2017.11.24

ライフ・ソーシャル

バカ世界一のクリスマスツリー:ロックフェラーセンターと神戸の違い

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/世界恐慌の最中、貴重な植物園の木々を倒し、そこにビルを建てることで、失業者たちは仕事を得て、冬を越えることができた。その感謝を、工事現場の労働者たちは一本の木を飾り付けて祝い祈った。それがロックフェラーセンターの世界一のクリスマスツリー。他方、その意味もわからず、MBWのように見た目だけサルまねをして、神宿る古木を切り倒すようなバカ者には、かならず災いが訪れる。/

/世界恐慌の最中、貴重な植物園の木々を倒し、そこにビルを建てることで、失業者たちは仕事を得て、冬を越えることができた。その感謝を、工事現場の労働者たちは一本の木を飾り付けて祝い祈った。それがロックフェラーセンターの世界一のクリスマスツリー。他方、その意味もわからず、MBWのように見た目だけサルまねをして、神宿る古木を切り倒すようなバカ者には、かならず災いが訪れる。/


 うちの大学もいいように乗せられ、カネを出させさせられているらしい。それで、学生たちにも紹介したんだが、どうも評判が悪い。どこかおかしい。神戸開港150年記念事業の関連事業として神戸市の賛同を得て、富山から樹齢150年の生木を引っこ抜いて来て、「輝け、いのちの樹」とか言って、神戸メリケンパークに12月2日から26日まで、有名なロックフェラーセンターよりでかい「世界一」のクリスマスツリーに仕立てるんだと。底が浅くて、悪趣味。世界一バカなだけ。意味もわかっていない後追いのサルまねは、世界に恥を晒し、大きな責任問題になるだけ。

 ロックフェラーセンターのクリスマスツリーは、いまから百年前、ニューヨークのメトロポリタンオペラが、新しい、大きな劇場を必要としたことがきっかけだった。しかし、当時すでにニューヨークは大都会となりつつあり、空いている土地など無く、地価も法外に高く、どうにもできない。この窮状を夕食会で聞き及んだ大富豪JDロックフェラーが、地域の文化振興のため、自分がなんとかしよう、と乗り出した。それも、彼が考えたのは、ラジオ放送が可能な、新時代を先取りするエンターテイメント・メディアコンプレックス、「ラジオシティ」だ。

 と言っても、空いている土地そのものが無い。唯一、可能性があったのが、コロンビア大学の庭園。ここは、1801年にできた、米国最初の植物園だった。交渉は容易ではない。くわえて折悪しく、ちょうどヨーロッパの第一次大戦後の惨状の裏返しで、遠く離れ、戦争の影響を免れた米国は好景気に沸き、とくにその中心、ニューヨークには次々と超高層ビル「スカイスクレイパー」が林立。建設費は飛躍的に高騰し、ロックフェラーのラジオシティ計画は困難を極めた。

 だが、1929年10月、バブルが崩壊し、世界恐慌へ。あれほど工事だらけだったニューヨークは、翌30年、静まりかえり、うなだれた失業者たちが街に溢れかえった。もちろん、ロックフェラーも、地獄の底が抜けるほど、損失を被った。ところが、彼は、街のあまりの惨状を見て、庭園を持つ大学と話し、全財産、全使命を賭け、恐慌の前に構想されていたラジオシティ計画をそのままあえて強行したのだ。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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