・・・
私は色んな事を考えながら
車内でダンゴムシを続けました。
十数分後・・・・・
サチさんとちーちゃんが戻ってきました。
お互いの第一声は同じでした。
「ごめんね」
お互い何度かごめんねを言い合いました。
それはいつものサチさんでした。
ポツポツと世間話をしながら・・
車で二人を 家まで送りました。
車の中でちーちゃんは
サチさんから離れようとしませんでした。
その後・・・・
ちーちゃんは一人
サチさんの地元に送られたらしい。
そこでお爺ちゃんとお婆ちゃんと
3人で暮らしているらしい。
・・・・・・・これが結末。
ああ・・・そうそう・・・・
昔のエライ人が
確かこんな事を言っていました。
「君たちの両親は君たちを生む前は、
今のようなつまらない人間じゃなかった」
子育ては得るモノも多いでしょうが、
失うモノも多いのでしょう。
社会人サークルは失敗でしたが・・・
もしサチさんに『母親の自分』の他に、
『楽しく過ごせる別の自分』があったら?
そこで心のバランスがとれていたら?
それはまた・・・
違う結末になっていたのかもしれません。
『子供は産んだけど
母親にはならない』
今の時代には・・
そういう『自分』を選択肢する
自由や権利ってのがあるんですよね?
ええ、わかっていますよ。
だから・・・・・・
「誰も悪くない」
そうなんでしょう・・・?ねえ?
おわり
明日の12月1日
このブログの本が発売します。
よろしくお願いします。