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ボディサスペンションで結婚式 「身体改造」のクレイジーな世界

ジャーナリスト、ケロッピー前田が徹底解説

「ボディサスペンション」をご存知だろうか。自らの体にフックを刺して吊り上げる、「身体改造」と呼ばれる行為の一種だ。10月にTBS系「クレイジージャーニー」で紹介されるやネットは騒然。反響を受け、11月29日放送(夜11時56分〜)の総集編でも取り上げられることになった。番組でナビゲーターを務めたジャーナリストのケロッピー前田さんに、ボディサスペンションの起源や魅力を聞いた。

「モダン・プリミティブズ」の衝撃

――ボディサスペンションが注目されるようになったきっかけは。

1989年に刊行された「モダン・プリミティブズ」という本のなかで、ファキール・ムサファーという人がボディサスペンションを実践してみせたことが大きいですね。

もともとアメリカ先住民の「サンダンス」と呼ばれる儀式で行われていたサスペンションを、彼は現代医学に基づいて衛生的な形で復興した。

「身体改造は世界中で古くから行われていて、人間の本質的な願望である」と。そういう方向性を打ち出したわけです。

タトゥーやピアスを含めた身体改造が世界的に流行するきっかけになった本で、僕自身この本でサスペンションを知って、強烈な印象を受けました。

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地面から離れる瞬間はドキドキ

――初めて生で見たのはいつごろですか。

1999年にアメリカのサンディエゴで見ました。DJやファイヤーダンスなんかの出し物があって、フィナーレに20代ぐらいのガタイのいい男の人が吊られて。

当時はまだ珍しくて、集まった人たちも初めて見る人が多かったので、会場の熱気がすごかったです。

――ご自身でも体験されていますね。

2001年にカナダで初めて体験しました。背中に4つぐらいフックをつけて、5分ぐらいだったかな。

体が宙に浮くというのは日常にない感覚。足が地面から離れる瞬間は一番ドキドキしますね。サスペンションでなければ味わえない感動があります。

「痛み」の経験性

――痛くないんですか?

フックを刺すときは痛い。でもキレイに刺さってしまえば、吊られている時には痛みは感じませんよ。

体の力を抜いて、深く呼吸をする。抵抗せずに身を任せるようにすると、体が勝手に耐えてくれて、持ち上がっていくので。

――吊り方も様々だとか

背中で吊る「スーサイド」「スーパーマン」や、お尻で吊る「アストロノーツ」、座禅のような「ロータス」など色々ありますね。

――ハーネスとかで吊り上げるのではダメなのでしょうか。

「ブランコでいいじゃないか」という人もいますが、全然違う。やはり「痛み」の経験性というのが非常に大きいと思います。

身体の潜在的な力を最大限に引き出す。自分の身体と向き合い、再発見するんです。

空飛ぶ新郎新婦

――これまで見たなかでもっとも印象深かったサスペンションは。

少なくとも1千人以上のサスペンションを見てきました。なかでも特に印象に残っているのは、2001年にラスベガスであった「サスペンション結婚式」です。

新郎新婦は背中で吊られて飛んでいるし、神父役の人も空中で「汝は愛することを誓いますか」なんてやっているし(笑)

