マウス実験 原因にホルモン「プロラクチン」
高崎健康福祉大(群馬県高崎市)の下川哲昭教授らの研究グループは29日、母親になった時に育児放棄(ネグレクト)するかどうかは胎児期に決まるというマウス実験の研究成果を発表した。胎児期に、母体からホルモン「プロラクチン」を適正に受容しないと、将来育児放棄する可能性が高いことが分かったという。研究成果は米国科学アカデミー紀要(電子版)に掲載された。
実験では、CIN85という遺伝子が欠損している「ネグレクトマウス」を使った。CIN85が欠損すると、授乳や保温など育児行動を促すホルモンと考えられている「プロラクチン」の分泌が低下する。正常なマウスと同様に妊娠・出産するが、育児を放棄してしまうため、生まれた子は2~3日後に死んでしまうという。
研究チームは、ネグレクトマウスと正常マウスについて、互いの卵管に胚(受精卵)を交換移植し、誕生した子が将来、妊娠・出産した後に育児をするかどうか観察した。その結果、ネグレクトマウスから生まれたマウスは強いネグレクト傾向が確認された。一方、CIN85の欠損がない正常なマウスから生まれたマウスは正常に育児をした。
また、妊娠後期のネグレクトマウスにプロラクチンを投与し、生まれたマウスを「里親マウス」に育てさせると、親になった時に73%が育児行動を示したという。一方、妊娠後期に生理食塩水を投与したネグレクトマウスの子のうち育児をしたのは30%にとどまった。
妊娠中の正常マウスにプロラクチンの分泌を抑制するブロモクリプチンを投与すると、その子は育児行動を示さなかった。下川教授は「今回の成果を応用して、人におけるネグレクト発生のメカニズムを明らかにしたい」と話している。【山本有紀】