屋外の開催で広大な砂漠みたいな場所だったので、「マッドマックス」みたいな雰囲気がありましたね。

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「潜在能力を再発見」

――サスペンションをする人たちの動機はどんなところにあるのでしょう。

経験性を重視する人もいれば、美的にキレイに吊られたいという人もいます。

なかには性的な興奮を感じる人もいるでしょうが、どちらかと言えば瞑想や悟りといった感覚に近いのではないでしょうか。

たとえばピアスも、『モダンプリミティブズ』以前はSMなどの性的な文脈で捉えられることが多かった。

しかし、ファキールによって「失われた原始性を取り戻す」「痛みを受け入れ潜在能力を再発見する」という、身体改造の儀式性や深い部分が注目されるようになりました。

サスペンションにも通じるものがあると思います。

会場はアルコール禁止

――どのようにして安全や衛生を管理しているのでしょう。

身体や気持ちの準備ができていないのに上げるということはありません。1人を吊る際には、ノウハウを持った数人のスタッフが周囲で様子を見守っています。

呼吸が苦しいとか、出血があって身体のコンディションが良くない場合なんかは、吊る前にストップがかかります。

お酒を飲むと出血しやすくなるので、サスペンション会場はアルコール禁止です。

肌に突き刺すニードルは使い捨てで、フック部分も滅菌・消毒済み。スタッフはマスクと手袋を着用し、血液や体液が付着する可能性があるところは養生しています。

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美的な欧州、派手な米国

――サスペンションが盛んな国は。

ノルウェーは総本山のような感じです。あとはアメリカも盛んですね。美的なロープワークを追究するヨーロッパに対して、米国はもっと大きくて派手な印象です。

サスペンションがひとつのカルチャーとして成長・成熟してきているので、これからますます面白いものが出てくるのではないかと楽しみです。

――タトゥーなど後に残る身体改造に比べると、サスペンションの方が1回性という意味ではハードルが低いのでしょうか。

スポーツでいうと種目が違うというか…。タトゥーがマラソンだとしたら、サスペンションはバンジー・ジャンプみたいな感じでしょうか。

体験して面白く、見ていて面白いというところも似ている。サスペンションはエンターテインメントとしてステージショーも行われていますから。

「現場に行くとまみれちゃう」

――サスペンション以外にも、様々な身体改造を実際に体験されていますね。

1992年に白夜書房の「ニャン2倶楽部」という雑誌の創刊に携わり、自分でピアスを入れる体験取材をしたのが始まりです。

それ以降もタトゥー、トランスダーマル・インプラント(皮膚下に台座を埋め込み皮膚の上に装飾を固定する)、スキン・リムーバル(皮膚の一部を剥がす)、カッティング(皮膚を傷つけ模様を描く)、ブランディング(焼印)、サブインシジョン(性器に切れ込みを入れる)などを体験してきました。

頭蓋骨に穴を空ける「トレパネーション」に挑戦しようとしたこともありますが、これは断念しました。医療の領域なので、厳密には身体改造とは言えないと思いますが。

――なぜそこまでやるのですか。

取材対象なんだけど、現場に行くとまみれちゃうというか、関与しちゃうんですね。あとは、人がやっていないことに興味があるわけですよ。

雪が降った後、誰も歩いていないところにわーっと足跡をつけるのって楽しいじゃないですか。

まだ人が経験していない、無垢な感じのものをやってみたい。未来の先取りをしたいんです。

スマホが体内に?

――「未来」ということでいうと、今後デバイスを体内に埋め込むような身体改造が盛んになっていく可能性はありますか。

利便性を求めて、スマホのような機能を持ったものを体内に埋め込むということが実現する可能性はありますね。実際に、機器を自作して埋め込む実践者たちも登場しています。

大手のIT企業も、今後はそういう方向に力を入れていくかもしれない。ただ、そこには管理されるような気持ち悪さもありますよね。

カウンター・カルチャーとして身体改造をやっている人たちは、大企業や国家が管理するような埋め込み機器は求めていないはず。

自分たちで開発・プログラミングした機器を埋め込むことで、人間の外見や性能をドラスティックに変革することを模索していくのではないでしょうか。

(ケロッピー前田/前田亮一) ジャーナリスト。1965年、東京生まれ。千葉大学工学部卒業。白夜書房(コアマガジン)を経てフリーランスとなり、「ブブカ」「バースト」などで執筆。著書に過去20年の海外取材の成果をまとめた『クレイジートリップ』(三才ブックス)、『今を生き抜くための70年代オカルト』 (光文社新書))など。山本英夫の漫画『殺し屋1』『ホムンクルス』に資料を提供。ノイズ・インダストリアル系バンド「ツァイトリッヒ・ベルゲルター」の元メンバーでもある。


Ryosuke Kambaに連絡する メールアドレス:ryosuke.kamba@buzzfeed.com.

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